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第八章 王国帰還編

590話 決闘へと

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「あ」

「おう」

 ルリーちゃんと話を取り付け、次はクレアちゃんに話を通すために私は、クレアちゃんの部屋に向かっていた。
 ルリーちゃんと先生も来るか迷っていたが、伝えるだけなら私だけでいいからと断った。

 今のクレアちゃんは、大人数で押しかけても出てこないだろう。
 なので私一人でクレアちゃんの部屋に向かっていたところ、部屋の前でサリアちゃんに会った。

「やっほー、ラン」

「やっほー、サリアちゃん」

 私のことを独特的に呼ぶサリアちゃんと軽く挨拶を交わして、その場でハイタッチ。
 クレアちゃんのルームメイトである彼女とは、いつの間にか意気投合した感じだ。

 それにしても……やっぱり、額から生えている角が気になる。

「レアに会いに来たの?」

「! うん、そうなんだ。クレアちゃんは、相変わらず?」

「だねー。さっきのルドーラ王子の演説も聞かずに部屋の中いるまんま」

 扉越しに部屋の中を見て、サリアちゃんは肩を竦める。
 ……私が言うのもなんだけど、ルドーラ王子ってこれまたすごいあだ名だな。
 まあ、頭文字飛ばして相手を呼ぶのがサリアちゃん独特の呼び方なんだけど。

 しかし、やっぱりそうか。クレアちゃんは集会場にも行かなかったようだ。

「なんか、洗脳がどうのとかいろいろ言ってたけど……私にとっては、どうでもいいかな」

 案外、それほど重要視してないって意見もあるんだな。
 サリアちゃんの場合、クレアちゃんのことを気にしないといけないから他に余裕が回らないだけかもしれないけど。

 また例によって、サリアちゃんにクレアちゃんと話ができるよう通してもらうか……

「じゃあ、レアに言ってくるね」

「あ、うん」

 どうやら、私が言うまでもなくサリアちゃんは理解して、先に部屋へと入っていった。
 中から少し声が聞こえる。

 それから少しして、サリアちゃんが扉を開けて出てきた。

「ランが来たよって言っても、会いたくない会いたくないってすごいごねてた。なんかあったの?」

「あー……まあ、そうだねぇ」

 あちゃあ、まだクレアちゃんには会いたくないって思われてたか。
 ルリーちゃんがダークエルフだと黙っていたこと、結構根に持っているみたいだ。

 眉をひそめるサリアちゃんは、理由がわかってないみたいだけど。

「でもま、とりあえず話はしてくれるってさ」

「ほんと!?」

 これはダメかなと思い始めたとき、サリアちゃんからまさかの言葉が出てきた。
 会いたくないと言うクレアちゃんに、でも話をするように説得してくれたのだ。

「布団被ってミノムシみたいになってるから、引っペ返しちゃだめだよ」

「うん、わかったよ。ありがとうサリアちゃん。
 ……それから……」

「席は外したほうがいいんだよね。わかってる」

「ありがとっ」

 まったく、サリアちゃんにはお世話になりっぱなしだ。今度お礼をしないと。
 サリアちゃんにお礼を言いつつ、いざ部屋の中へ。扉を開き、一人足を踏み入れる。

 今回を逃したら、もう本当に会ってはくれなくなる気がする。
 クレアちゃんを前に、冷静に話し合うんだ。

「クレアちゃん」

 足を止めて、その後ろ姿に向き合う。
 まあ布団を被っているわけだから、後ろ姿かもわからないけど。

 表情が見えないし、返事もないから聞いているのかもわからない。
 でも確かに、クレアちゃんはそこにいる。

 だから、彼女が聞いていると信じて話そう。

「クレアちゃん、ルリーちゃんとのことで話があるの」

「……」

「このまま、二人とも離れ離れになっちゃってもいいの? このまま、笑い合えなくなってもいいの?」

「……」

 やっぱり、無反応、か……
 だったら、言うべきことをぶつけるだけだ。

「クレアちゃんとルリーまたゃんにはね、仲直りしてほしいの」

「……」

「でも、簡単なことじゃないのはわかってる。お互いに歩み寄るのが難しいんだってことも。
 だから、考えたんだ私」

「……」

「クレアちゃんとルリーちゃんが決闘しちゃえばいいんだ、って」

「……は?」

 今まで無言を貫いていたクレアちゃん。しかし、ここに来てようやく声が漏れた。
 それは、多分……というか、十中八九困惑を含んだものだった。

 そりゃそうだろう。喋ってる私だってちょっと意味わかんないのに。なんなら提案したの私なのに、意味わかってないんだ。

「……聞き、間違い、かしら。なんて?」

「決闘を、クレアちゃんとルリーちゃんにしてもらおうかなって」

「……」

 確認するけど、私の返答は変わらない。
 それを聞いてクレアちゃんは、多分さっきとは別の理由で黙り込む。

 今、頭の中ではいろいろなことが巡っているはずだろう。
 それから私は、とりあえずクレアちゃんの言葉を待つことにした。

 数秒か、あるいは数分か……それだけの時間が経って、ようやく中から声が聞こえた。

「それ……あいつは、承諾したの?」

 あいつ、というのはルリーちゃんのことだろう。

「……うん」

「そう……
 ならわかった、やる」

 続けて聞こえてきたのは、この決闘に望む意思を伝えるものだった。

「! じゃあ……」

「ただし……決闘って言うからには、負けた方になにか要求できるんでしょ。
 私が勝ったら……あいつを学園から、いやこの国から追い出して」

「……っ」

 それが、決闘をする条件だと……クレアちゃんは、言い放った。
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