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第八章 王国帰還編
587話 爆弾を落としたほうがいいのかもしれない
しおりを挟む一度は協力してくれると言ってくれて、でもその内容を聞いたら難しいと言われた。
ダークエルフが世間でどう扱われているか、それを知っているほど私の願いは無謀に思えるんだろう。
だけど……
「ほ、本当に?」
「あぁ。リーフェルが世話になったのなら、恩を返さないとだからね」
今回協力を求めることには、ルリーちゃんが関わっている。
そしてルリーちゃんは、先生の腐れ縁のエルフと仲良くしていた。
そのつながりで、最終的に先生は協力してくれることを決めたわけだ。
「協力してくれるのは嬉しいんだけど、すごく打算的……」
「下心なしに協力するってより、むしろ信頼出来るだろ?」
「先生なら無条件で助けてほしい」
「それは求めすぎ。あとオレオレは教育実習生だから。
その子に興味が湧いたのもあるよ。聞けば、リーフェルの行方もわかるかもしれないからね」
「……」
確かに、理由なしに協力してくれるよりもなにか訳があった方が信用できる……のか?
それはそれとして……だ。
先生が捜しているリーフェルは、おそらくもうこの世にはいない。
ダークエルフの村は、蹂躙された。たくさんのダークエルフが殺された。
そこに一緒に暮らしていたんだ。彼女も、きっと……
それを、教えたら……いや、それも野暮だよな。
ルリーちゃんの記憶を勝手に見た私が、その内容を勝手に教えるなんて。
「先生は、その人の居場所がわかったら、どうするの?」
「んん? そりゃ、捜しに出るよ。これまでは、あてもなくあちこち行ってたからね。
そりゃ、ルリーちゃんが最後に会ったのもかなり前のことだ。でも、その跡を辿れば……」
……本当に、その人のことを大切に思っているんだな。
腐れ縁とは言っていたけど、ただそれだけならここまでの気持ちには、ならないだろう。
それだけに、真実を伝えるのは……
いや、もし先んじて真実を教えたりなんかしたら、私に協力する理由はなくなるってことになるかも……
「協力すると言った以上、彼女の行方を聞いたら即さよなら、とするつもりはないよ。
けど、これはとても難しい問題……それは本当だ」
「あ……」
わ、私はなんて浅はかな考えを……!
先生は、ちゃんと最後まで協力してくれるつもりでいるのに。それを私は!
……そうだ、反省。それに今は、ルリーちゃんのことを考えないと。ルリーちゃんと、クレアちゃんのことを。
二人が、どうやったら仲直りできるのかを。
先生だって、ただ意地悪でこれが難しい問題だと言ったわけではない。
これが難しい問題だっていうのは、私にだってわかる。
「とりあえず、エランちゃんはこれまでに、アプローチをかけてきたんだよね」
「ま、まあ、そんなたいしたことでもないけど」
「そんなことはない。なにかしたのとしてないのとじゃ、それだけで違うからね。
まず、キミが見たアティーアちゃんの状況を改めて教えてくれるかな」
私は、思い出しながら先生へと話す。
クレアちゃんはあれ以来引きこもり、今はルームメイトのサリアちゃんが見てくれていること。クレアちゃんの身に起こったことは私とルリーちゃん、ナタリアちゃん以外は知らないこと。
私も話に行ったけど、拒絶されたこと。きっと次行っても、話をしてくれるかわからないこと。
……ルリーちゃんのことを、かなり嫌悪していたこと。
「ふむ……なるほどね」
一通りの話を聞き終えた先生は、顎に手を当てる。
なにかいい案はないか考えてくれているのだろうか。
私もどれだけ考えても、いい案は浮かばなかった。もう一度突撃してみるかくらいしか。
やっぱり私、考え事は向いてないのかもしれない。
「聞いた感じじゃ、きっとルリーちゃんがアティーアちゃんを訪ねたとして、頑なに会ってはくれないだろうね。
かといって、このまま会わなければ一生関係は戻らない。……キミはそれが嫌だ、と」
「うん」
「ルリーちゃんも、そう言ってる?」
「……できるなら、前みたいな関係に戻りたいとは、言ってる」
ルリーちゃんだって、自分がどれだけのことをしてしまったかはわかっているはずだ。
それでも、クレアちゃんには生きていてほしいと思っていた。だから、クレアちゃんを生き返らせた。
その結果として、嫌われることになったとしても……
「本当は心のどこかで、もう前みたいには戻れないと思ってるのかもしれない。
でも、私が嫌なの」
また、あの……三人で、笑っていた日に戻りたい。
そのためにできることなら、なんだってする!
「じゃあ……いっそ会わせちゃおうよ、二人をさ」
「……へ?」
なにか、頼もしい言葉をもらえるんじゃないかと思っていた……私が驚くような、言葉を。
それは、ある意味で私が驚くものだった。
えっと……今、なんて言った?
会わせる? 誰を? 二人を? 誰と誰を?
「どのみち、このままウジウジやってても状況は前へ進まない。
キミだって、行ったり来たりしてばかりなのは本意じゃないだろ?」
「た、確かに伝書鳩みたいな扱いだと、二人の距離は縮まらないけど……」
だからって、いきなり二人を会わせるって? いやいや。
そんな、私だってちょっとは考えたけど……それはさすがに、危険すぎないかと思って、封印していた考えだ。
でも、先生の言うように……状況を前に進めるには、一発どでかい爆弾を落としたほうが、いいのかもしれない。
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