上 下
626 / 739
第九章 対立編

614話 無茶なこと

しおりを挟む


「あぁあああああああああああああああああああ!!?」

 雷撃に撃たれ、ルリーはたまらず悲鳴を上げた。
 バリバリと身体中を流れる電流は、ルリーから思考能力を奪っていく。魔法のイメージは途切れ、創造していた足場が消失する。

 意識が朦朧とする中で、ルリーは攻撃の出どころを確かめるために視線を動かした。

「……っ」

 電撃は、クレアの杖から放たれたものだ。
 クレアの杖は、視線は、まっすぐにルリーを捉えていた。

 彼女がイメージしたのは、電撃。雷とも見間違うほどのそれは、一瞬のうちにルリーを包み込んだ。
 これほどの強力な魔法、イメージできても具現化する魔力がなければ、不発に終わる。

 しかし、クレアはそれをやってのけた。

「あぁあ……!」

 足場が崩れ、空中に留まる術など持たないルリーは、その場から落ちる。
 雷撃に撃たれ、考えるための思考を削り取られ、力の抜けた体は真っ逆さまに地面へと落ちていく。

「ルリーちゃん!」

 その光景を見て、たまらず声を上げるのはエランだ。
 結界内だ、あの高さから落ちても死ぬことはない。たとえ当たりどころが悪くても。

 だが、当たりどころが悪ければダメージは反映されなくとも、そのまま気を失い戦闘不能になる可能性はある。
 そうなれば、ルリーはこの国を出ていかなければいけない。

「……くっ」

 薄れゆく意識の中、ルリーは必死にイメージを働かせる。
 まだ体は痺れるし、熱い。火傷だってしているかもしれない。いや、結界の中だしそう思っているだけだろうか。

 なんにせよ、このままやられてしまうわけにはいかない。
 ルリーは丸め、地面に背を向ける。同時に杖を振るうと軽めの風を起こし、落下速度を低下させた。

「あたっ」

 それでも、完全に勢いを殺すことはできず、地面に背中を打ち付けた。少し痛い。
 だが、逆にこの軽めの痛みが、ルリーの意識を復活させた。

 ゆっくりと、しかし素早く身体を動かす。
 まだ多少の痺れはあるが、動けないほどではない。

「往生際の悪い……あのまま気絶してればよかったものを」

「普通の魔法で、あの威力……凄まじいですね」

「別に嬉しくないわね」

 静かに深呼吸し、クレアはルリーを見つめた。
 その視線に、ルリーは背筋が凍るのを感じた。ただ見つめられただけ……睨まれたわけでもないのに。

 なぜこんなにも、胸が締め付けられるのだろうか。

「思ったんだけど」

「?」

 クレアは、口を開いた。

「この身体……結構、無茶なことにも耐えられそうなのよ」

「な、なんの話です?」

「こういう、こと!」

 その瞬間、クレアの身体から溢れる魔力が増大する。
 ピリピリと、肌に触れてもいないのに静電気が走っているような感覚だ。

 クレアは、自身の魔力を身体へと纏わせる。身体強化の魔法だ。
 ……身体強化の魔法は、身体に纏わせる魔力が多くなればなるほど、当然効力も上がる。威力も、速度も。

 もちろん、魔力を増やすとそれだけ身体への負担も大きくなる。

「! く、クレアさんっ?」

 それに加え、クレアは全身へと魔力を迸らせる。
 元々、クレアは魔力による全身強化はできない。しかし自分の身体への負担を考えなければ可能だ。

 部分強化は誰でもできるが、全身強化はそれを極める必要がある。そのために必要なのが、膨大な魔力量だ。
 魔力の扱いに長けていても、全身に回す分の魔力がなければ全身強化には至らない。あるいは、数秒と持たない。

 つまり、全身強化は膨大な魔力さえあれば、使用することは可能なのだ。
 ……身体への負担を考えなければ。

「だ、だめです、クレアさんっ」

 クレアは今、その身体への負担を強いる方法を使っている。
 身体強化を極めていないうちに全身強化をするとなれば、それは予想以上の負担がかかる。

 身体強化は、部分強化から全身強化へと徐々に身体を慣らしていくもの。
 しかし今のクレアは、水道の蛇口を一気に捻っているようなものだ。

 噴き出す膨大な魔力は、身体を強化させる代わりに強大な負担となる。
 そのはずだ。

「っはは、これ、なんともないわ……いよいよ持って、私の身体どうかしちゃったのかもね」

 しかし、クレアは平然と、むしろ笑みさえ浮かべていた。
 本来ならば身体への負担が半端ではないはずだ。だが今のクレアの身体は、感じるべき負担を感じない。

 身体を鍛えていれば、あるいはそういうこともあるかもしれない。
 残念ながら、そういった真っ当な身体ではないことに、クレア自身が気づいている。

「クレアさ……」

「遅い!」

「!」

 まるでその場から消えたかのように、クレアの姿は……まばたきの合間に、ルリーの眼前にあった。
 放たれる拳は、顔面を狙っている。ドクドクと、心臓が脈打つ。

 拳が、顔面に触れる……その寸前、ルリーはさっと顔を右方向へと避ける。チリッ、と頰が熱く擦れる。
 まさか避けられるとは思っていなかったのだろう。驚くクレアに少しばかりの隙ができ、その隙をルリーは見逃さない。

 最小限の動きで拳を避けたルリーは、その顔を勢いよくクレアへと振りかざす。
 クレアの額に、頭突きをおみまいしたのだ。

「っ、いっ……!」

 反撃されるにしても、上半身のどこかだと気を向けていたクレアは、予想外の場所への痛みに悶絶する。
 魔力で強化しているのか、それとも素なのか……石頭と呼べる代物だ。

 さらにルリーは身を屈め、がら空きのボディへ二、三発拳を打ち込む。
 そして……

「はぁ!」

 腹部に手をかざし、超至近距離で魔力弾を放った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

せっかく転生したのに得たスキルは「料理」と「空間厨房」。どちらも外れだそうですが、私は今も生きています。

リーゼロッタ
ファンタジー
享年、30歳。どこにでもいるしがないOLのミライは、学校の成績も平凡、社内成績も平凡。 そんな彼女は、予告なしに突っ込んできた車によって死亡。 そして予告なしに転生。 ついた先は、料理レベルが低すぎるルネイモンド大陸にある「光の森」。 そしてやって来た謎の獣人によってわけの分からん事を言われ、、、 赤い鳥を仲間にし、、、 冒険系ゲームの世界につきもののスキルは外れだった!? スキルが何でも料理に没頭します! 超・謎の世界観とイタリア語由来の名前・品名が特徴です。 合成語多いかも 話の単位は「食」 3月18日 投稿(一食目、二食目) 3月19日 え?なんかこっちのほうが24h.ポイントが多い、、、まあ嬉しいです!

自由気ままな生活に憧れまったりライフを満喫します

りまり
ファンタジー
がんじがらめの貴族の生活はおさらばして心機一転まったりライフを満喫します。 もちろん生活のためには働きますよ。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

処理中です...