上 下
517 / 739
第八章 王国帰還編

505話 新国王に会いに行こう

しおりを挟む


 新しい国王に会いに行こう、ということになった。
 ただ、会おうと思ってすんなり会えるものでもないだろう。

 ……普通ならね。

「エランちゃん、そんな大それたこと……大丈夫なのかい?」

 当然、今の話だけを聞いたタリアさんは心配してくる。
 いきなり帰ってきて、新しい国王に会おうなんて実行できるとは思えないだろう。

 でも、私とヨルならそれができるはずだ。学園に行けば、兵士がいる。
 私はその兵士に、王城の地下牢まで連れて行かれたんだ。つまりは、地下牢ではなくて王城の中……新しい国王がいる部屋まで行ってしまえばいい。

 平和的に行くなら兵士に連れて行ってもらえばいいし……

「いざとなったら、実力行使で……」

「だ、だめよそれは!」

 おっと声に出ちゃってたか。失敗失敗。
 タリアさんっては、そんな心配しなくても大丈夫だって。

「冗談ですよぅ、あはははは」

「目が笑ってないですけど……」

 実際問題、力押しで行けちゃう気はするんだよな……
 魔力がなくても兵士の一人や二人余裕なわけだし、魔法が使える今なら相手が誰だって負ける気はしない。

 でも、そんなことをしたら騒ぎになるからね。今度こそ国中に黒髪黒目の人間は敵だ、なんて言われたら溜まったもんじゃない。
 一番怖いのは、力じゃない。権力だもん。

 だから、今の状況をなんとかしないといけない。

「そうと決まれば……」

「エランさん、私たちも……」

 立ち上がる私に、ルリーちゃんが言う。
 自分たちも、手伝ってくれるという意思がわかる。それはありがたいことだ。

 その気持ちは嬉しい。でも……

「ううん、今回は私とヨルで行くよ」

「! どうして……」

 ルリーちゃんたちがいてくれたほうが、心強いのは確かだ。
 でも、私たちはあくまで話をしに行くんだ。エレガたちを突き出して、黒髪黒目を捕まえるなんて指示を撤回してもらいに。

 大勢で行ったら、警戒させてしまうだけだろう。

「一応平和的に解決するためだから、私たちだけで充分だよ。それに、もし荒事になったとしても、大勢いたんじゃヨルに魔力吸われちゃうかもしれないし?」

「失礼な。そんな見境なくするわけないだろう」

 魔導大会で、ヨルは対象の魔力を吸い取るという芸当を見せた。
 ただ、それも見境なくではないはず。魔力を吸い取る対象は選べるはずだ。

 だからこれは、方便だ。
 あと、こんな状況だからこそルリーちゃんたちにはおとなしくしていてもらいたい気持ちがある。

 認識阻害の魔導具を身につけているとはいえ、相手がどんなのかもわからないところに、ダークエルフやエルフを連れて行くのは……なんだか、危険な気がする。
 特に、ラッへは記憶を失っている。

 これまでは魔大陸から帰ってくるため、行動を共にするしかなかった。
 でも、ベルザ国に帰ってきたんだ。ひとまずは、安全なところで落ち着いていてほしい。

「私たちは大丈夫だから。いざとなったら、魔術ぶっ放したときにルリーちゃんたちを巻き込んじゃうかもしれないし」

「まるで俺なら巻き込んでもいいみたいな言い方!」

 人数が少ないほうが、いろいろ動きやすいのは確かだし。
 なるべく穏便には済ませるつもりだけど……逃げるってなっても私だけなら、浮遊魔法や分身魔法などいくらでもやり方はある。

 ヨルは……ま、なんとかできるでしょ。

「……わかり、ました」

 渋々といった感じだけど、ルリーちゃんはうなずいてくれた。
 じゃあ、後の二人も……

「リーは行ク!」

 ……そこに、はいっと手を上げるリーメイの姿があった。

「えっと……リーメイ? リーメイも、待っててほしいなって……」

「いヤ! 行ク!」

 はいっ、と手を上げたまま、下げる気配がない。
 リーメイは長い時間を生きているけど、中身は子供っぽい。だから今回も、子供のわがまま的なものかと思った。

 なんとか諭すようにと、言葉を考えていたのだけど……

「……」

 リーメイの目は……わがままとかそんなんじゃなく、真剣だった。
 思いつきでついてきたいと言っているわけじゃない。なんだか、強い意思みたいなものを感じさせる。

「なにか、ついてきたい理由があるの?」

「んー、理由カー。リーがそう思ったから、じゃだメ?
 それに、リー役に立つと思うヨ?」

 ついてきたい理由は、そう思ったから……か。
 なんていうか、リーメイらしいかも。

 役に立つ、という言葉を……まあ、信じるとしよう。
 こんな目をされたら、置いていくわけにもいかないか。リーメイには、ルリーちゃんとラッへを頼みたかったんだけど……

「タリアさん、二人をお願いできる?」

「そりゃあいいけど……本当に行くのかい? 危ないんじゃないかい?」

 心配してくれるのは、ありがたい。でも、行かなきゃいけないと思うから。
 大丈夫だという意味を込めて、力強くうなずいた。

「エランさん……」

「大丈夫。ちゃんと帰ってくるから」

 もしまた魔力封じの手枷をつけられそうになったら、そのときは逃げよう。全速力で。

 私と、ヨルと、リーメイで。
 こんな組み合わせ、少し前まで想像してなかったな。ニンギョなんて国外で初めて会って。ヨルのことは……今も苦手だけど。

 ヨルは悔しいけど強いし、リーメイも水を使った魔法に関しては一級だ。ぜひとも、落ち着いた頃に手合わせしてみたいな。
 特にヨルは、あのゴルさんと引き分けたんだから。

「さ、行こうか!」

 目指すは魔導学園。直接王城に行ってもいいけど、それだと問答無用で不審者扱いされそうだ。
 まずは、向こうから新国王のところに案内してくれるように、仕向けるとしよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

処理中です...