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第八章 王国帰還編

591話 とんでもないことになった

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『私が勝ったら……あいつを学園から、いやこの国から追い出して』


「……これが、クレアちゃんの要求するものだよ」

 クレアちゃんの部屋から戻った私は、クレアちゃんの言ったことをルリーちゃんと先生に伝える。
 それを聞いて、ルリーちゃんは浮かない表情だった。

 それも当然だ、あんなことを言われたのだから。
 私に近づかないで、といった類いのことだと思っていた。

 まさか、国から出ていけなんて。

「要求……というか、条件と言えるね。この条件を飲めなければ、決闘をすることはないと」

「……」

 先生の言う通りだろうな。
 勝利の際に要求するそれはつまり、決闘をするための最低条件。

 これを飲まなければ、クレアちゃんは決闘には応じない。

「けど、まさかここまでのことを言うなんて。ルリーちゃん、やっぱりやめよう」

「エランさん……」

「ごめん、私が言い出したことなのに」

 クレアちゃんが要求するのは、ルリーちゃんに国から出て行けというもの。
 対してルリーちゃんは、クレアちゃんと話し合いの場を設けたいというもの。

 これじゃあわりに合わなさすぎる。
 もしくは、ルリーちゃんがもっと過激な要求をするとか……

「……いえ、やります。要求する内容も、変えません」

 だけどルリーちゃんは、首を振る。
 そして、この条件で決闘に望むと、そう言ったのだ。

「ルリーちゃん……でも」

「私には、他にいい手は思いつきません。せっかくエランさんが考えてくれたんです。
 それに……もしも私がここにいるせいで、ずっとクレアさんがあんな状態なら……ここから出ていくのも、仕方ないかなって思うんです」

 寂しげな表情を浮かべて、ルリーちゃんは言う。
 自分がいない方がいい……それほどまでに思いつめてしまっていた。それに気が付けなかったことが、私は悔しい。

 でも、そんなの嫌だ。

「みんながみんな、ルリーちゃんを……ダークエルフを嫌ってるわけじゃないよ。私やナタリアちゃんだって……」

「なら、私が正体を明かして……みなさんに受け入れてもらえると、思いますか?」

「……」

 その質問に……私は、答えられない。
 私は除くとして、ルリーちゃんが一番仲良しにしていたのが同室のナタリアちゃんか、クレアちゃんだろう。
 そのクレアちゃんに、拒絶された。

 なのに、ルリーちゃんとあんまり仲良くない子……まったく知らない子が、ルリーちゃんがダークエルフだと知ってどうするのか。
 考えなくったって、わかる。

「もちろん、エランさんやナタリアさんには……感謝してます。
 それでも、私の正体を知って、怖がる人がいるなら……私は……」

「ルリーちゃん……」

「でも、決闘をして、勝てば……少なくとも、話し合いの場は設けてもらえる。
 もしそこで、私のことを認めてもらえなくても、私はこの国を去ります」

 ……それは、固い決意だった。
 私の一感情だけで、どうこう言っていい問題じゃない。

 もしかしたら、クレアちゃんからの条件を聞く前から……認めてもらえなければ去ると、決めていたのかもしれない。

「……ごめん、もっといい方法があるのかもしれないのに」

「いいえ。クレアさんと相対する時間が出来た……それだけでも、とてもありがたいです。
 それに、"話"なら……決闘の最中でも、できますから」

 覚悟の決まった、顔だ。
 これ以上私がいろいろ言うのは、野暮ってものだろう。

 私は先生を見る。先生も同じ考えらしく、お互いにうなずいた。

「ならオレオレは、決闘の手配を進めようか。
 ま、決闘とはいってもエランちゃんやゴルドーラ王子の時のように大々的にやるわけじゃない」

 これは、普通の決闘とは少し違う。
 ダークエルフと、それにおびえる少女との。二人のぶつかり合いだ。

 二人の決闘を見守るのに、多くの人数はいらない。
 それに、決闘の最中にルリーちゃんがダークエルフだとバレれば、それこそ大騒ぎだろう。

「二人が暴れても問題ないような場所。
 見届人は、オレオレとエランちゃん、それから……」

「ナタリアちゃんも」

 ルリーちゃんの正体を知っていて、かつクレアちゃんとの現在の関係性も知っている人物。
 自然と絞られる。

「……私は、ルリーちゃんを応援したい。ルリーちゃんにこの国を去ってほしくないし、クレアちゃんとちゃんと話をしてほしい」

「……はい」

「でも、表立って応援するのは……」

「わかってます。クレアさんにどう思われてしまうか、わかりませんもんね」

 私の感情で言えば、クレアちゃんを応援する理由はない。クレアちゃんが勝てば、ルリーちゃんがここを出ていくのだから。
 二人とも友達なのに、片方をこうも邪険に考えてしまうなんて……ダメだな。

 先生は準備をすると言ってどこかへ行ってしまったし……私たちも、移動しよう。
 まずは、ナタリアちゃんに話をしに行こう。

 部屋を訪れると、すでに帰宅していたナタリアちゃんに事の顛末を説明した。
 ちなみにフィルちゃんは、ルリーちゃんが相手してくれている。

「……とんでもないことに、なったんだね」

 話を聞いたナタリアちゃんは、頭を抱えるようにしてなんとか言葉を絞り出していた。
 そうなる気持ちは、とてもよくわかる。

 けれど、二人が同意したことならと……ナタリアちゃんはそれを否定することなく、決闘を見届けることを約束してくれた。
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