上 下
597 / 751
第八章 王国帰還編

585話 協力してほしい

しおりを挟む


「えっと……いい、の?」

 私は思わず、間の抜けた声を漏らしていた。
 でも、それも仕方のないことだとは思う。

 ルリーちゃんのことを、エルフ族だと勘付いていた先生。
 認識阻害の魔導具では、自分の種族としての認識をずらすことはできても、魔力まではごまかせない。

 先生の持つエルフ族の"魔眼"、それによりルリーちゃんの正体を知ったのだとすれば不思議はない。
 だけど、ダークエルフだとまではわかってはいなかった。
 私は、一か八かとそれを明かして、先生に協力を申し出たのだけど……

「いいよー」

 先ほどと同じ答えが、返ってくる。
 断られる前提ではあったし、もちろん断られたところで根気強く説得するつもりだったけど……

 なんともあっさりした、その承諾に。私の方がきょとんとしてしまった。

「ん、どうかしたいかい」

「あぁ、いや……まさか、そんなあっさりとうなずいてくれるとは、思わなかったから」

 エルフはダークエルフを恨んでいる……それくらいの認識だ。
 現に、ルリーちゃんの過去では……エルフがダークエルフを恨んでいないか、それを心配されていた。

 結果として、そのエルフはダークエルフの村に住むことになった。
 そこにいろんな考えはあったんだろう。エルフみんなが、ダークエルフを恨んではいないということだろうか。

「私が言うのもなんだけど……ダークエルフだよ? いいの?」

「ははは、本当にキミが言うのもなんだね。
 いいよ。だってそもそもオレオレ、エルフとダークエルフの確執とかどうでもいいし」

 ケラケラと笑いながら言うその姿に、やっぱり嘘は感じられない。

「だってもう何百、何千年と昔のことでしょ? そんなんで現在まで嫌うなんて、オレオレには馬鹿馬鹿しく感じられてね」

「……そうなんだ」

「あ、けど勘違いしちゃいけないよ。今のはあくまで、エルフオレオレがダークエルフに感じていることだから。
 人種族の感じている気持ちは、また違うものだからさ」

 かなり昔のこと……そのことで恨みを持ち続けるのは難しい。
 だから人種族も……そう思ったけど、やっぱりそううまくはいかないようだ。

 人種族には、ダークエルフに関して本能的な恐怖が刻み込まれているという。『呪い』だ。
 みんなのダークエルフに関する気持ちを整理するには、その『呪い』をどうにかする必要があるだろう。

「それで、協力……だっけ?」

「!」

 先生が、話を戻す。
 あまりにあっさりしていたから唖然としてしまったけど、元々は先生に協力を求めたのがきっかけだ。

「察するに、そのダークエルフの子と、ウチの組のアティーアちゃんが関係あるみたいだけど……
 ……場所を、変えようか」

「うん」

 今、学園に残っている生徒たちはほとんどが、集会場の中に集まっているだろう。
 とはいえ、こんな場所で話をするには、内容がよろしくはない。
 なので、移動する。

 私たちがやって来たのは、校内の教室の一つ。
 誰もいないことを確認して、教室に入り、扉を閉める。

「ま、人払いの結界を張ったから誰も来ないよ。安心していい」

「人払いの結界」

「そ。エランちゃんも、グレイ師匠に習ったんでしょ?」

 教卓に座り、得意げに話す先生。
 その言葉に、私はうなずいた。

 以前、校内で"魔死事件"が起こった時、私は人払いの結界を張った。
 なぜそんな結界を張ることができたか。それは、師匠に習っていたからだ。

 グレイシア師匠を師匠というこの人も、結界を習ったっていうことか。

「本当に師匠の弟子なんだ」

「あれ、まだ信じられてなかった!?」

「冗談ですよぉ」

 それにしてもこの人、魔導の腕もさることながら"言霊"なんて未知の力も使うし、こんな結界まで使えるなんて。
 胡散臭い変なエルフだけど、実力者であることは確かなんだよなぁ。

 ま、それは置いておいて。
 人も来ない、誰も聞いていない。二人きりのこの場所で、私は事情を話す。

 ルリーちゃんのこと。クレアちゃんのこと。二人の関係にヒビが入り、このままでは仲違いしてしまうこと。

「……なるほどね」

 事情を聞いた先生は腕を組み、何度もうなずいていた。
 考えてみれば、私やルリーちゃん、ナタリアちゃんとは違いちゃんとした大人だ。それも、エルフだからかなりの年月を生きている。

 ルリーちゃんも、エルフ族って点では私たちよりよっぽど長生きなんだろうけど、そこは今は考えない。
 どのみち、エルフ族の中でも子供のルリーちゃんと、大人の先生。ここにも差はある。

 大人として、どんな意見をもらえるのか。ちょっと興味がある。

「死者を生き返らせる闇の魔術ねぇ……聞いたことはあるよ」

「本当に?」

「ダークエルフの使う禁忌の術、ってね。
 ただ、実際に見たことはない。ダークエルフに会ったことさえ、ずいぶん昔に数度程度だ」

 それから先生は、天井を見上げた。
 考えをまとめているのだろうか。

「……これはちょっと、難しいんじゃないかなぁ」

 やがて、先生は……いつもの口調で、いつもなら言わないような暗い言葉を口にした。

「それって……」

「ただでさえ、人種族はダークエルフを嫌悪している。そこに加えて、ダークエルフの闇の魔術で動く死人になりました……
 こんなのもう、関係修復不可能でしょ」

 あっけらかんと言うその態度に、私はつい声を荒げずにはいられなかった。

「でも! 私はルリーちゃんとクレアちゃんに、また前みたいに仲良くなってほし……」

「それは……キミのエゴだろう? その、ルリーちゃんってのもそう思ってるんだろう。
 けれど、一番大事なのはアティーアちゃんの気持ちだ。今まで友人と思っていた子がダークエルフで、そのダークエルフに動く死人にされた。よほどの理由でもないと、話すらしてもらえないだろうね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

処理中です...