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第八章 王国帰還編

493話 黒髪黒目の人間

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 それは、衝撃の言葉だった。
 ベルザ王国の、国王……ゴルさんたちのお父さんでもあった、ザラハドーラ・ラニ・ベルザが。

 死んだと……殺されたと、いう話は。

「ころ、された?」

「前国王も、あの場にいらしたのだ。そして、騒ぎになったあの場においても国民を逃がすことを最優先とし……
 ……よくもまあ、他人事のように言えるものだ」

 兵士が私を睨むその目には、憎悪の色が深く刻まれていた。
 私自身、その目を向けられたことはない……だけど、覚えがある。

 あの時の、ダークエルフルリーちゃんを見る時のクレアちゃんの目……
 憎悪と恐怖と、それらが入り混じった目。

 それに、よく似ている。

「え、エランさん……」

 隣のルリーちゃんが、怯えたような声を出した。
 国王が死んだと聞いて、冷静ではいられないのだろう。

 ルリーちゃん自身、国王との面識はなかった。でも、コロニアちゃんやコーロランとは、多少なり友好はあった。
 同じ学生として、クラスは違っても昼食の時間や合同授業の時に話しているのを見たことがある。

 知っている人の、身内が殺された。それは、結構……重く、圧し掛かる。

「……だから、黒髪黒目の私は敵視されてるってわけか」

 ザラハドーラ国王は、会った回数こそ少ないけど部下から慕われている人だった。
 その人が……死んだ。殺された。この国に現れた、黒髪黒目の人間が放った魔獣のせいで。

 だから、同じ特徴を持つ私に対して、攻撃的になっているということだ。

 ……下手に抵抗してなくてよかった。暴れたら、余計に警戒させてしまう。
 それに、エレガたちに認識阻害の魔導具を被せているのも結果的にはよかった。こんな状況で魔獣を放った張本人と一緒にいるなんて……犯人の仲間です、と言っているようなものだ。

「うーン……あの、リーよくわかんないんだけどサ」

 すると、これまでずっと黙っていたリーメイが……口を、開いた。

「要するに、この国を治めていた王様が殺されて、その仲間だと疑われているから捕まってル……ってことだよネ?」

「えっと……そうなるね」

「ンー……それ、エランはなんの関係もないよネ。リーたちモ」

「……」

 リーメイの、きょとんとした表情から出てくる言葉。それは、私が……いや私たちがおそらく全員思っていたこと。
 でも言えなかったことを、リーメイはあっさりと言った。

 それは、黒髪黒目の当事者の私や、この国で過ごしたルリーちゃんではなく……人間の国に触れてこなかったリーメイだからこそ、言える言葉だった。

「貴様……先ほどの話を聞いていなかったのか? この女の黒髪黒目の特徴、この国をめちゃくちゃにした奴らと同じ特徴の……」

「だから仲間……っテ? 話を聞かないのは、そっちもじゃなイ」

「なんだと」

「さっきから黙れ黙れって、こっちの話を聞く耳持ってないじゃなイ。まるで、エランのことを犯人の仲間だって決めつけてるみたイ」

 兵士の大きな声にも、リーメイは怯まない。
 それどころか、強い姿勢で言葉を返すばかり。

 これまで、子供のような姿のリーメイしか見てこなかった。というか、そういう面しかないのだと思ってた。
 でも、この凛とした姿は……

「黒髪黒目の人間が、この国の人間の王様を殺しタ。だから黒髪黒目の人間を要注意人物として睨ム……それはわかル。だから黒髪黒目の人間を捕らえる、それもまあわかル。
 でも、エランの話を聞く様子も見せないのは、わからなイ」

「っ、そいつは、いや黒髪黒目の人間はこの国を貶めた連中の仲間だ。例外はない、見つけ次第捕まえろというのが、現国王の意向だ!」

「……現国王」

 リーメイの挑発を受け、兵士は顔を赤くして叫ぶ。
 その中で、わかったこと……私を捕まえたのは、現国王の意向だっていうこと。

 ザラハドーラ国王が死んで、今の国王が誕生して……黒髪黒目の人間を捕まえろと命じた?
 今の国王って……ザラハドーラ国王が亡くなったら、次の王位は第一王子のゴルさんじゃないのか?

 ゴルさんが、こんなことを……?

「あれ……? 黒髪黒目の人間……例外はない……」

 今兵士が言ったのは、黒髪黒目の人間は見つけ次第捕まえるというもの。
 私がそうだし、他には……エレガたちはここにいるけど、認識阻害の魔導具で顔は見えないはずだ。

 他に黒髪黒目の人間はいない……と、思いたいけど。
 いる……私が知ってる、この国で初めて会った黒髪黒目の男の子が。

「あいつも……もしかして?」

「エランさん?」

 魔導学園で出会った、ヨル。あいつも、黒髪黒目の人間だ。
 あいつのことは、苦手だ。嫌い……とまではいかないけど、初対面でいきなり詰め寄ってきて、わけのわからない単語を並べて。

 でも……悪いやつでは、ないんだよな。

「ねえ、兵士さん」

「……なんだ」

 リーメイの言葉に思うところがあったのか、それとも最初から会話をしないなんてつもりはなかったのか。
 とにかく、兵士は私の言葉に反応してくれた。

 なので、気になっていたことを聞く。

「ここに、私以外にも黒髪黒目の人間が捕まってるんじゃない? 魔導学園の生徒で……」

「貴様以外? ……あぁ、あいつか」

 そう言って、兵士は少し離れたところにある牢屋に、視線を向けた。
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