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第八章 王国帰還編

520話 精霊に見初められた者

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 国王レイド・ドラヴァ・ヲ―ムの計らいにより、私と国王は王の間に二人きりになった。
 私としては、国王に聞きたいことがあったからちょうどよかった。
 この国で起こっている不思議なこと。なぜみんな、この国王にさして疑問を持っていないのか。みんな、なにかに洗脳されているのか。

 それを調べようと思っていたけど……こうして二人きりになれたのは、ラッキーだ。本人に直接聞いたほうが、絶対早い。
 素直に答えてくれるかは、わからないけどね。

 ただ、今のこの時間を作り出したのは国王の方だ。
 私と二人きりになりたいと行って、人払いをした国王。私に聞きたいことって、なんなんだ?

「はは、聞いていたとおりだな。相手が貴族や王族でも、まったく物怖じしない」

「聞いてた?」

「前国王、ザラハドーラ・ラニ・ベルザからね」

「……!」

 私のことを誰かから聞いたという口ぶり……それは誰からの情報なのかと、疑問だった。
 すると、返ってきた答えは思ってもいないものだった。

 だって、まさか……この国王の口から、ザラハドーラ国王の名前が出てくるとは思わなかったから。

「……二人は、知り合いだったってこと?」

「あぁ、そうなる。あいつとは、古くからの友人でな……今回のことは、非常に残念に思っている」

 二人は、古くからの友人……か。それが本当かどうかの判断は、今はつけられない。
 でも、嘘をついている感じは……しないな。

 でも、もし本当だったら。
 この国王は、ザラハドーラ国王亡き今なんらかの方法で国民を洗脳していると思っていたけど……違うのか?

「キミは、私のことを警戒していただろう」

「! それは……」

「無理もない。キミがこの国を離れている間、大きく様変わりしたからねぇ。
 魔導大会の事件で国は大きな被害を受け、前国王ザラハドーラは死亡。そしてその後釜に、キミの知らない男が座っていたのだから」

 ぬ……私の考えていたこと、バレてる。
 そりゃまあ、知らないおじさんが国王になってたら、警戒もするよ。わかってもらいたい。

 ただ、それを自分から言うのか。

「なに、簡単なことさ。私は彼から、もし自分が亡くなったときには息子が大きくなるまでは私がその後継となり、国を治めてほしいと。そう、頼まれていたんだ」

「……頼まれた?」

「そう!」

 頼まれた……そういうのもあるのか。
 確かに、普通に考えたらザラハドーラ国王の息子が後継になりそうだけど……国王直々に頼んでいたら、それが有効なのか?

 いやでも、そんなあっさりといくもんか?

「それ、ゴルさんたちは納得しているの?」

「ゴルさん……あぁ、ゴルドーラ元第一王子のことか。そういえば、息子のことを変わったあだ名で呼ぶ子がいると言っていたが、なるほどそれもキミか。
 もちろん、私がこの座にいるのはあくまで仮の話さ。友人との約束通り、彼が重傷の身から回復し一国を治めるに足る器となったなら、この座は喜んで譲るとも」

 ゴルさんたちの話もしている……本当に友人、か?

 この人はつまり、自分はあくまでも仮の国王。本当に王位を継ぐのはゴルさんで、彼が回復して成長したら王位を譲る、と。
 こう言っているわけだ。

 それが、友人であるザラハドーラ国王との約束だから。

「そう、なんだ」

「まあその話は今は置いておこうじゃないか。私がキミに聞きたいのは、もっと別の話さ」

 正直、この人の言っていることの真偽性は今はわからない。
 それを考える前に……国王が私に聞きたかったことを、持ってこられる。

 ど、どうしたんだ……なんか、テンションが上がっているような気がする。

「エラン・フィールド殿」

「殿はちょっと……恥ずかしいかな。普通に呼び捨てでいいよ」

「そうか? なら……エラン・フィールド」

 国王は私の目を、じっと見て……

「キミもまた、精霊に見初められた者なのだろう?」

 ……と、言った。

「……へ?」

 その言葉に、私はただ間の抜けた声を出すことしかできない。
 だって……え、なに? 精霊さんに見初められた?

 どゆこと?

「えっと……」

「キミも、白き髪と漆黒の瞳を持つ者だったのだろう。私もあの魔導大会の場にいたんだ。
 いやぁまさか、髪の色が変わる現象があったとは。ひと目見ただけではわからなかった」

 なにやら、国王は興奮した様子で私を見ていた。
 そして、その様子とは反対に……私はひどく、冷静だった。目の前に興奮している人がいると、かえって冷静になるものだ。

 いや、そうじゃなくて……この人が言っていることに、頭が追いつかない。

「えっと……なんの、話?」

 ここは、わかったふりをしておいたほうがいいのだろうか?
 ……しておいたところで、知らないとわかったら面倒なことになりそうだ。なので、最初から知らないということを話しておく。

 すると国王は、ぴたりと言葉を止めた。

「……なんだ……知らないのか?」

「……」

 それは、意外だという表情。私は知っているものだと思っていたようだ。
 もしかして、常識的な知識だったりする? 私は記憶喪失だから、世間の常識もわかんないからなぁ。

「キミは、今は黒髪黒目だが……魔導大会でのキミの活躍中、髪の色は白く染まった。
 白髮黒目。それは紛れもない……精霊に見初められた、稀有な存在の証だ!」

 わからない私に、説明してくれるように……国王、大きく手を動かして、興奮した様子でそう言ったのだ。
 それは、精霊さんに見初められた者の証だ、と。
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