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第九章 対立編

601話 決闘当日

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 ……カーテンの隙間から差し込む光が、私の顔を明るく照らす。
 すでに目が覚めていた私は、日差しに少し鬱陶しさを感じながらも、ゆっくりとベッドの上で起き上がる。

 昨夜、一人で中庭で涼んだ後私は、部屋に戻った。
 すでにルリーちゃんとナタリアちゃんは眠っていて、私は二人より寝るのは遅かったけど……二人より、早く目覚めた。

 私は昨夜は、ルリーちゃんのベッドで寝させてもらった。二段ベッドの上だ。
 隣を見ると、ルリーちゃんがすやすや眠っていた。

「……今日か」

 今日、ルリーちゃんとクレアちゃんが決闘をする。
 この三日の間、特にルリーちゃんは特訓とかはしていなかった。そしておそらく、クレアちゃんも。

 どうしてかは、聞かなかった。聞くことでもないと思ったから。
 それが、どういう結果を生むかはわからない。ただ一つはっきりしているのは……

 今日、ルリーちゃんがこの国を去ってしまうかもしれない、ということだ。

「んぅ……ふぁ、は……っくし……
 あ、あれ……エランさん?」

「おはよう、ルリーちゃん」

 寝ているというのにかわいらしいくしゃみをしたルリーちゃんは、ゆっくりと目を開ける。
 まだ寝ぼけ目だけど、頭をそっと撫でてやる。気持ちよさそうに目をつぶっていた。

 それから、ナタリアちゃんも起きて三人で食堂へ。
 学園は休みだけど、食堂は開いている。とはいっても、以前に比べて人は減っているけど。

 あたりを見るけど……やっぱり、クレアちゃんの姿はないか。

「さ、ルリーちゃんしっかり食べて。この後のために、体力つけとかないと!」

「は、はいっ」

 魔導をちゃんと使うためには、体力を付けておかないとね。
 見た感じよく眠れたみたいだし、あとはご飯だ。お腹が空いては、力が出ない。

「やあ、ラン」

「あ、サリアちゃん」

 食事をしていると、声をかけられた。サリアちゃんだ。
 手にはなにかが入ったタッパーを持っており、それがクレアちゃん用のご飯なのだということがわかる。

 食堂でご飯を詰めてもらったり、購買で買ったりしているみたいだ。

「リーとタリアも、やっほ」

「おはようー」

「お、おはようございます」

 相変わらず独特的なあだ名で、それぞれに挨拶をしていく。
 元々ナタリアちゃんとサリアちゃんは、同じ組で面識がある。そして最近のやり取りで、一気に距離が縮まった感じだ。

 今日は、クレアちゃんが決闘をしに部屋を出る。こおれまで部屋にこもっていたクレアちゃんが部屋を出ることに、サリアちゃんは当然驚いていた。
 でも、その理由を追求しないでくれた。
 理由が理由だけに、説明しにくいことだからな。あんまり嘘をついたりごまかしたりもしたくないから、助かった。

「ぷはぁ、ごちそうさまでした」

「おぉ、いつもより食べたじゃないか」

「は、はい。もうお腹いっぱいです」

 いつもよりも多くの量を食べ、ルリーちゃんは膨れたお腹をポンポンと叩いていた。
 少し休憩してから、移動することにする。

 決闘の時間は、お昼より前。その時間に合わせる形で、私たちも移動する。
 すると……

「ところで、先生から結局場所は聞いてないけど……」

「お、ちょうどいいタイミングだったみたいだな」

 ちょうどそのタイミングで、ウーラスト先生がやってきた。
 先生の知り合いの人に頼んで、決闘の場所を貸してもらったのだ。だけど、そこがどこなのか、まだ先生に聞いていない。

「さて、じゃあ早速案内するが……アティーアちゃんは?」

「クレアちゃんは……」

 私たちが決闘の場所を知らないのだから、クレアちゃんが知っているはずもない。
 クレアちゃんは、場所がわかったあと私が案内すると言ってある。

 一緒にこの場にいれば、手間が省けたんだけど……ルリーちゃんとは、顔を合わせたくないようだ。

「場所を教えてもらったら、私が案内するように言ってるんだけど」

「そうか……けど、オレオレたちと決闘場所に行って、それからアティーアちゃんを迎えに行ってたら手間になるよな。
 だったら……」

 少し考えたあと、先生は魔導の杖を取り出して魔力を練り上げる。
 すると、地面に魔法陣が出現する。それは青白く光、光の中から……いや地面の下から、なにかが現れる。

 この魔術は、見覚えがある。
 一度サテラン先生に見せてもらった。そして今は私もできる魔術。
 使い魔の、召喚魔術だ。

「プルルッ」

「うわぁ、かわいい!」

 現れたのは、小さな鳥だ。
 その場で羽ばたき、私の方の上に乗った。なんてかわいらしいんだろう。

「オレオレの使い魔だ。案内はそいつに任せるから、エランちゃんはアティーアちゃんを迎えに行ってあげて」

「わかった」

 使い魔と術者は契約で繋がっている。だからその場にいなくても、この子が先生の通った道を案内することは可能だ。
 この子の頭を撫でながら、私はクレアちゃんを迎えに別行動を取る。

 クレアちゃんの部屋に行くと……すでにクレアちゃんは着替え、準備ができているようだった。
 ただ……以前まであった、クレアちゃん独特の明るさは……まったく、なくなっていた。

「……じゃあ、行こうか」

 私の姿を確認したクレアちゃんが、小さくつぶやいた。その声は、確かに私に聞こえた。
 私たちは部屋を出て、先生の使い魔ちゃんの案内に従って足を進めていく。

 学園の外に出て、町中を歩き……国の外に、出る。
 近くの森、そのさらに向こうに……目的の場所が、あるのだ。
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