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第八章 王国帰還編
519話 二人きりに
しおりを挟む「ところで、エレガ……あの黒髪黒目の連中は、どこ行ったの?」
なんとなく気まずくなってしまった空気を変えるために、私は口を開いた。
どのみち聞くつもりだったんだから、このタイミングで聞いてしまおう。
「彼らは、別室に運んだ。落ち着いてから、諸々の事情を聞くつもりだ」
「そう……」
あいつらがここにいないのは、私たちが席を外している間に移動させたから、か。
まあずっとここに置いておいてもな。
とはいえ、ちゃんと見張って捕まえておいてもらわないと。
「そんな顔をせずとも、心配するな。厳重な警備の下、彼らを監視する」
「……わかった」
とりあえず、魔力封じの手枷をしているから魔力を使って暴れることはできない。
他は……ここの兵士さんたちに、任せよう。
エレガたちを引き渡したし、これで……
「私たちが捕まったりとか、そういうのは……」
「心配すんなエラン、さっき話は済んだから」
と、横から口を挟むのはヨルだ。
彼は私を見て、親指を突き立てていた。ウインクまでして。
親指折ってやろうかしら。
どうやら、私たちが席を外している間……国王とヨルとの間で、いろいろ話をしたらしい。
その中に、魔導大会や国をめちゃくちゃにした主犯が捕まったので黒髪黒目への捕縛は取り下げる……というものもあったようだ。
つまり、これから私やヨルが外を歩いても、兵士に捕まる心配はないってことだ。
よかったよかった。
「あいつらの仲間だって疑われたままなのは嫌だったからね」
「ま、黒髪黒目の人間を捕らえていたのには別の理由もあったのだがな」
「別の理由?」
そう言ってから、国王は私を……いや私の隣にいたノマちゃんを見た。
別の理由、ってなんだ?
「捜し人がいるから、どうかお願いすると頼まれてしまってな」
「! こ、国王様! それは言わない約束ではありませんか!」
「ん? 私は誰が、とまでは言っていないが?」
「……っ」
キャーキャーと騒ぎ出すノマちゃんだったが、国王の指摘にぴたりと止まる。
そして、自分が墓穴をほってしまったことに気づき、口を強く結びながら徐々に顔を赤くしている。
なるほど……つまり黒髪黒目の捕獲は、ノマちゃんが消えた私を捜すために頼んだ捜索も含まれていたってわけか。
エレガたちの仲間を見つけるだけが目的じゃなかったってことね。
言わない約束の墓穴をほってしまったノマちゃん。真っ赤になったノマちゃん。うん、かわいい。
「じゃあ、あのまま捕まったままならノマちゃんに会えた?」
「確かめる前に俺たちが逃げちゃったってことか」
最初捕まったとき、捕まえた人物を確認するためにノマちゃんが来るはずだったのかもしれない。
結果的には今会えたから、よかったけど。
……じゃあ、私の心配事はなくなったってことかな。
「じゃ、そろそろ……」
「エラン・フィールド殿」
そろそろ帰ろうか……と言おうとしたところで、声をかけられた。
それは、王座に座ったままの国王からだ。
彼はいかつい顔をしているけど……敵意とかは、感じさせない。
というか殿って……なんか歯がゆいな。
「少し、二人で話をしたいのだが……いいかな?」
「二人で?」
なんの話だろう、と思っていたら……まさか、二人で話がしたいだなんて。
驚く私に、それよりも焦った声が割り込む。
「なりません、国王様! お一人でなどと!」
それは、側近の兵士だ。国王が私と二人きりになるのが、いけないらしい。
そんな大げさな……とは思う。私は別に、二人になったからって国王になにかするつもりはない。
ない、けど……まあ、その心配も当然だよな。国王が今会ったばかりの相手と二人きりになるなんて、正気の沙汰じゃない。
それが、国王自らの申し出ならなおさら。
「そう言うな、彼女に失礼だろう」
「ですが……」
「それに……彼女も、私と話したいのではないかな?」
渋る兵士に落ち着いた様子で答え……国王は、私を見た。
私が、自分と話したいと思っているからと……そう、言い当てた。それは、実際に正解だ。
この場でいろいろと聞くっていうのも、なんだかなって感じだし。
兵士たちが大勢いる中で「あなた本当は何者?」なんて聞けないし。
そう考えたら、二人きりという空間は私にとってもありがたいことだった。
本人に直接……確かめることが、できるから。
「あなたがいいなら、私もぜひお願いしたいかな」
「貴様……!」
「良い良い。では、人払いを頼む」
警戒する兵士だけど、国王の命令には逆らえない。
部屋の中にいたたくさんの執事やメイドを下がらせる。それはノマちゃんたちも同じだ。
「ごめん、ちょっと待っててね」
「わ、わかりましたわ」
ノマちゃんは、ヨルとリーメイ、それにレーレちゃんを連れて部屋を出た。
みんなが王の間を出たことで、この広い空間には私と国王の二人だけになる。
……部屋の中に隠れていたり、外に人の気配はない……か。
本当に、二人きりになったんだ。私はその気はないけど、もし私が国王の首を狙ったらどうするつもりなんだろう。
ま、話の流れによっちゃあ……なんてことも、ね。
「それで……わざわざ二人きりになって、なにが聞きたいの?」
私は、先手を打つために……国王をじっと見つめながら、切り出した。
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