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第八章 王国帰還編
588話 気持ちをぶつけ合え
しおりを挟むクレアちゃんとルリーちゃんの関係を修正したい。また前みたいに仲良くなってほしい。
そう考えた結果、先生が出した案は……
クレアちゃんとルリーちゃんを直接会わせてしまおう、というものだった。
私でも躊躇するようなことを、この人はさらっと言ってのけたのだ。
「でも、本気?」
「本気だし正気だよ」
……初めて会ったときから、やたらと明るいと言うかきゃぴきゃぴしてる人だとは思った。
その割に強いし、底が掴めない感じの人。
その口調だけじゃ本気なのか冗談なのかはわからなかったけど……
本人の言うように、本気なんだろう。
「でもそれなら、まずはクレアちゃんを部屋から出さないとね。今クレアちゃん部屋の中に引きこもっちゃってるから、どんな手がいいかな……」
もので釣る……いやいや、それともお母さんが泣いてるぞ的な説得をする?
「普通にルリーちゃんをアティーアちゃんの部屋の中にぶち込めばいいんじゃないか?」
「それは乱暴すぎない!?」
またもなんてことを言うんだこの人は。
しかもその言い方だとまるで……
「今の言い方だと、クレアちゃんとルリーちゃんを二人っきりにしようって風にも聞こえるんだけど」
「え、そうだよ?」
「……」
この人、本当に正気か?
ただでさえクレアちゃんとルリーちゃんの二人を直接会わせることに抵抗があるのに、まさか二人っきりにするだって?
そんなの……どんな修羅場が繰り広げられるのか、想像もしたくない。
「却下、却下だよ!」
「ってもなぁ……二人を会わせてもエランちゃんが間に入ったら、結局本音で話し合えない気がするんだよ。
だったらいっそ、二人っきりにしたほうが本音でぶつかり合えるんじゃないかと」
「ぬぅ……」
言いたいことはわからないでもない、けど……
そもそもクレアちゃんはダークエルフを畏怖しているのに、二人っきりの空間を作り出すことは成立するのだろうか?
正直私が間に入っても、厳しい気がするんだけど。
「二人から魔導の杖も取り上げてさ。そうすれば、荒事も起こらないだろう」
「丸腰の二人を密室に!? 危険すぎるよ! 杖なくても魔導は撃てるんだよ!?」
魔導の杖は、あくまでも魔導を制御するためのものだ。
別に杖がなくても撃てないことにはならないのだから、制御関係なしに撃ってくる可能性はある。
それに、魔導が使えなくても掴み合いに発展するかもしれない。
「危なすぎるって!」
「いやでも、喧嘩したら殴り合いでいつの間にか仲直りしてるってのが相場だろ。オレオレとリーフェルもそうだったし」
「その相場ごく一部だけだろ!」
確かに、溜め込んだものを相手にぶつけるのは悪くないとは思うけど……
殴り合いはダメじゃない!? 危なすぎるよ!
男の子じゃないんだからさぁ……
というか、リーフェルってルリーちゃんの話聞いた限りじゃおとなしめの女の人って感じだったけど、意外とアグレッシブだな!
「とはいえ、こういう話は長くなればなるほど尾を引く。
解決に動くなら、早めに動いたほうがいい」
「うん……」
「殴り合いは冗談にしても、二人きりで話し合いをするのは大事だと思う」
逆に言えば殴り合い以外は冗談じゃないんかい。
でも、冗談じゃないってことは、それだけ真剣に考えてくれているってこと。
うーん……二人きり、だけど危なくない方法でなんとか話し合いに持っていきたい。でもただ話すだけなんてのは、多分無理。
無理やりにでも、二人を同じ舞台に立たせて……いっそ想いをぶつけ合ってもらう……
「……けっ、とう……」
「え?」
「決闘……え?」
先生が、はっとした表情で私を見ている。
えっと、今……私、なんて言った?
自分の言ったことを、思い出す……
……決闘……私は、決闘と言ったのか。
なにゆえ?
「それだ!」
その時、先生がパンッと手を叩いた。
自分の言葉に驚いていた私は、突然響いた声と音に肩を震わせる。
「そ、それって?」
「決闘だよ、決闘! 今自分で言ったじゃないか!」
どこか興奮した様子で、先生は話す。
あぁ、やっぱり私決闘って言ったんだ。
……じゃなくて!
「えっと、私今無意識に言っちゃったみたいなんだけど」
「そうなのか? まあ、そこはさして問題じゃない。
決闘ってのは、なかなかいい線ついてると思うよ」
ふむ、どうやら決闘ってのはなかなかいい案らしい。
……なにが?
「……あのさ、その決闘をさせようって考えてるのってさ。まさか……」
「むしろエランちゃんもそのつもりでつぶやいたんだろう?」
「……クレアちゃんと、ルリーちゃん?」
「正解!」
そう、私がきっと無意識に考えたこと……それは、クレアちゃんとルリーちゃんを決闘させてしまおうというものだ。
ただ話をするだけでも、きっとうまくはいかない。殴り合いのけんかに発展する可能性もある。
だったらいっそ、二人に思い切り力をぶつけてもらえばいいかと思ったのだ。
「でも、それならわざわざ決闘じゃなくても……」
「それを言い出したのはエランちゃんじゃないか」
「それは……」
「決闘の勝敗……勝者が敗者に要求できる。
それを、考えたんだろう?」
……この人には、私の考えていることはお見通しってわけか。
そう、決闘には勝敗に応じて決まるものがある。
勝者が敗者に、なにかを要求できるというものだ。
以前行った、私とゴルさんの決闘。私はゴルさんにコーロランへの謝罪を、ゴルさんは私に自分のものになれと。それぞれ、要求した。
懐かしいなぁ。
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