555 / 751
第八章 王国帰還編
543話 お話ししましょう
しおりを挟む私の説明は、もしかしてわかりにくかっただろうか。
そうだよなぁ。相手は教師だ。教師相手の説明なんて、簡単なものじゃない。
「あのぉ」
ただ、このまま黙っていられるのも、居心地が悪い。
もう用が済んだのなら、このまま帰ってもいいだろうか。
そんな期待を込めつつ、先生たちに話しかける。
「私、もうこれで……」
「なあフィールド」
「へいなんでしょう」
私の言葉は、サテラン先生に遮られる。
先生は顔を上げ、私を見た。眉間を指先で押さえながら。
「お前、今の話……本当、なんだよな」
「えぇ、もちろん」
「まあ、そうだよな。嘘ならもっとマシな嘘をつくよな……」
再度先生は、頭を抱えた。頭が痛いのだろうか?
それから、ローランド理事長の視線を感じた。
「ええと……まず、魔大陸にとばされた、と?」
「はい」
それを聞いて、その隣に座っている校長と教頭らしきおじさんが、小声でなにか話し合っている。
小声とはいっても耳をすませば聞こえるもので、「魔大陸? 本当に?」とか「そんなことありえるのか」とかいう声が聞こえた。
なるほど、私の説明がわかりにくかったんじゃなくて、私の説明……いや体験が信じがたいものだと思われているのか。
「魔大陸とは、噂に聞いたことがある程度ですが……本当に、存在するのですか?」
「えぇ。私は以前、行ったことがありますが……あそこを、学生だけで生きて抜けてくるなど……それも、こんな短い間に」
どうやらサテラン先生は魔大陸の存在は聞いた程度で、ローランド理事長は実際に行ったことがあるらしい。
へぇ、それは知らなかったなぁ。ってことは、魔大陸の存在はもう信じてもらえているわけだ。
問題なのは、私たちがこんな短い時間で帰ってきたこと。信じられないって表情だ。
「それは、契約したクロガネ……ドラゴンのおかげですよ」
「ドラゴン……」
「実在するのか?」
「私も、ドラゴンは目にしたことがありませんね……」
ふぅむ、理事長たちはドラゴンを見たことがないのか。
こうなったら、証明するためにこの場で召喚……はさすがにできないか。
クロガネったら、おっきくてかっこいいんだけど、召喚出来る場所が限られてしまうのがちょっとつらいよね。
「契約って……フィールド、お前ドラゴンを使い魔にしたのか?」
「使い魔っていうか、立場は対等なんで使い魔って言い方は正確ではないですねぇ」
「……使い魔契約だろ?」
「そ、そうです」
クロガネとは対等な立場での契約をしているから、使い魔なんて言い方をするのはちょっと抵抗があるんだけど……
説明しやすくするためには、素直に使い魔契約だと言っておいた方がいいか。
先生は、開いた口が塞がらないようだ。わ、面白いな。
「ドラゴンって……もはや、伝説上の生き物だろう?」
「そうなのクロガネ?」
『ふむ……まあ、人の前に姿を現すことはまずないからな。そう思われていても不思議ではなかろう』
「ですって」
「なにがだ。お前、使い魔との会話は他の人間には聞こえないんだぞ、お前。それに頭の中の会話をさも聞いてますよねという雰囲気止めろ。
あと自然にドラゴンと会話してるのか……!?」
「契約したモンスターとは頭の中で会話できるんですよぉ」
「知ってるよ! そういうこと言ってるんじゃない!」
ついには先生は、頭を掻きむしるように両手でわしゃわしゃしてしまった。
許容量を超えてしまった……と言うような姿だ。
そういえば先生、使い魔契約について授業してくれたときにいろいろ言っていたもんなぁ。
それに先生の使い魔はハム子……ハムスターだから、ドラゴンとの格差を感じているのかもしれない。
……いや、これは考え過ぎだな。もし私が逆の立場でも、ドラゴンすげーとはなってもウチのハムスターを卑下することにはならないだろう。
「もしかして、先ほど生徒たちが騒いでいた、黒いドラゴンというのは……」
「あ、私のクロガネですね」
「やはり……まあ、もしかしてもなにも別個体のドラゴンが現れたらそれはそれで問題ですが」
ふむふむ……クロガネとの契約は、やっぱりすごいことなんだろうな。
伝説上の生き物と契約した、私。そのすごさに、さぞや戦慄しているのだろう。
「それで……そのドラゴンのおかげで、こんなにも早く帰ってこれたと」
「あ、はい。あのね、クロガネってばすごいんだよっ。こう、びゅーっと飛んでわーって進んでさ!」
「……フィールド、頼むからちょっと落ち着いてくれ。あと落ち着く時間をくれ」
本当ならば、クロガネの姿を見せてその姿を語り聞かせたいところ。
でも、建物の中だとよほど広い所でないと壊れてしまう。召喚するなら外だ。
とはいえ……
「すごい見てんなぁ」
「……」
窓の外を見ると、生徒たちの顔があった。もう貼りつく勢いで。
先生に連れられて理事長室に入った私は、少しして気付いた。窓の外に生徒の姿があることに。
私が気付いていて先生たちが気付いていないことはないので、これは注意するのを諦めているな。
私が先生に連れていかれて、その先は後者の中だからみんなには見えなかったはずだけど……
ま、連れていかれるなら理事長室、って予想は立てられなくはないか。
「こほん。えー……エランさんのお話の衝撃は大きいですが、ひとまずは無事でなによりです」
咳ばらいをしたローランド理事長が、私を見る。その瞳は優しい。
本当に、私のことを心配してくれていたんだって顔だ。
「まだ聞きたいことはありますが……今日のところは、休んで下さい」
「どうする、フィールド。お前の部屋には今、エーテンはいないが……」
「あ、聞いてます」
私の部屋、か……ノマちゃんがいないから、今一人なんだよな。
せっかくだし、今日は『ペチュニア』に泊まろうかな。ルリーちゃんとラッヘも待たせているし。
10
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる