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第八章 王国帰還編

556話 心配したんですからね

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 ゴルさんが入院しているという病院、その一室を訪れた。
 病室には、ベッドに寝ているゴルさんと、側で付き添っているリリアーナ副会長がいた。

「ど、どうもー」

 驚いている様子の二人に、私はひらひらと手を振った。
 こうして驚いた様子の二人は新鮮だ。いつもきりっとしていて、隙がなかったから。

「あはは、ゴルさんでも驚くことあるんですね」

「……そのふざけた口調は、本当にエランのようだな」

 まっ。ゴルさんったら、場を和ませようとした私に対してなんて失礼なっ。
 私はそんな、毎度毎度ふざけてないですよーだ。

 後ろでルリーちゃんが部屋の扉を閉める音を聞きながら、私は二人に近づいていく。

「えっと……エラン・フィールド、帰還しました。なんちゃって」

「……まったく」

 呆れようにため息を漏らすゴルさん。その隣で……
 ガタっと音を立てて、椅子から立ち上がるリリアーナ先輩。それから、私をじっと見て……

 ……ぎゅっと、抱きしめられた。

「あ、お、あぇえ?」

 突然のことに、私はどうすればいいのかわからなくなる。
 てっきり、ぶん殴られるんじゃないかと思ってしまったけど……

 こんな風に抱きしめられるなんて。それも、こんな優しく。
 ……あたたかいな。

「えっと、リリ……」

「本当に……心配したんですからね」

「ぁ……」

 それは、先輩の本音のように聞こえた。
 いつもきりっとしていて、隙なんて見せないような女性だったけど……

 まさかこんな風に、無事を喜ばれるとは思ってなかった。

「……ごめんなさい、勝手にいなくなって……」

「フィールドさんの意図したことはないのでしょう。謝るのはお門違いです」

 先輩はゆっくりと私を離して、私と目を合わせる。
 リリアーナ先輩は背が高いので、私と目を合わせるために屈んでくれている。

 さっきの驚いた表情もだけど、今の顔もまた、見たことがないものだった。

「ふふ。リリアーナ先輩は、俺の見舞いに来る度にお前の話ばかりをしていたからな。こちらが恥ずかしくなるくらい心配していたぞ」

「ご、ゴルドーラ様っ」

 ゴルさんから、思わぬ話が暴露される。
 まさかばらされると思っていなかったのだろう、リリアーナ先輩は慌てたように振り向き、ゴルさんを見た。

 耳まで赤いのが見えた。恥ずかしがっているのだろうか。

「ご心配おかけしました」

「も、もうっ、フィールドさんっ」

 なんだかおかしくなって、くすっと笑ってしまう。
 別にそのつもりはないけど、結果的に先輩っをからかっているみたいになっているのが、なんだか楽しい。

 とはいえ、私を心配してくれてのことだ。この辺にしておこう。

「で、お前はどこまで飛ばされていたんだ」

「魔大陸です」

「……」

 沈黙が生まれた。

「……すまない、俺としたことが、まだ本調子ではないようだ。聞き間違いかな。
 で、どこに飛ばされたって?」

「魔大陸です」

「……」

 再び沈黙が生まれた。

 うーん、まあそうなっちゃうのか。
 私が魔大陸まで飛ばされていたって話をすると、魔大陸を知っている人はみんな驚くんだよなぁ。

 ウミを渡った向こうの大陸……魔物や魔獣が生息するという土地。そこには魔族もいて、足を踏み入れたら無事で帰ってくることはできない。
 なんてことを思われているっぽい。

 まあ、実際……魔大陸では魔力の回復が遅かったり、魔術が使えなかったりするから、魔導士にとっては地獄みたいなところだとは思うけど。

「フィールドさん、もしかして私たちのこと、からかってます?」

「ませんけど!?」

「なら、場を和ませようとして盛大に滑ったか」

「ってませんけど!?」

 頭の硬い人たちはこれだからもう!
 魔大陸に飛ばされていた証拠を出せってのか! だったらこの場でクロガネ召喚したろうかおぉん!?

「あ、あのぉ」

 そんな中、恐る恐る手を上げる人物。
 ルリーちゃんだ。

 ダークエルフであるルリーちゃんにとって、ゴルさんやリリアーナ先輩はどう映るだろう。
 お硬い人間だから、絶対に正体はバレたくないはずだ。バレたらクレアちゃんみたいに取り乱すのではなく、即捕まえてきそうだし。

 だから二人がいる病室には、私だけが行くと行っていたんだけど……
 大丈夫だからと、ついてきたのだ。

「キミは……」

「ルリーさん、ね」

 ルリーちゃんが名乗る前に、リリアーナ先輩が名前を言い当てる。
 当のルリーちゃんはというと、ぽかんとしていた。まさか、名前を知られているとは思わなかったのだろう。

 とはいえ、リリアーナ先輩なら不思議ではない。一年生であろうと、生徒の名前と顔は全部覚えてそうだもんなぁ。

「は、はいっ。あの……エランさんの言ってることは、本当、です」

「……そうか、キミも同じく転移させられたのだったな」

 ルリーちゃんのおどおどとした態度に、ゴルさんは落ち着いた様子で言葉を返す。
 それから、少し黙り込んで何事か呟いていた。

 まさか本当に魔大陸に、とかそもそも魔大陸というものが実在したのか、とか。
 ルリーちゃんの言葉を受けて、どうやら認識を改めたようだ。

 おいおい、私が言ったときとずいぶん態度が違うじゃないか! 私のときはあんなに疑ってたのに、なんでそんな素直に信じてるんだよ! おぉん!?
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