上 下
551 / 739
第八章 王国帰還編

539話 あんまり考えないようにしよう

しおりを挟む


 常にノマちゃんに付き従っているというカゲ・シノビノくん。
 あまり深く考えないようにした。

「そういえば、カゲくんってノマちゃんと同じ組なんだよね?」

「はい、光栄の極みです」

 当たり前のようにノマちゃんの隣を歩くカゲくん。
 彼が隣にいることに、ノマちゃんは驚きの欠片も見せない。

 もしかして、クラス内でも常に一緒なのだろうか。
 ……コーロランラブのノマちゃんにとって、他の男が近くにいることはいいのだろうか?

「おや、その視線はいったい?」

「もしやフィールドさん、カゲのことを……!?」

「いや、そういうんじゃないけど」

「ふふ、いけませんわよフィールドさん。カゲの恋愛対象は男性なのですから」

「そういうんじゃないって言ってんでしょ!」

 私がカゲくんに気を持っていると思われているのだろうか。
 美形だとは思うけど……アタシのタイプでは、ないんだよなぁ。

 それからノマちゃんは、なぜか私にウインクをした。

「大丈夫ですわ、恋とは壁が厚ければ厚いほど、高ければ高いほど燃え上がるものですから!」

「話を聞いて!」

 違うって言ってんだろ金髪ドリル!
 だいたい、仮にそうだとしても本人の居る前でする話じゃないよ!

「もー。
 ……ところで、カゲくんは今の国王についてどう思ってるの?」

 私は声を抑えて、ノマちゃんの耳元に話しかける。

「実は、カゲも今の王体制に対して、疑問を持っていないようですの」

「ほほぅ」

「わたくしがコーロラン様の話をしても、おかしいんですのよ。以前でしたら、彼は王族なのだから困難ですがわたくしなら問題ない、と励ましてくれていましたのに。彼はわたくしにはふさわしくない、なんて言うんですの」

 ノマちゃん、想い人の話をカゲくんにしていたのか……
 ま、同性のアドバイスもあったほうがいいし、自分の従者ならそういう話もするのかな。

 それにしても、以前とは反応が違うのか。ノマちゃんがふさわしくないんじゃなく、コーロランがふさわしくないってのが、引っかかる。
 それはつまり、コーロランたちは今や王族でもなんでもない……みたいな認識になっているってことか?

「あんなすました顔してる人でも、洗脳されちゃってるのか」

「カゲは完全無欠のイメージがありましたが、思わぬ弱点発見ですわ」

 まあ、私が無事なのはその間国から出でいたからだし、ノマちゃんは"魔人"だからだろう。
 それに私は、知らずのうちに洗脳されかかっていたみたいだし。リーメイのおかげで無事だったけど。

 ……って、それもノマちゃんに伝えておかないとな。

「ノマちゃん、あの国王か、レーレちゃんには気を付けてね」

「……どちらかが、主犯のようなものだと?」

 さすがノマちゃん。今のやり取りだけで、国王かレーレちゃんが国民を洗脳しているのだと察したようだ。
 私は小さくうなずく。ノマちゃんは、眉を寄せていた。

「わたくしは、どちらもそのようなことをするとは思えませんが……」

「それはまあ、私もそうなんだけど。ただ、リーメイが……」

「お二人とも、王城へ着きましたよ」

 ぼそぼそと話す私たちに、カゲくんの声が割り込む。
 どうやら、もうお城に着いてしまったようだ。大きくそびえたつ、白い建物。

 ただ、ノマちゃんはこのお城で暮らしているし、私はノマちゃんから魔導具を返してもらわないといけない。
 このまま敷地内へと入れるけど……そうはいかないカゲくんは、持っていた荷物を私たちに差し出した。

「それでは、私はここで。敷地内に足を入れるわけには、いきませんので」

「わたくしのお客だと言えば入れると、いつも言っていますのに」

「いえ、恐れ多いことです」

 きっちりしているというか……カゲくんは、お城には敷地内にも入らないと決めているようだ。
 まあ、お城なんて本来、貴族でもおいそれと足を踏み入れていい場所ではない。そのへんわきまえているのか。

 ……今のやり取りを聞くに、カゲくんはちょいちょいノマちゃんと行動を共にしているみたいだ。
 あんないきなり、隣に現れるのかな……ま、ノマちゃんが気にしてないならいいんだけどさ。
 私は荷物を、受け取る。

「それでは、失礼します」

「ご苦労様でしたわ」

「エラン様も、また」

「あ、うん、はい」

 ぺこりとお辞儀をして、カゲくんは背を見せて去っていく。
 ははぁ、すらっとした白髪美形……お辞儀の一つでも様になるなぁ。

 カゲくんを見送り、私たちは城へと歩き出す。さすがに、お城のノマちゃんにはくっ付いて行かないようだ。
 途中、門番や見張りの兵士さんが挨拶をしてくる。
 私に、というよりはノマちゃんに、だけど。

「お勤めご苦労様ですわ」

 そんなノマちゃんの笑顔は、兵士さんたちの心のオアシスであるに違いない。
 ほら、あそこの兵士さんなんて顔を赤くしちゃってかわいいな。

 ……あ、違う。あいつノマちゃんのおっぱい見てる!

「ここが、わたくしの部屋ですわ」

 買ってきた食材を料理人たちのところに持っていき、私たちはノマちゃんの部屋へと向かった。
 当然と言えば当然だけど、料理を作る専門の人たちがいるみたいだ。

 案内された部屋は、今ノマちゃんが言ったように、ノマちゃんに割り当てられた部屋だ。
 正直、ノマちゃんには魔導具持ってきてもらえばよかったんだからお城の中に入る必要まではなかったんだけど……

 ま、今更だよね。

「えっと、入っていいの?」

「もちろんですわ!」

 その上、部屋の中にまで招かれてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...