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第八章 王国帰還編

596話 決闘場所と日時

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「はぁ……なんか疲れた」

 ルランと再会して、話をして……そう、いろいろ話をして。
 なんというか、疲れてしまった。ルリーちゃんのお兄さんなんだから、仲良くしたいんだけどな。

 どうにも、人間に対してみんな敵、という気持ちは変わらないようだ。
 それでも、初めて会ったときに比べたらマシに思える。

 ルリーちゃんが人間と関わることを良しとせず、クレアちゃんとの決闘に負けてこの国を去る……それを望んでいる。
 けれど、自分がルリーちゃんを説得しようとは、思ってないんだよな。
 あくまでルリーちゃん本人に決めさせようとしてる。

「ただいまー」

「あ、エランさん」

 トイレから戻ってきた私は、ガララ……と教室の扉を開ける。
 中では、ルリーちゃんとナタリアちゃん。そしてウーラスト先生が戻ってきていた。

「おかえり。遅かったね」

「あー……」

 そっか、ルランと話していたから、ただトイレに行っていたにしては遅くなってしまったのか。
 遅くなった理由として、まさかルリーちゃんのお兄ちゃんに会っていた、なんて言えないしな。

 ルリーちゃんなんか、お兄ちゃんが生きていることは知っているけど私度何度か会ったことなんて知らないわけだし。

「いやあ、なかなか大きいのが出なくてね」

「……あ、あぁ、そう」

 なので、適当にごまかすことにする。
 その瞬間、場の空気が凍った気がした。

「あの……あまりそういうことは、人前では言わないほうが、良いと思う」

「うん?」

 とても気まずそうに、反応をされた。なんなんだいったい。

「それより、先生は戻ってきてたんだね」

「それより……あぁ、うん」

 先生が戻ってきているということは、決闘に関していろいろと手配できたのだろうか。
 先生は一度咳払いをして、私たちを見回した。

「事が事だけに、さすがに学園の敷地内でっていうのは難しくてね。
 だから知り合いの伝手で、決闘をするにあたってとある施設を借りられることになった」

「おぉ」

 決闘をするってなったら、その話がどこから広がって大きな事になるかはわからない。
 そうなれば、ルリーちゃんがダークエルフだってバレちゃう可能性も高まるし。

 だから、誰にも知られない場所でっていう条件が欲しかった。先生は、知り合いに頼んでそういった場所を使わせてもらえることになったらしい。

「場所は、この国からは出ることになるんだけどね。その分、誰に見つかる心配もない。存分に暴れていい場所だ」

 この国の外、か。
 まあ国内でドンパチやってたら、決闘してますって知らせなくても騒ぎを聞きつけて誰かしら来ちゃいそうだもんね。

 先生の知り合いっていうなら、場所も問題はないのだろう。

「場所は確保できた。日時は、本人たちの都合のいい時でいいって話だ。
 その場所は、今は使われてない場所らしいから」

「いつでも使えるってことか。
 ……ルリーちゃん、どうする?」

 場所が確保できれば、あとは日時だ。これに関しては、私たちはなにもできない。
 本人たちの意見を聞いて、決めるだけだ。

 ルリーちゃんは少し考えた様子を見せて……

「……私は、クレアさんの都合の良い日でいいです」

 そう、言った。
 クレアちゃんの良いと言った日、か。多分、遠慮もしてるんだろうな。

 体調を考えれば、ルリーちゃんよりも今のクレアちゃんは弱っているはず。
 全快に近い形にまで持っていくには、時間がかかるはず。だから、クレアちゃんに決めてもらおうというのだ。

 クレアちゃん自身なら、自分の体調のことはわかるはずだから。

「じゃあ、私からクレアちゃんに伝えておくね」

「あぁ。二人とも、体調は万全にして挑んでくれ」

 いよいよ、二人の決闘の時が近づいている。
 なんだか、私がドキドキしてきちゃった。今から決闘をするわけでもないのに。

「先生、わざわざありがとうございます」

「気にすることはないよ」

 先生にお礼を言っているルリーちゃんを横目で見ながらも、私は何度か深呼吸を繰り返していた。
 今からこんなんじゃ、当日までもたないよ。大丈夫かな私。

 とりあえず場所については、また後日ということで今日は解散となった。
 私は一人、クレアちゃんのところへと向かう。本当なら、ルリーちゃんも来たいとは言っていたけど……

 今二人が、直接会わなくても話をすることになったら……きっと、もっと気まずくなってしまう。

「クレアちゃん、来たよ。決闘のね、場所が決まったの」

 クレアちゃんの部屋に行き、またサリアちゃんには席を外してもらう。
 そして、簡単に話す。決闘の場所が決まったこと、詳細はまだわからないけど、先生の伝手でその場所を確保できたこと。今は使われてない場所であること。

 そして……日時については、クレアちゃんが決めていいこと。

「……そう」

 一通りの説明を聞いて、クレアちゃんは短くそう言った。
 ずっと返事がなかったから不安だったけど、ちゃんと聞いてくれていたみたいだ。ほっ。

 さて。今の話を受けて、クレアちゃんは決闘日をいつにするのか。

「クレアちゃんの体調も、万全にしとかないと。ご飯はサリアちゃんが持ってきてくれてるみたいだけど、ずっと部屋にこもってたんじゃ体も悪くなるでしょ。
 まずは、外に出て体を慣らすところから……」

「……ない」

「え?」

「必要、ない」

 それは……力のこもった、強い言葉だった。
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