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第八章 王国帰還編

504話 新しい国王

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「白髪……黒目の男?」

 タリアさんから話された、新しい国王……その名前と、特徴。
 レイド・ドラヴァ・ヲ―ムという名前のその男は、白い髪に黒い瞳をしているのだという。

 その特徴の人間には、心当たりがある。
 学園で出会った、私をママと慕ってくるフィルちゃん。魔大陸からの帰還中、ナカヨシ村で出会った魔女さん。

 そして……魔力が昂ぶった時に、私のこの黒い髪は白く変化したらしい。

「えぇ。前国王のザラハドーラ様が亡くなったと発表されたと同時に……新しく、自分が国王の座についたと、宣言したのよ」

「それ……みんな、納得してるの?」

「納得するもしないも、ないわ。不満をぶつけた人は、公に拘束されて、どこかへ連れていかれたから」

「……!」

 それは、聞いただけでも戦慄するような内容。
 ある日いきなり、自分が新しい国王だと名乗って……それを認めない人間は、拘束するだって? そんなの、横暴にもほどがある。

 もしかして、国内で以前みたいにたくさんの人を見かけなかったのは……そういった、捕まえられるのを恐れて外を出歩いていないから?

「何者なんだろ、その男」

 それにしても、聞いたことのない名前だ。
 まあそもそも、私はこの国に来てから日が浅いし、王族の名前だって知らなかったんだから知ってる名前の方が少ないんだけど。

「わからないわ。聞いたこともない」

 それに、この国に長く住んでいるタリアさんも、聞いたことがないっていう。
 確か……名前と家名の間にあるミドルネームってやつがある人は、王族だって聞いたけど。

 だけど、新王の名前はレイド・ドラヴァ・ヲ―ム。
 ザラハドーラ・ラニ・ベルザやゴルドーラ・ラニ・ベルザみたいに『ラニ』じゃないもんなぁ。

「王族って、ゴルさんの家以外にもいるもんなの?」

「さあ、俺に聞かれてもな」

 むぅ……よくわかんないなぁ。

 とりあえずわかっていることは。
 新王のことはこの国の人間でも知らない。自分に不満を持つ人間を捕まえている。黒髪黒目の人間も捕まえている……これは、一部の兵士にしか共有してないっぽい。

 そして……白髪黒目、か。

「ねえ、あんたたちはなにか知らないの?」

 私は、とりあえず情報が欲しくて、黙って聞いていたエレガたちに視線を向ける。
 なんでもいいから、手掛かりがほしくて。

「……知らねえよ。だいたい、この国の人間も知らないのに俺らが知るかよ。
 それに、そいつは白髪黒目なんだろう。どっちかと言うとお前の方が知ってんじゃないのか」

「なにおう」

 でも考えていた通り、わからないとのことだった。
 エレガの言うように、黒髪黒目ってわけでもないし……ま、関係はないよね。

 そう結論付けて、私はそれ以上の追及をすることはなかった。

「…………」

 それからしばらく考えるけど、結局結論は出ない。

「学園は休校になってる、みんなはあんまり外に出ていない、学園の生徒は寮に残っている子もいる……
 先生とかは、どうしているんだろう」

「さあ……というか、待て待て。まず一旦整理しよう。
 エランの目的は、なんだ?」

「目的って……私はただ、帰ってきたよーってことをみんなに伝えたくて……でも、いざ帰ってきたら国王は変わってるし学園のみんなと連絡を取る方法もないし、そもそも学園には近づけないし」

 そうやって一つ一つ整理していくと……つくづく、私の思っていたこととはかけ離れたことが起こっている。
 あんな騒ぎがあったんだし、帰ってきてもまだ国は大変なことになっているかもしれない。それは考えた。

 でもまさか、国王が新しくなって、その国王が好き勝手やってると思わないじゃん。

「……とりあえずさ、その新しい国王ってやつにエレガたちを差し出して、私たちは見逃してもらうってのはどうかな」

 私はヨルの耳元で、妙案をささやく。

「げ、外道……いや、そいつらがあの事件を起こしたんなら、そうするべきなんだろうけど。
 けど、俺を捕まえた兵士の様子から察するに、それで見逃してはもらえないと思うぞ」

 いい案だと思ったんだけど、却下されてしまった。
 確証がないから、ちょっと難しいかぁ。

「だいたい、その新王もおかしいよね。黒髪黒目の人間は片っ端から捕まえろなんて。
 これじゃ、せっかく帰ってきたのに平穏な暮らしを送れないよ」

「これまでの生活の中に平穏があったかは疑問だけど、その通りだな」

 なにをするにしても、黒髪黒目の人間を捕まえろ、なんてのがある限り、私たちは自由に外を歩けない。
 姿を隠しながら生活すれば、そりゃあ……あぁ、ルリーちゃんもこんな気持ちだったのかな。

「エランさんはなにも悪いことをしていないのに、捕まえられるのはおかしいです」

「俺も俺も」

 そのルリーちゃんが、私を気遣ってくれている。
 その目は、『なにかやることがあるなら協力する』と言ってくれているよう。

 ラッヘもリーメイも、私を見て頷いてくれている。

「ヨル……さっきの提案だけど、やっぱこれで行こうと思う」

「お」

「どっちみち、エレガたちをずっと連れておくわけにもいかないんだし。
 こいつらを突き出して、それで私とヨルは無関係だって主張する」

「それでだめなら、どうする?」

「うーん、そうだなぁ……クロガネに暴れてでも、もらおうかな」

「クロガネ……?」

 ここでじっとしているのは、性に合わない。
 帰って来てからの目的、学園のみんなにただいまと言う。そのために、学園に入れなくちゃどうしようもない。

 新しい国王直々に、私たちが無害だってことをわかってもらおうじゃないか。
 それに……新しい国王に私は、会わなきゃいけない。そんな気がする。
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