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第八章 王国帰還編

538話 一人増えてる!

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 ノマちゃんと買い物を続けていく中で、わかったことがある。
 わかっていたことではあるけど、ノマちゃんは人と話すのがうまい。なんて言えばいいのかな……嫌味がない、って言うのかな。

 ノマちゃんのお嬢様口調は、あんまり偉そうに聞こえない。それがいいことか悪いことかはともかくとして。
 誰に対しても態度を変えないから、裏表がなく信用もできる。
 なにより、いつも笑っているからその笑顔に惹かれる。

 お店の人たちも、みんな笑顔だ。

「ノマちゃんは、人を笑顔にする力があるよね」

「まあ、おだててもなにも出ませんわよ」

 おだてているのではなく本音なんだけど……まあいいか。
 それに、こうして見ていると……やっぱりいい身体してるなぁ。

 って、私は変態か!

「ていかノマちゃん、そういう食費ってお城から出るんでしょう? わざわざ値切りしなくてもいいんじゃない?」

「いいえ、今のご時世安いに越したことはありませんもの。それに、あるからって無駄に使っていい理由にはなりませんわ」

 わぁ、なんてしっかりしているんだろう。嫁にほしい。
 そういえば魔導学園でも、ちょいちょい節約していたような……

 いい意味でお嬢様っぽくはないな。
 なんていうか、身に付けているものは豪華なものが多いけど、それ以外だと節約している……?

「それにお母様が言ってましたわ。いい女は、値切りのできる女だと」

「そ、そうなんだ?」

 ノマちゃんのお母さんには会ったことがないけど、なかなかすごいことを子供に教える人だな。
 ……ノマちゃんのお母さんかぁ。

『こちら、わたくしのお母様ですわ!』

『わたくしが、ノマのお母様ですわ!』

 …………なんか、うるさそうだなぁ。

「どうしましたのフィールドさん」

「いや、ノマちゃんってお母さん似なのかなと思って」

「ふむ……どちらかと言えば、お父様似だと言われますわね」

 お母さんじゃなくてお父さん似、だと!?

『こちら、わたくしのお父様ですわ!』

『わがはいが、ノマのお父様ですわ!』

 …………ぬぅ。

「どうしましたの、まるでとびきり酸っぱいものを食べたかのような顔をして」

「いや……あんまり深く考えるのはやめようかなって」

「?」

 その後も買い物を続け、終わるころには人の賑わいも落ち着いていた。
 結構買ったもんだなぁ。

 こういうのって、お城の人たちが用意してくれるもんじゃないかと思ったけど……ノマちゃん自ら、名乗り出たらしい。

「……こうしていると、普通なんだけどな」

 私もそれなりに人と話したり、ノマちゃんとの話を聞いていたけど……この国の人たちは、普通だ。
 あんなことがあったのに。立ち直りが早いと言えば、そうなんだろうけど。

 それに……今の国王については、やっぱり受け入れているようだった。

「ところでフィールドさん、あのリーメイ……と言う方は、いったいどんな方ですの?」

「リーメイ?」

 帰り道、ふとノマちゃんがそんなことを聞いてきた。
 リーメイがどんな子なのか、か……

 ニンギョとかって、勝手に話しちゃってもいいものか。

「でも、どうしていきなり?」

「いえ、なんだかわたくし、彼女に敵視されているような気がして」

「てきし……」

 ノマちゃんの言葉に、私はじっと考える。
 敵視なんて、そんな穏やかじゃないこと、リーメイがするとは思えないけど……

 ……でも、確かにリーメイの方から突っかかったり、していたような?

「リーメイはいい子だよ。ノマちゃんの気のせいじゃない?」

「だと、いいんですけれど……」

 ふむ……ノマちゃんは、誰かに敵視されたり、嫌われるのは結構堪えるみたいだな。
 それが平気な人なんて、いないだろうけど。

「ノマちゃん、荷物持とうか?」

「あら、ありがとうございます。でも大丈夫ですわ、フィールドさんに持たせるわけにいきませんもの」

「では、私が代わりにお持ちします」

「あら、ではお願いしますわ」

「はっ」

 こうしてただ歩いている時間も、いいものだ。
 これまで魔大陸を延々と歩いたり、飛んだり、大陸の端から歩いたり……散々だったもんなぁ。

 それを思い返せば、今はもういい思い出だ。
 でも、やっぱりこうして三人で歩いている時間も、私は……

「ん? 三人?」

「どうしましたの、フィールドさん」

「どうかいたしましたか、フィールド様」

「なんか一人増えてる!」

 私は立ち止まり、隣を見た。
 そこにいるのは、ノマちゃん……だけのはずだ。でも、その向こう側にもう一人いた。

 そこいたのは……見知らぬ男の子。
 いや……なーんか見覚えがあるぞ。

「あ! 入寮初日に部屋に侵入してきた変態!」

「まあ、ひどい言われよですわよカゲ」

「心外です」

 そこにいた白髪美形は、魔導学園に入学した初日……寮の部屋で一晩明かした私たちの部屋に侵入してきた、イケメンだ!
 確か、ノマちゃんに仕えているっていう……名前はえっと……

「恋愛対象が男の人!」

「まあ、こんな場所でそんな大声で」

「カゲ・シノビノです。名前を覚えていないのなら、素直にそう言ってください」

 ここにいるのは当然、といった顔でそこにいるのは、カゲ・シノビノくんだ。
 そうそう、ノマちゃんのお世話係だった人だよ。いやあ懐かしいな。

 というか、この人その後全然見かけなかったんだけど。

「ちゃんと生きてたんだ」

「フィールド様、私へのあたりきつくありませんか?」

 そりゃ、そっちにも事情があったとはいえ、学園生活初日に向けて目を覚ましたら知らない男がいるんだもん……びっくりだよ。
 そしてこの場にいるのもびっくりだよ。

「いつからいたのさ」

「私はノマお嬢様の忠実なるしもべ。いついかなる時も、常にノマお嬢様のお側に付き従っております」

 …………え、怖い。
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