539 / 849
第八章 王国帰還編
527話 会いに来た
しおりを挟む魔導学園にたどり着き、クレアちゃんの部屋を探して女子寮を歩いていたところ……クレアちゃんのルームメイトである子に、再会した。
サリアちゃん。懐かしい顔だ。
確か……ナタリアちゃんやコロニアちゃんと同じクラスだって言ってたっけ。
あんまり接することはなかったけど、妙に印象に残っているのは、頭から生えた角のせいだろうか。
「レアに会いに来たの?」
「! わかるの?」
レアとは、クレアちゃんのこと。
私がクレアちゃんに会いに来たことは、まだ話していない。でもこうして、言い当てられたってことは……
「レア、ずっとランのこと気にしてた。いなくなったこと、それからなにかにごめんなさいしてた。
だから、ランもレアのこと気にしてるのかなって」
「……そうだね。私、クレアちゃんに会いに来たんだよ」
クレアちゃんは、私がいなくなったあとずっと気にしてくれていた。
しかも、なにかにごめんなさいしてたとは……謝ってたってことだ。誰に?
もしかしたら……ルリーちゃんに?
「サリアちゃんは、ずっとクレアちゃんのそばにいてくれたんだ?」
「ん。一人にしちゃ、いけないと思ったから」
サリアちゃんは、クレアちゃんが危うい状態だと察して、一人にせずに側にいてくれたんだ。
寮の部屋に引きこもっている……そこには当然、ルームメイトがいる。
もしかしたら、クレアちゃんはサリアちゃんに、一人にしてくれとかそういったことを言ったのかもしれない。
でもサリアちゃんは、クレアちゃんを一人にはしなかった。
それは……少なくとも私にとっては、とてもありがたいことだと思う。
なにも話せなくても……誰かが側にいてくれるのは、救われるはずだ。
きっとクレアちゃんも……
「クレアちゃんはずっと、部屋に?」
「泣いたり、落ち込んだり……理由は話してくれないけど。
外にも出ないから、私が適当にご飯買ってきてる」
部屋までの道のり、並んで歩くサリアちゃんは手に持った紙袋を見せてくれる。
なるほど、購買でいろいろと買ってきたのか。
学園は休校でも、購買や食堂は機能しているらしい。
なので、顔を合わせることがないと思っていたみんなも、顔を合わせる時間はあるのだ。
だけど、クレアちゃんは部屋から出てこない状態。みんなとも交流できないし、なによりそのままでは空腹で死んでしまう。
それを心配したサリアちゃんが、こうして食事を届けている。
「でも、びっくりしたよ。帰ってきたらランがいるんだもん。魔導大会の会場で消えちゃったって聞いたけど」
「あはは。話せば長いことながら」
「いいよ、わざわざ話そうとしないでも。いろんな人にするの大変でしょ」
「まあね……」
寮も広いとはいえ、目指す場所がわかっていればそこまでの距離はない。
サリアちゃんの案内で、階段を上って廊下を歩いて……一つの部屋の前に、止まる。
私も続いて止まると、表札を見た。
そこには、クレアちゃんとサリアちゃんの名前が刻まれている。ここが、二人の部屋だ。
「この中に……」
「いきなりランが入ったら驚くだろうから、まずは私が説明するね」
「お願い」
まあ、そうだよな。表情にはあまり出てなかったとはいえ、サリアちゃんだって私に驚いたんだ。
私が消えるところを目の前で見たクレアちゃんの前にいきなり私が現れたら、それこそ混乱させてしまう。
なので、サリアちゃんにまずは任せるのが正解だろう。
「レアー、帰ったよー」
私とサリアちゃんはお互いにうなずき、サリアちゃんは扉を開けて部屋の中へ入っていく。
バタン……と扉の閉まる音。それを確認して、私はため息を吐いた。
思わぬ再会だったけど……サリアちゃんに会えて、よかった。
だって今、私……すごく緊張してる。
こんな状態で、いきなりクレアちゃんに会えってなるのは、正直気が重い。
クレアちゃんは目の前で、私が消えたことを心配しているだろう。だから無事を報告する。
でも……それだけで終わりじゃ、ない。
「ふぅ……」
クレアちゃんが部屋に引きこもっている理由に、直面しないといけない。触れないわけにはいかないだろう……ルリーちゃんのことを。
無事を確かめ合ってはい終わり……そんな単純な話じゃない。
それから、数分……私は、待った。長いような、それとも短いような……どちらともわからない空間。
やがて、扉が開く。
「いいよ」
「ありがとう。……なんて言ったの?」
「レアに会いたい人がいるからって、強引に押し切った。ランの名前出したほうが、よかった?」
「いや、大丈夫だよ」
私が会いに来た、ということは話していないようだ。
それでいいかもしれない。事前に私が来たなんて話したら、もしかしたら会いたくないなんて言うかもしれない。
まずは、会いに来た人がいると説明して、警戒を解いてもらうことが……
「お邪魔しまー……って、サリアちゃん?」
私が部屋へ入ると、サリアちゃんは入れ替わるように部屋から出ていこうとする。
「私は、席を外したほうがいいでしょ?」
「……ありがとうね」
「ん。ご飯は、机の上に置いておいたから。落ち着いたら食べさせてあげて」
ホント、どこまでも気遣いのできる子だ。
サリアちゃんが部屋を出て、扉が閉まる。それを確認して、私は部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋が違っても、部屋の構造が同じなのは知っている。前に、ルリーちゃんとナタリアちゃんの部屋でお泊りをしたからね。
そして、足を進めた先に……ベッドの上の布団が、異様に膨らんでいる光景があった。
「……クレアちゃん?」
「!」
布団を被り、誰かが隠れている。それが誰か、考えるまでもない。
私が声を掛けると……布団がピクリと、震えた。
そして、ゆっくりと振り向いて……その人物は、布団から顔だけを出し、私を見つめた。
「……っ」
そこにいたのは……肩まで伸びていたサラサラの髪はボサボサで。泣き腫らしたのか目は赤くなり。まともに眠れているのか心配になるほどクマができた。
あの頃の元気な姿は見る影もない、クレアちゃんの姿だった。
10
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説

公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる