上 下
537 / 739
第八章 王国帰還編

525話 怪しいのは誰だ

しおりを挟む


 リーメイのおかげで、私は洗脳から逃れることができた……らしい。
 というのも、私自身に洗脳されそうになっていたという自覚がないからだ。

 でも、今隣を歩いている人だって……まさか自分が洗脳されているだなんて、思いもしないはずだ。
 洗脳って、そういうものなのだろう。

「んじゃあ、あの国王かちっこい王女さんが怪しいんじゃねえか?」

 私だけが洗脳にかけられそうになっていた、それを聞いてヨルも同じ考えに至ったみたいだ。
 ニンギョは特殊な体質なので身体に影響を及ぼすものは通用しない、リーメイを除いて。
 私とヨルの違いは、なにか。

 私とヨルが分かれた瞬間が、二回あった。
 一度目は、再会したノマちゃんと別室に移動した時。二度目は、国王と二人きりになった時。

 そして、私だけが洗脳されかかっていたことを考えると……容疑者は、二人になるわけだ。

「でも、あの国王はいい人って感じだったよ? 国民を洗脳しようだなんてこと、考えてしかも実行してるなんて思えないけど……」

「それはエランの主観だろ? 人畜無害な人物を演じているだけかもしれないじゃないか」

「それにエランは、どうしようもなくお人好しなところがあるからネー」

「!?」

 国王が私の前で、自分を偽っていた可能性か……そうだなぁ……
 いい人そうに感じた、嘘はついていないように見えるって言っても、結局は私の主観でしかないし。

「それに、国王じゃなけりゃ……あの王女さんってことになるぜ?
 俺には、あのちっこい女の子に国中洗脳にかける力があるとは思えないけどな」

「まあ、そうだよね……」

 容疑者が二人しかいない以上、犯人はほぼ絞り込まれたようなものだ。
 やっぱりあの国王が、犯人なのか。

 ザラハドーラ国王と古い友人ってのも、本当かどうか……だよな。

「ゴルさんたちに聞ければ、わかるんだろうけど」

 父親の古い友人なら、子供であるゴルさんたちも知っている可能性が高い。
 っとなると……ゴルさんにも、確認に行きたい。
 あと、重傷だって言うなら心配だし。

 しまったな、ゴルさんたちの居場所聞いとけばよかった。

「ゴルさんの家は王城だもんね……でもそこにいなかったし。
 うーん、どこにいるんだゴルさん」

「ん? 生徒会長さんなら寮にいるだろ」

「……ん?」

 私の言葉に、ヨルが反応する。きょとんとした様子で。
 でも、きょとんとしたのはこっちだ。

 ……ゴルさんが学園の寮に、いる?

「それ、本当に?」

「嘘ついてどうすんだよ」

「……早く言ってよぉ!?」

 確かに、ヨルがここで嘘をつく理由はない。
 でも、まさか学園の寮にいるなんて……選択肢から、抜けてた。

 実家か、それか病院にでもいるのかと。

「も、もう知ってると思ってたんだよぉ。怒んなよぉ」

「お、落ち着いてエラン」

「ふー、ふーっ」

 ……いや、今のは私の確認不足が招いたことだ。
 ヨルに当たるのは、間違いってもんだろう。

 まあ、ここはゴルさんの居場所が特定できたってだけでも良しとしておこう。

「ふーっ。
 ……じゃあますます、寮に行かないとね」

 元々、寮へはクレアちゃんに会うために行く予定だった。
 だけど、同じく寮にゴルさんがいるのなら、行く理由がもう一つ増える。

「生徒会長さんねぇ。すげー強い人だったけど、あの人も洗脳されてんのかね」

 頭の後ろで手を組み、ヨルは言う。
 ……こいつ、魔導大会ではゴルさんと引き分けたんだよなぁ。ゴルさんの力は私が身を持って知っているから、同時にこいつの強さもわかる。

 でもなんか……! こいつとゴルさんが引き分けたなんて、納得いかない!

「そのために、リーがいル」

「そっか。リーメイに触ってもらえれば問題なしなんだもんな」

「……なんか言い方やらしイ」

「なにが!?」

 当のヨルはこれだ。あのゴルさんに匹敵する力があるなんてなぁ……
 いや、匹敵どころか。こいつは周囲の魔力を吸い取るなんて反則臭い力を持ってるから、力に関しては誰にも及ばないものになるのかも。

 ……こいつがねぇ。

「それで、どうするのエラン」

「へっ?」

 おっと、話を聞いていなかった。失敗失敗。
 私に話しかけてきたリーメイは、かわいらしく首を傾げている。フードで顔が隠れているのがもったいない。

「ルリー。一旦帰って、ルリー呼ブ?」

「あー……」

 リーメイの言葉に、私は立ち止まる。
 これから、魔導学園に……クレアちゃんに会いに行こうというのだ。そこに、ルリーちゃんを同行させるべきか。

 タリアさんの話だと、クレアちゃんはずっと寮に引きこもっている。実家に帰らず、タリアさんにもその事情を明かしていない。
 その理由は……十中八九、ルリーちゃんの……いやダークエルフのことだろう。

 クレアちゃんはあのときのことが頭から離れず、かといって誰にも相談できないままに、一人で抱え込んでしまっている。

「本当は、ルリーちゃんとクレアちゃんとで話をしてほしいけど……」

 いずれ、二人はちゃんと話をするべきだと思う。
 クレアちゃんはルリーちゃんを怖がっているし、ルリーちゃんはクレアちゃんに怖がられているのを怖がっている。

 でもそのままじゃ、二人の関係は溝が深くなるだけ。
 二人は友達なんだから……また、仲直りしてほしい。
 ただ……今クレアちゃんがどんな状態か、わからない。
 そんな状態でルリーちゃんと会わせるのは、危険な気がする。

 それに……

「もう、着いちゃった」

 いつの間にか、魔導学園の正門前だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約破棄され、聖女を騙った罪で国外追放されました。家族も同罪だから家も取り潰すと言われたので、領民と一緒に国から出ていきます。

SHEILA
ファンタジー
ベイリンガル侯爵家唯一の姫として生まれたエレノア・ベイリンガルは、前世の記憶を持つ転生者で、侯爵領はエレノアの転生知識チートで、とんでもないことになっていた。 そんなエレノアには、本人も家族も嫌々ながら、国から強制的に婚約を結ばされた婚約者がいた。 国内で領地を持つすべての貴族が王城に集まる「豊穣の宴」の席で、エレノアは婚約者である第一王子のゲイルに、異世界から転移してきた聖女との真実の愛を見つけたからと、婚約破棄を言い渡される。 ゲイルはエレノアを聖女を騙る詐欺師だと糾弾し、エレノアには国外追放を、ベイリンガル侯爵家にはお家取り潰しを言い渡した。 お読みいただき、ありがとうございます。

処理中です...