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第八章 王国帰還編

569話 慎重に行こうぜ

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 リーメイのおかげで、メイドのブリエさんがみんなを洗脳しているらしい犯人だということはわかった。
 私たちで彼女を捕まえるため、とある部屋の前までやって来る。

 耳をすますと、中からはピアノの音が聞こえてきていた。
 ノマちゃんが言うには、今レーレちゃんはピアノのお稽古中らしい。

「結構うまいんだねぇ」

「毎日練習していますからね」

「そんなことはどうでもいいだろう」

 ピアノの感想もそこそこに、私たちは行動を開始する。
 できれば、ブリエさんが一人の時を狙いたかったんだけど……

 ノマちゃん曰く、彼女は今日一日はレーレちゃんについているとのこと。
 なので、一人になるチャンスはない、か。

「よし、行くよノマちゃん」

「ですわ」

 これより、ミッションスタートだ! レーレちゃんに怪しまれないように、ブリエさんを捕まえる。
 難しいけど、やるしかない。

「失礼しますわ」

 扉を開けるのは、ノマちゃんに任せる。彼女なら、メイドだしいきなり入っても不審には思われない。はず。
 ただ、やっぱり疑問には思われるみたいだ。

「! ノマさん、どうしたんですかいきなりノックもなしに」

「あ、ノマだ!」

 ノマちゃんが室内に足を踏み入れ、私はノマちゃんの背中に隠れる。
 よぅし、レーレちゃんの注意はノマちゃんに向いている。このままバレないように……

「今はお嬢様の稽古中ですよ。話なら後に……」

「確保ぉおおおお!」

「!?」

 私はノマちゃんの背中から飛び出して、魔法で作った鞭でブリエさんの体を縛る。
 私がいきなり現れたことに驚いていたブリエさんは対処することができず、あっさりとぐるぐる巻きにされた。

 ……よし!

「捕まえたよ!」

「……こっそりは?」

「な、なんなんですかあなたたちは!」

 ちゃんと捕まえたのに、ノマちゃんはあっけにとられた表情を浮かべている。
 こっそり捕まえるはずが、なぜだかこんなことになってしまったからだろう。それはまあ……うん。
 だって仕方ないじゃない! 体が勝手に動いたんだもの!

 現状に対して声を上げるのは、見たことない女性だった。
 多分ピアノの先生だろう。

「ごめんなさい! ちょっとこの人借りるね!」

「ちょ、ちょっと!」

 そのまま私は、ブリエさんを連れて部屋を出る。
 後ろではノマちゃんが「わたくしに任せてください」と言ってくれたので、お言葉に甘えることにする。

 あのまま人を呼ばれたら面倒なことになっちゃうからね!

「ちょっとあなた、なにをむぐぐ!」

「ごめんね、ちょっと黙ってて!」

「お前はなにをやっているんだ! ついさっき慎重にと言ったばかりだろうが!」

「エランってばだいたーん」

 先輩とリーメイも追いついてきて、近くの部屋に入る。
 誰もいないのは確認済みだ。

「いや、なんか気持ちが盛り上がっちゃって、わぁーってなっちゃって……悪い!?」

「逆ギレ!?」

 部屋の鍵を閉めて、縛っていたブリエさんを椅子に座らせる。
 手首を後ろ手に縛り、逃げられないように足も固定。

 このままじゃ喋れないので、口は自由にする。

「計画と違っちゃったけど、このまま進めようか」

「どの口が言うんだぶん殴るぞ」

「な、なんなんですか!」

 私と先輩が左右からブリエさんを挟むようにして、リーメイは少し離れたところで見ている。
 洗脳を解くだけなら、この状態でリーメイに触らせれば済む話ではあるんだけど……

 なんにせよ、まずは話を聞こう。

「さて、もうネタは上がってるんだよブリエさん。正直に吐いちまいな」

「い、いったいなんの話を……」

「とぼけるつもりなら、そのたびに電撃でも流していくよおーん?」

「さっきシルフィの尋問に反対したとは思えないネー」

「お前は早急に俺に謝るべきだなエラン・フィールド」

 私は魔導の杖を取り出して、先端をブリエさんのほっぺたへと押し付ける。
 ひどく怯えたように顔を青ざめさせている。本当に、この人が黒幕なのだろうか。

 ここは事実をちゃんと確認しないとね。

「この国の人たちを、洗脳してるね?」

「!」

「そんな直球勝負をするとは思わなかったぞ」

 私の問いかけに、ブリエさんは口を閉じた。
 けれど、このまま無言で押し通させるつもりはない。私は、畳み掛ける。

「国中の人を洗脳して、レイドって人を国王としてみんなに認識させた。
 いや、もしかしたらレイド自身も、自分が国王だと思い込まされているのかもしれない」

「……」

「その理由を教えて」

 国中の人間を洗脳して、新しい国王を作り出した。
 そこにいったい、どんな意味があるのか。明確な理由があるはずだ。

 それを受けて、ブリエさんはしばし沈黙。うつむいてしまった。

「……く、くく……」

 と思っていたら……肩が震えていた。
 次第に、その動きは、声は大きくなっていく。笑い声だ。

「くく、くははははは!」

 顔を上げ、まるで狂ったように笑い出す。
 その豹変ぶりに、私も先輩も、驚いてなにも言えない。

「あーあー、うまくやってたと思ってたんだけどな。どこでバレたんだか」

「! それって……」

 口を開いて出てくる言葉は……私の問いかけを、肯定するようなものだった。
 それから、私を見て。

「なんでこんなことをしたかって?
 ……面白そうだったから」

 どこかで聞いたような言葉を、口にした。
 そして、彼女の身に変化が起こる。彼女の緑色の髪が、徐々に黒く、染まっていく……

 いや……黒色の髪に、戻っていく。瞳の色もまた、同じように……!
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