522 / 739
第八章 王国帰還編
510話 これがイロジカケ……!?
しおりを挟むさてさてさーて。
ある程度の情報を集めたところで、魔導学園付近に到着。そして、見張りの兵士も発見。
「なあ。今更なんだけど、俺たちが脱走したことバレてると思うか?」
「どうだろうねぇ」
ヨルが言うのは、地下牢に閉じ込めていた私たちが逃げたことが、果たしてバレているのかというものだ。
それに関しては、予想でしかわからない。
私たちが脱走してから……うーん、どれくらいの時間が経っただろう。一時間? 二時間?
まあそんくらいだ。
「脱走したってバレてたら、もう少し騒ぎになってそうなものだけど……その様子もないよね」
「そうだなー」
「ま、バレてようがバレてまいが、どのみち姿を出すことには変わりないし」
私たちの脱走がバレているのかいないのか、それでわかるのはせいぜい警備の甘さくらいだ。
そんなことは今の私たちにはどうでもいいわけで。
よし、じゃあ行こうか。
「じゃ、まず私が声かけるから、あとから来てよ」
「おう。でも、声かけるたってどう……」
「もしもーし、そこの兵士さーん」
「そんな友達みたいに!?」
私は物陰から飛び出し、ひらひらと手を振りながら兵士に近づく。
話しかけられた兵士は私の姿を見て、目を丸くしていた。
「え、黒髪黒目……えっ」
そりゃそうか。捕まえろと指示されている黒髪黒目の人間が、自分からやってきたんだから。
見た感じ、若い兵士さんだな。私と同じ……いやちょっと上かな。
てっきり、おじさんばかりだと思っていたよ。
「すいません、国王のとこ連れてってほしいんですけど」
「え……はっ、え……?」
あらら、混乱しちゃってる。黒髪黒目の人間は捕まえろとは言われてても、自分からやってきた場合どうしろってことは言われてないんだろうな。
慌てちゃって、なんだかかわいいなぁ。
兵士がうろたえているのが面白いけど、とりあえずみんなを呼ぼう。
「おぉーい」
「お、いいのか? てか、別にエランだけ出ていく必要なかったろ」
「だって、いっぺんに出て行ったら驚かせちゃう……」
「うわぁああっ、増えたぁあああ!」
「……どのみち驚いてるじゃねえか」
私に続いて、黒髪黒目の人間一人と、フードで顔を隠した五人が現れる。
それを見て、兵士さんは驚いてしまったようだ。
別に取って食ったりしないってのに。
「え、えっと、お、応援を……」
「待った待ったお兄さん。私たち、国王のところに案内してほしいだけなんだって」
パニックになっている兵士さんの手を、そっと握り締める。もちろん、優しくだよ。握り潰したりなんかしないよ。
手を握ったのは、腰に差してある剣を取らせないためだ。それに、どこかから魔導の杖を取り出すかもしれない。
それを防ぐために。でも、それを悟らせないように。
「え、あ、手……じゃなくて、こ、国王様のところに……」
「そうそう。国王様から、私たちを捕まえろって指示が出てるんでしょ?
だったら、私たちを国王様の所に直接連れて行った方が、いいと思わない?」
正直、自分でもどうだろうというくらいのめちゃくちゃな理論。
だけど、相手に考える余地を与えないために、畳みかける。
「ね? そうすればお兄さん、黒髪黒目の人間を二人も捕まえた英雄だよ。褒められること間違いなしだよ」
「そ……そう、なのか?」
「そうそう!」
「……さっき洗脳がどうとか言ってたが、こっちの方がよっぽど洗脳っぽいぞ」
おいこら聞こえてるぞヨル。
いいんだよとりあえずその気にさせとけば。
「私たちは国王様に会いたい、あなたは私たちを連行して褒められる。ウィンウィンじゃない?」
「うぃんうぃん……?」
「そっ。だから……」
うーん、自分でもなに言ってるのかわからなくなってきた。
でも、相手をその気にさせる言葉を並べとけば交渉事はうまくいくって、師匠は言ってた。
あと、大切なことは……そう、これだ!
「ね、お願い!」
「!」
私は、身長的に上目遣いで見ることになる兵士さんに、ウインクをする。
ウインクには、人の警戒心を解く要素が含まれている……と支障が言っていたような気がする。多分。きっと。
半信半疑だったけど……兵士さんは、徐々に顔を赤くしていく。
もしかして、怒らせてしまっただろうか?
「わ、わかった。案内するから、離れなさいっ」
「おっと」
兵士さんは顔をそらし、手を振り払った。
その乱暴な様子に、やっぱり怒らせてしまったか……と心配になったけど、案内はしてくれるようだ。
そうやら、怒らせたわけではないのか?
「なんにせよ、よかったねヨル! リーメイ!」
「……お前それ天然なの?」
「なにが?」
振り向いた先にいたヨルは、なぜか複雑そうな表情を浮かべていた。
天然とはなんの話だろうか。
一方のリーメイは、目を輝かせていた。
「これが、噂に聞くイロジカケ……エラン大人ダ!」
「?」
なんだか、よくわかんないけど……まあ、うまくいったってことでいいんだろう。
兵士さんは案内してくれるみたいだし、私たちはその後ろを着いていけばいいのだ。
それから兵士さんは、近くにいた別の兵士と話をして……持ち場を離れることとなり、移動を開始した。
よぉし、いよいよ王城へ向かうぞ!
10
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。
黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる