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第八章 王国帰還編
505話 新国王に会いに行こう
しおりを挟む新しい国王に会いに行こう、ということになった。
ただ、会おうと思ってすんなり会えるものでもないだろう。
……普通ならね。
「エランちゃん、そんな大それたこと……大丈夫なのかい?」
当然、今の話だけを聞いたタリアさんは心配してくる。
いきなり帰ってきて、新しい国王に会おうなんて実行できるとは思えないだろう。
でも、私とヨルならそれができるはずだ。学園に行けば、兵士がいる。
私はその兵士に、王城の地下牢まで連れて行かれたんだ。つまりは、地下牢ではなくて王城の中……新しい国王がいる部屋まで行ってしまえばいい。
平和的に行くなら兵士に連れて行ってもらえばいいし……
「いざとなったら、実力行使で……」
「だ、だめよそれは!」
おっと声に出ちゃってたか。失敗失敗。
タリアさんっては、そんな心配しなくても大丈夫だって。
「冗談ですよぅ、あはははは」
「目が笑ってないですけど……」
実際問題、力押しで行けちゃう気はするんだよな……
魔力がなくても兵士の一人や二人余裕なわけだし、魔法が使える今なら相手が誰だって負ける気はしない。
でも、そんなことをしたら騒ぎになるからね。今度こそ国中に黒髪黒目の人間は敵だ、なんて言われたら溜まったもんじゃない。
一番怖いのは、力じゃない。権力だもん。
だから、今の状況をなんとかしないといけない。
「そうと決まれば……」
「エランさん、私たちも……」
立ち上がる私に、ルリーちゃんが言う。
自分たちも、手伝ってくれるという意思がわかる。それはありがたいことだ。
その気持ちは嬉しい。でも……
「ううん、今回は私とヨルで行くよ」
「! どうして……」
ルリーちゃんたちがいてくれたほうが、心強いのは確かだ。
でも、私たちはあくまで話をしに行くんだ。エレガたちを突き出して、黒髪黒目を捕まえるなんて指示を撤回してもらいに。
大勢で行ったら、警戒させてしまうだけだろう。
「一応平和的に解決するためだから、私たちだけで充分だよ。それに、もし荒事になったとしても、大勢いたんじゃヨルに魔力吸われちゃうかもしれないし?」
「失礼な。そんな見境なくするわけないだろう」
魔導大会で、ヨルは対象の魔力を吸い取るという芸当を見せた。
ただ、それも見境なくではないはず。魔力を吸い取る対象は選べるはずだ。
だからこれは、方便だ。
あと、こんな状況だからこそルリーちゃんたちにはおとなしくしていてもらいたい気持ちがある。
認識阻害の魔導具を身につけているとはいえ、相手がどんなのかもわからないところに、ダークエルフやエルフを連れて行くのは……なんだか、危険な気がする。
特に、ラッへは記憶を失っている。
これまでは魔大陸から帰ってくるため、行動を共にするしかなかった。
でも、ベルザ国に帰ってきたんだ。ひとまずは、安全なところで落ち着いていてほしい。
「私たちは大丈夫だから。いざとなったら、魔術ぶっ放したときにルリーちゃんたちを巻き込んじゃうかもしれないし」
「まるで俺なら巻き込んでもいいみたいな言い方!」
人数が少ないほうが、いろいろ動きやすいのは確かだし。
なるべく穏便には済ませるつもりだけど……逃げるってなっても私だけなら、浮遊魔法や分身魔法などいくらでもやり方はある。
ヨルは……ま、なんとかできるでしょ。
「……わかり、ました」
渋々といった感じだけど、ルリーちゃんはうなずいてくれた。
じゃあ、後の二人も……
「リーは行ク!」
……そこに、はいっと手を上げるリーメイの姿があった。
「えっと……リーメイ? リーメイも、待っててほしいなって……」
「いヤ! 行ク!」
はいっ、と手を上げたまま、下げる気配がない。
リーメイは長い時間を生きているけど、中身は子供っぽい。だから今回も、子供のわがまま的なものかと思った。
なんとか諭すようにと、言葉を考えていたのだけど……
「……」
リーメイの目は……わがままとかそんなんじゃなく、真剣だった。
思いつきでついてきたいと言っているわけじゃない。なんだか、強い意思みたいなものを感じさせる。
「なにか、ついてきたい理由があるの?」
「んー、理由カー。リーがそう思ったから、じゃだメ?
それに、リー役に立つと思うヨ?」
ついてきたい理由は、そう思ったから……か。
なんていうか、リーメイらしいかも。
役に立つ、という言葉を……まあ、信じるとしよう。
こんな目をされたら、置いていくわけにもいかないか。リーメイには、ルリーちゃんとラッへを頼みたかったんだけど……
「タリアさん、二人をお願いできる?」
「そりゃあいいけど……本当に行くのかい? 危ないんじゃないかい?」
心配してくれるのは、ありがたい。でも、行かなきゃいけないと思うから。
大丈夫だという意味を込めて、力強くうなずいた。
「エランさん……」
「大丈夫。ちゃんと帰ってくるから」
もしまた魔力封じの手枷をつけられそうになったら、そのときは逃げよう。全速力で。
私と、ヨルと、リーメイで。
こんな組み合わせ、少し前まで想像してなかったな。ニンギョなんて国外で初めて会って。ヨルのことは……今も苦手だけど。
ヨルは悔しいけど強いし、リーメイも水を使った魔法に関しては一級だ。ぜひとも、落ち着いた頃に手合わせしてみたいな。
特にヨルは、あのゴルさんと引き分けたんだから。
「さ、行こうか!」
目指すは魔導学園。直接王城に行ってもいいけど、それだと問答無用で不審者扱いされそうだ。
まずは、向こうから新国王のところに案内してくれるように、仕向けるとしよう。
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