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第九章 対立編
623話 ルリーの過去⑰ 【魔導学園へ】
しおりを挟む……たった一人で身を隠して、逃げ続ける……それは難しいことだけど、不可能じゃないと思えた。
私は今までずっと、森の……自然の中で生きてきたんだ。
魔法だって、使える。その気になれば、どこでだって生きていけるはず。
そう思っていた……でも、それは甘かった。
食べ物も、寝るところも……人に見つかってはいけないと、神経をとがらせているのも。
なにより、独りでいるのがこんなにつらいと、思わなかった。
「……これから、どうしよう」
お母さんや、お兄ちゃんの最後の言葉……私に、生きてと言っていた。
だから、生きなきゃいけない……でも、この先どうすればいいのか、私にはわからない。
そんな気持ちを抱いて、日々を過ごしていく。誰と関わることもなく。
でも、ずっと一人でいるにも、限界があった。
「……これなら、大丈夫かな」
だから私は、道端に落ちていたフードを手に取って……頭に、被った。
ダークエルフだとバレなければ、あんな扱いを受けることはない。そう思ったからだ。
試しに、その状態で人里に行ってみた。
「……」
結果として、私がエルフ族だとバレることはなかった。
だけど、その日は暑かったこともあり……頭からすっぽりとフードを被っている私を、みんな不審そうに見ていた。
注目を浴びれば、それだけ正体がバレる可能性が高くなる。
たとえば、こう……フードを被っていても、みんなが注目してこなくなるようなものがあればいいんだけど。
はは、そんな都合のいいもの……
「なあ知ってるか? 魔導大国のベルザ国に、魔導学園ってものができたらしいぜ」
「魔導学園? なんだそりゃ」
「?」
人々の目には注意しないけど、ずっと独りだったからどこか安心する……そう思っていた時。
歩いている人たちの会話が、耳に入った。
魔導大国として有名だというベルザ国がある。私は知らなかったけど。
なんでも、その国に魔導学園という、その名の通り魔導を学び鍛える学園ができたらしい。
しかも、だ。その学園を首席で卒業した人物が、エルフ族だという。
確か……グレイシア・フィールド、と。村でお母さんから聞いたことがある名前だ。
「エルフが……すごい」
エルフが、人間やいろんな種族の居る国で、学園で、そんなすごいことを成し遂げている。
それは、私にとっては一つの希望であるとも思えた。
もしかしたら、その国ではエルフ族と人間が、仲良くしているのかもしれない。
「……」
今私が、この場でフードを取れば……とんでもない騒ぎに、なってしまう。
私がエルフ族だから。ダークエルフだから、誰も話すらしてくれない。
でも、私がエルフ族じゃないと思っている人は……顔を隠した状態なら、ちゃんと話をしてくれる。
エルフだと、バレなければ。
「……よし」
決めた。私は、そのベルザ国に行って、魔導学園に入学する。
聞いた話だと、そのグレイシア・フィールドって人はエルフでありながら、あちこちでいろんなことをやって人々から尊敬されているらしい。
もしも私が、魔導学園に入学して、すごい魔導士になったとしたら……みんな、ダークエルフへの認識を改めるかもしれない。
「どうせ、やることもないんだし」
このまま生きるとしても、生きる目的がないと思っていた。
ならば、その学園に入学して、なにかすごいことをやって……というのは、なかなかいいかもしれない。
私は魔導が好きだ。だから……
もちろん、入学するときは正体を隠しておかないと、入学すらさせてもらえない。
すごい魔導士になったときに、正体を明かす! これだ!
「……よしっ」
その日から私は、ベルザ王国を目指して旅を始めた。
とはいえ、地図なんかはない。どこかで手に入れようにも、地図というものは高いし、需要もあるからいろんな人が求める。
なかなか手に入るものじゃない。
だから人に方角を聞いて、当たりをつけて、歩いて行く。
どれほどの時間が経ったのか、数えるのも嫌になるくらいだ。
「はぁ、はぁ……」
旅を続けて、いろいろなことがあった。
私の正体がバレて大騒ぎになったり、目的地に向かっていると思ったら真逆に進んでいたり……
それでも、諦めずに前に進んだ。それでも、寂しい夜はある。
眠れても、あの日の出来事が悪夢としてよみがえる。
独りがつらくて、何度も泣いた。それでも、私は……
「……あれ、かな」
……がむしゃらに、旅を続ける日々。そんな中で、ある日ようやく、変化が訪れた。
目の前に広がるのは、大きな国だ。ここが、ベルザ国。
私は、被っていたフードを目深に被る。
これは、認識阻害の魔導具。正体を隠せるのはもちろん、ただのフードとは違ってフードを被っていても不審には思われない。
これは、以前訪れた場所で買ったものだ。
というのも、国というのは入国審査が厳しい。その際、普通のフードだったらすぐに正体がバレた。
でもこれなら、その心配はない。
「……ふぅ。行こうか」
自分の頬を両手で叩いて、気合いを入れる。
まだ、人間は怖い。でも、このままじゃいけない。
それに、私がここで有名になれば、お兄ちゃんやリーサちゃんが私を見つけてくれるかもしれない。
緊張と、でもそれ以上に魔導が好きな私は。ゆっくりとベルザ国へと、足を進めた。
……この国で私は、運命の出会いをすることになる。
私を助けてくれて、ダークエルフだと知っても友達だと言ってくれて……今はもう、ダークエルフのためだとか魔導を学ぶとか以外に。
この人と……エランさんと離れたくないという気持ちが、かなり強い。
それに、他にも友達ができた。といっても、ダークエルフだとは知らずに接している人たちばかりだけど……
いつか……みんなにも、私の全部を打ち明けて、受け入れてもらえたら、いいな。
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