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第八章 王国帰還編

532話 食堂に行くのだ

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「! サリアちゃん」

「ラン……」

 私は、部屋の外に出た。
 すると、少し離れた所に、壁にもたれるようにしてサリアちゃんが立っていた。

 私の姿を確認して、彼女はタタタッと駆け寄ってきた。

「どうだった?」

「一応、話せたけど……前みたいに話せるようになるのは、時間が掛かりそうかな」

「……そっか」

 サリアちゃんは、自分がいない方がいいと気を遣って、席を外してくれた。
 それは、ルリーちゃんの正体やクレアちゃんの現状に触れることになるため結果的に、私たちにとって助かった行為だ。

 本当なら、サリアちゃんにも事情を説明したいところだけど……

「大丈夫、話したいときに話してくれればいいよ」

「……ありがと」

 私の気持ちを察してか、そんな優しいことを言ってくれる。
 本当に、良い子だよ。

 私じゃ、今のクレアちゃんの心をどうにかすることはできない……
 なにも知らないサリアちゃんだからこそ、クレアちゃんもこの子を邪険には扱わないはずだ。
 頼ってしまうようで、申し訳ないけど。

「また、会いに来るって言ったんだけど……いいよね?」

「もちろん。次は、リーも連れてきなよ。仲良かったでしょ」

「……そうだね」

 独特的な呼び方だけど、サリアちゃんが言うのはルリーちゃんのことだ。
 私たちが仲が良かったのは、サリアちゃんならよく知っているはずだ。
 なにせ、クレアちゃんはよく、ルームメイトであるサリアちゃんに話をしていたのだから。

 でも、今はルリーちゃんを呼ぶわけにはいかない。
 私にすらあんな反応なのだ。本人と会ったら、どうなってしまうのか。

「ありがとうね、サリアちゃん。
 じゃあ私、これから……」

「ランラン。食堂に行ってみて」

 クレアちゃんに会いに来るという目的は果たした。さて、これからどうしようか。
 もしも学園に友達が残っていたら会いに行きたいけど……いや、それより職員室に行くのが先かな。

 そんなことを考えていた時、サリアちゃんが言うのだ。
 食堂に行くようにと。

「食堂? うーん、あんまりお腹は減ってないんだけど……」

「そうじゃない。いいから食堂に行ってみて、ランラン」

「……その呼び方気に入った?」

「うん、なんかリズムに乗れる感じがする。 ランラン♪ ランラン♪ ランラン♪ ルー♪」

 気遣いの達人サリアちゃんのことだ。なんの意味もなく、食堂に行けとは言わないだろう。
 私は頷いて、それから扉越しに部屋の中を見る。

「わかったよ。
 ……サリアちゃんは……」

「私は、レアのこと見てる」

「……お願い」

 任せて、と胸を叩くサリアちゃんの姿に、頼もしさを覚える。
 私はサリアちゃんとお互いに手を叩き、歩き出す。

 最後に、もう一度部屋を見てから……もう、振り返ることはなく歩みを進めていく。
 目的地は、食堂だ。


 ――――――


「エランくーん!」

「わぷっ」

 女子寮を離れ、食堂へとやってきた私。
 扉を開いて中に入った私に、いきなり突進してくる人物がいた。
 でもその人物は、私を突き飛ばすのではなく思いきり抱き締めた。

 ぎゅ……と、力を込められる。
 少し、息苦しい……けど、同時に感じるのは懐かしいにおいと、声だ。

 これは……この温もりの正体は……

「ナタリアちゃん……」

「そうだよー、ボクだよー!」

 私を抱きしめ、全身で喜びを表現している人物こそ、ナタリアちゃんだ。
 私を心配してくれていたのだと、すぐにわかるほどの様子に、私の気持ちも昂りを見せる。

 それに……

「ママー!」

「ふぃ、フィルちゃん!?」

 後ろから私の腰に抱き着いてくるのは、まさかのフィルちゃんだった。
 二人から挟まれる形で、私は抱きしめられている。

 う、嬉しいんだけど、ちょっとキツイ……

「おぉ、ごめんよ。あまりに感極まってた」

「ぷはっ」

 私の気持ちを察してくれたのか、ナタリアちゃんは私を抱きしめていた手を緩めてくれた。
 ナタリアちゃんは背が高いから、すっかり胸に埋まっちゃってたよ。
 ちょっとは気持ち良かったけどさ。

 それから、私の肩を持ち、一定の距離を開いてからじっと目を合わせた。

「本当に、無事でよかった。心配したんだからな」

「し、心配かけてごめん。
 でも、なんでナタリアちゃんたちが食堂に?」

「サリアくんが教えてくれたんだよ。エランくんが返ってきた、食堂で待ってて、と」

 なるほど……だからサリアちゃんは、食堂に行くように言ったのか。
 でもわざわざそんなことしなくても、寮の部屋にいるって教えてくれれば、私から会いに行ったのに。

 そう思って、ナタリアちゃんの背後……私から正面の位置に、他にも生徒がいることに気付いた。
 学園は休校になっていても、食堂などは開いている。利用している人もいるのだ。

 みんな、私を見てざわついている。
 中には、顔を知っている人もいる。

「せっかく帰ってきたなら、こうした方が一気に広まるだろうって」

「確かに」

 私が一人一人に「帰ってきたよー」って挨拶に行くよりも……こうして、多くの生徒に見られた方が、いろいろ短縮できるか。
 食堂なら、組や学年の違う生徒が多いから、私の生存報告が広がるのはあっという間だ。

 これで、そう時間がかからないうちに、私が返ってきたことは伝わるだろう。

「ママー! ぎゅー!」

「ところで、なんでフィルちゃんがここに?」

「彼女は、エランくんやルリーくんが消えた後、ボクが預かってたんだ。
 彼女、エランくんの他にもボクたちにも次第に懐いてくれただろ? ……そのうちノマくんは王城に住むことになったし、クレアくんは憔悴している」

 ……そっか、私たちが消えた後、フィルちゃんのお世話はナタリアちゃんが見てくれていたのか。
 にこにこと、私にしがみつく、私をママと呼ぶ女の子。

 ……新しい国王が言うには、精霊さんに好かれる体質だという白髪黒目の特徴を持つ、女の子。
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