史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

文字の大きさ
上 下
606 / 851
第八章 王国帰還編

594話 暴力女

しおりを挟む


「あ、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 私は二人に断りを入れて、部屋を出る。
 先生がすぐに戻ってくるかはわからないけど、戻ってきたらまた四人でちゃんと話をしよう。

 ……それからトイレで、用を足す。学園のトイレなのに、人っ子一人見当たらない。
 やっぱりみんな、部屋に戻ってるんだろうな。校内にわざわざ来る人もいないだろう。

 まだこんな時間なのに、広い校内に一人きり……の気分にさせられる。
 なんだか、変な気分だ。

「ま、いいや。ルリーちゃんたちのところにもーどろ……」

「おい」

「……痴漢!?」

「んぐ!?」

 トイレから出て、みんなの待つ部屋に戻る……そのさなか、いきなり声をかけられた。
 トイレの前で待ち伏せされていたかのような男の声に、私はとっさに反応して声の方向へと拳を振るった。

 すると、拳はなにか……いや誰かに直撃に、顔面に私の拳を受けた誰かはその場に悶絶する。

「あ……ご、ごめん。つい反射的に……」

「は、反射的に鼻がつぶれるくらい、殴りつけるな……暴力女……!」

「あれ、その銀色の髪って……」

 膝を折り、顔を押さえるその人物は、多分ちょっと涙目になっている。
 うつむくその人物の頭を、私は見る。
 銀色の髪が、揺れている。

 それだけならば、まだどこにでもある特徴だ。
 だけど、覗く耳は尖っていて……その肌は、褐色だ。

 つまり……ダークエルフ。
 そして、聞いたことのあるこの声は……

「まさか、ルラン?」

「くっ……そ、そうだが……」

 鼻を押さえつつ、その人物……ルランは答える。
 そしてようやく私を見上げるその目には涙が浮かんでいて、押さえていても鼻からは血が流れている。

「うわぁ、めっちゃひっさしぶりじゃん! 今までどこにいたのさー。
 魔導大会以来だろうから、第五章以来じゃない? というか、久しぶりの登場なのに涙目鼻血ドバドバはかっこ悪くない?」

「ぐっ……なにを言ってるんだ。それに、誰のせいで……」

 そこにいたダークエルフ、ルラン。彼のことは、よく知っている。
 なんていったって、ルリーちゃんのお兄さんなのだ。そして、"魔死事件"を実際に起こしていた人物。

 ただ、ダンジョンで起こった事件と、ノマちゃんに危害を加えたのはこいつではない。レジーがやったことだ。
 もしもノマちゃんに手を出していたんだったら、即座に歯を折りに行っていたところだ。

「ごめんごめん。でもルランも悪いんだよ、いきなりこんなところで声をかけてくるんだから」

 ひと気のない、女子トイレの近く。
 そんな場所で声をかけられちゃったら、そりゃもう怖いよ。

「こんなか弱い私みたいな女の子もいるんだから、注意しないとね」

「か弱い……?」

「は?」

「……なんでもない」

 ともあれ、いきなりあんなにぶん殴ってしまったのは私の落ち度だ。
 次からは、ちゃんと確認してから殴るようにしよう。

 とりあえず、回復魔術で血だけでも止めてあげようか。

「よしっと。それで、なにかご用?」

 血を止め、私はルランに、ここにいる理由を聞く。
 今まで、会いたいと思っていた時も居場所がわからなかった。たいてい、コンタクトと取ってくるのは向こうからだった。

 つまり、ルランが私に会いに来たってことは、私に用事があるってことだ。

「まさか、これまでの罪を懺悔しに来た……わけでもないだろうし」

「……」

 これまでルランが起こした、"魔死事件"。ダンジョンとノマちゃんのものはレジーがやったが、それ以外はこいつがやったものだ。
 ただ、世間ではその全てをレジーがやったことになっている。

 ダークエルフ……ルリーちゃんのお兄さんが犯人だと言い出せなかった私。おあつらえ向きに、新しく事件を起こした人物がいて、そいつは罪を被せてもまったく心が痛まない奴だったこと。
 それらがかみ合い、とりあえずレジーが全ての犯人としたわけだけど。

 もちろん、それでルランの罪がなかったことにはならない。ちゃんと償わせる。
 ……ただ、今は状況が悪い。

「もしそうだと言ったら、お前はオレを捕まえられるのか?」

「……」

 こいつはまた……私の考えている、痛いところを突いてくる。

 これまでは、ルリーちゃんのお兄さんだからという理由でルランを捕まえるのを躊躇していた。
 でも、今は……ダークエルフという存在そのものの扱いを身に染みて感じた今となっては、ますます手が出せない。

 クレアちゃんですら、今まで仲良くしていたルリーちゃんを嫌っているのだ。
 ダークエルフが犯罪を起こし、それがバレれば……どういう扱いを受けるか、想像もしたくない。

「また自分の……いや、お友達とやらの保身の心配か。お優しいことだな」

「っ、なんの用」

 ルランは、私の気持ちを知って……手出しが出来ないのを知っているから、こんなに強気なのか。
 実際に惑わされている自分が、嫌になる。

 ルランは、私とルリーちゃんが友達であることを知っていて……それを、笑っているような人物だ。
 妹が大切なのは間違いないだろうけど、それはそれとして人間と仲良くすることを快く思っていない。

「いや、面白い話を耳にしてな。
 人間の"お友達"と決闘……負けたら、この国を去るらしいじゃないか。妹は」

 本当にどこから聞いてきたんだよ、こいつは!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...