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第八章 王国帰還編

579話 人攫いの才能はありません

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 国中の人たちにかけられていた洗脳が解け、国民のみんなは混乱していた。
 お城の中からそれを確認していたけど、ゴルさんが出て行ってみんなに説明したことで、混乱は落ち着いていった。

 みんな、まったく知らない男を国王として認識していたことを、不思議に思っていたようだ。
 なんにせよ、混乱も徐々に収まっていくだろう。よかったよかった。

「これで、ゴルドーラ様が新たなる国王になる日も近いな」

「そうですね」

 正当な次の国王は、ゴルさん……ゴルドーラ・ラニ・ベルザだ。
 それを特に望んでいるのは、シルフィ先輩とリリアーナ先輩。コーロランやコロニアちゃんも、同じ気持ちだろう。

 右腕を失っている彼だけど、ゴルさんならちゃんとやれると思う。

「というか、元気だね……本人の言うように、もう退院してもいいんじゃない」

 国民の前に立ち、堂々と話している姿を見ていると……とても、片腕を失って憔悴していた人とは思えない。
 あれはもう、飛び跳ねるくらいに動けるんじゃないだろうか。

 ……ゴルさんが飛び跳ねている姿は、見たくないなぁ。

「ま、あっちはゴルさんに任せておいて……あっちは、どうしようか」

 と、私は離れた所に座っている人物を見る。
 縛って放置しているイシャスと、国王として君臨していたレイド。レイドはおとなしいので、縛ってはいない。

 洗脳が解けて、少なからず混乱していた城内。混乱に乗じて、私がレイドを拉致ってきたのだ。


『お前は、人攫いの才能があるんじゃないか』


 レイドを連れてきた私に、シルフィ先輩が厳しい言葉をくれたわけだけど。
 まったく、人攫いなんて失礼しちゃうよね。そんなのあるわけないじゃん。

 それから、レーレちゃんはノマちゃんが連れてきた。
 レイドとレーレちゃんは、王族として祀り上げられた立場だ。悪いことしていた、ってわけじゃない……彼らも被害者だ。

「どうしようねぇ」

 困ったように、コロニアちゃんが笑う。
 うーむ……レイドたちも洗脳されていたとはいえ、本来自分たちがいる地位に知らないおっさんがいた気持ちはどんなもんなんだろう。

 特に、レーレちゃんなんかまだ小さな子供だし……

「ま、その辺の判断もゴルさんたちに任せるとするよ」

 レイドやレーレちゃんのことも、とりあえずゴルさんに一任する方向で行こう。
 そっちよりも、私が気になるのは……

 倒れたままのイシャスのところに、歩いて行く。

「エレガたちみたいなの、もういないと思ってたんだけどな」

 魔導大会に乱入してきたエレガたち。あの場にいたのは、四人だ。そして、その後魔大陸に乗り込んできたのも。
 四人、四人だ。エレガ、ジェラ、ビジー、レジー……それ以降、増えることはなかった。

 だから、それ以上はもういないと勝手に思っていたんだけどな。

「あんた、エレガたちの知り合いだって?」

 私はイシャスの近くにしゃがみ込み、軽く睨みつけながら聞く。
 こいつからエレガの名前を聞いたときは、まさかという気持ちとやっぱりか、という気持ちがあった。

 今のところ、私が出会った黒髪黒目の人間はヨルを除いてエレガ一派(今命名)だった。
 ヨルももしかして……と思うこともあったけど、どうやら違うみたいだ。

「……そういうお前もみたいだな」

 イシャスは、不敵に笑ったまま私を見た。
 お前も、という言い方はなんか嫌だな。

「私はあいつらとはなんの関わりもないよ。ちょっと前に戦って捕まえたってだけ」

「……へぇ?」

「あんたこそ、あいつらのお仲間なの?」

「さあね。もう何年も会ってねえしや」

 ……この男の言っていることは、本当なのか嘘なのか。
 まあそれも、どっちでもいいことだ。

 本当ならこいつも、ゴルさんたち王族に裁いてもらうべきだ。というかこいつが一番、被害を出しているのだし。
 ただ私も、さすがに全部任せきりというわけにはいかないし……

 国民への説明とかそういう堅苦しいのは任せておいて、私は私でできることをしようじゃないの。

「あんた、やろうと思えばさっきみたいに泥になって、拘束から抜け出せるんじゃないの?」

「……あん時ゃてめえらも油断してたろ。今はもう意味がねえ」

「そう」

 体を泥のようにする……なんて力は聞いたことがないけど、エレガたちだって特異な力を持っていたんだしあり得なくはない。
 それに、もうあんな風に逃がしはしないしね。ちゃんと目を光らせてる。

 それにしても……

「あんた、本当に一人?」

「……どういう意味だ」

「国民のほとんどを洗脳して、隠れてこの国を支配しようとしていたらしいけど。そんな大規模なこと、一人でできるのかなって。
 もしかして、まだ仲間がいるんじゃない?」

 一人でやるには、あまりに規模が大きいことだ。
 もしも仲間がいるなら、そいつもまた黒髪黒目の……?

 だけど、私の質問に素直に答えるはずもないイシャスは、ツンと顔をそらしている。

「ま、いいよ。どうせ時間はたっぷりあるんだし……ゆっくり聞き出してあげるよ、イロイロとね」

 私は魔導の杖を取り出し、イシャスに向ける。
 そして、『絶対服従』の魔法をかける。これで、とりあえずハ泥のようになって逃げ出さないように命令する。

「! な、んだこりゃ……」

 イシャスの首には、紫色に光る首輪のような模様が表れる。
 これが、『絶対服従』の魔法の証だ。

「ふふ、エレガたちとお揃いだよ。よかったねぇ?」
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