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第八章 王国帰還編
503話 一人で抱え込んで
しおりを挟むクレアちゃんは、今どうしているのか……
それをタリアさんに聞いたところ、帰ってきていないどころか連絡もろくに寄越さない状態だという。
その事実に、私は……そしておそらくルリーちゃんは、胸を締め付けられる思いだったに違いない。
「ずっと帰って、ないんですか」
「えぇ。学園が休校になって、一度あの子から連絡があったんだけど……帰らない、一人になりたいの一点張りで。
なにかあったのって聞いても、だんまりでねぇ」
困ったわ、と頬に手を当てるタリアさん。
クレアちゃんが、帰ってこない理由……それは一人になりたいから。そしてその理由は……おそらく、私が考えていることで正解だ。
魔導大会の……ルリーちゃんがダークエルフだと判明した、あの一件。あの件だと思う。
あの一件で、クレアちゃんは引きこもってしまった……ということだろうか。
「……」
ただ、今のでわかることと言えば……クレアちゃんは、ルリーちゃんのことを誰にも話していない可能性が高い。
タリアさんになにを聞かれてもだんまり。そして、タリアさんにすら話していないということは、他の子に話している可能性も低い。
一人で抱え込んで……誰にも打ち明けることもできずに。
「クレアさん……」
心配した様子で、ルリーちゃんがつぶやく。
あんなことがあっても、心配か……そりゃそうだよね。それがルリーちゃんだもん。
クレアちゃんが、ルリーちゃんがダークエルフであることを話してないのは。いったいどうしてだろう。
もちろんそのほうがありがたいんだけど……
話しても誰にも信じてもらえないと思ったか。まだ全部自分の中でも処理できていないからか。
それとも……どこかで、ルリーちゃんを信じたい気持ちが残っているからか。
「エランちゃんたちは、なにか……知らないわよね、大会中にどこかへ消えたんですって? 大変だったわね」
「あはは……」
正直、ここでルリーちゃんの正体を明かして……クレアちゃんが引きこもっているのは、ルリーちゃんがダークエルフだと見てしまったからです、と言っても……
それでどうなるかわからない以上、やめておいたほうがいいかも。
まずはクレアちゃんと会って、ちゃんと話をしよう。
なにしろルリーちゃんが、クレアちゃんのことで頭がいっぱいになっているから。
「学園の寮に行けば、クレアちゃんに会えるってことだよね」
「はい。もっとも、クレアさんに会ってくれる意思があればですけど……」
「学園かぁ……けどエランたち、学園に入ろうとして捕まったんじゃなかった?」
「あ」
学園に行けばなんとなるだろうと思っていたけど、ヨルの言葉で思い出す。
そういえば私たちが捕まった理由は、学園の入口にいた兵士に話しかけたからだ。
また学園に行って、学園の兵士に見つかったらまた捕まってしまうだろう。
しかも、一度逃げたことがわかれば……一度目よりも、厳重に。そんなことになれば、今度こそ逃げられなくなる。
学園に近づくのも危険かぁ。
「え、エランちゃんたち捕まってたって……」
「あ、いやぁ、いろいろありまして……」
「リーたち、悪いことしてないヨ!」
さっきまで私たちが捕まっていたことを知らないタリアさんが、驚いたような表情を浮かべる。
誤解……ではないんだけど、そこはちょっと違うんだよ、と言いたい。
リーメイが自分たちの無罪を主張することで、なんとか落ち着く。
私たちは、新しくなった国王の変な命令のせいで捕まったんだ。私たちは悪くは……あっ!
「そうだ、タリアさんに聞きたいんだけどさ」
「うん、なんだい?」
前の国王が死に、新しい国王が誕生する……そんな重大な出来事、この国の人間ならば知らないはずはない。
ヨルは有無を言わさず捕まったみたいだけど。タリアさんなら、その後国内でどういう動きがあったのか知っているかもしれない。
「その……国王が、変わったって聞いたんだけど」
ただ、なんと切り出せばいいのかわからなかった。
なので、ほとんど直球に切り出す。その際、ちらりとヨルを見た。
ヨルも、詳しいことは知らないからか軽くうなずいて……タリアさんに、視線を向けた。
「あぁ……そうみたいね。本当に、悲しいことだわ」
私たちの視線を受けて、タリアさんは重々しく肩を落とした。
残念だと言っているのは、実際にそう思っているとわかるほど。
あんまり、意識したことなかったけど……もしかしてザラハドーラ・ラニ・ベルザ国王って、結構みんなから慕われてる?
「例の、魔導大会の事件で。魔獣に襲われて、命を落としたと聞いているわ」
これは、ヨルから聞いたものと同じだ。
やっぱり、ザラハドーラ国王は魔獣に殺された……そう、発表されているんだ。
ただ、その原因となったのは黒髪黒目の人間によるもの……このあたりは、発表されていないんだろうか?
されてたら、私はもう少し変な目で見られたと思うし。
「知りたいのは、新しく王様になった人のことだよ。ゴルさ……ゴルドーラ第一王子じゃないんでしょ?」
「えぇ。他のご兄弟も、ね」
ヨルの話によると、ゴルさんは重傷を負ってしまっている。
ということは、コーロランやコロニアちゃんも……もしかしたら、怪我をしているかもしれない。
そして、ザラハドーラ国王の子供を差し置いて、いったい誰が新しい王様の座に座っているんだ?
「新しい国王の名前は、確か……レイド・ドラヴァ・ヲ―ム……ひと目見ただけだけど、白い短髪に黒い瞳をした、若い男よ」
「!」
タリアさんの口から、新しい国王の名前と……特徴が、伝えられた。
その特徴は……また、白髪黒目か……!
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