488 / 821
第七章 大陸横断編
476話 人の心とかないんか?
しおりを挟む魔物から元に戻ったモンスター。彼らを集めて、このナカヨシ村を作り上げた魔女さん。
魔物をモンスターに戻した後、こうして村に招いてお世話しているのは、それだけ魔女さんが面倒見がいいってことだろう。
……お世話しているのか?
「魔物の魔力を吸い取って力を付けたせいか、ある一部の場所ではなんでもできるが、それ以外の場所ではただの非力でか弱い魔導士だ」
「か弱い……」
「なにか?」
か弱いって言うには、さっき大きな魔物をボコボコにしていたよね……
あれ魔力を感じなかったから、身体強化もなにもしていないよね。素の力だよね。
まあそこを突っ込むと、なんか怖いので黙っていよう。
「ううん、なんにもないよ。
それより、魔物の魔力を吸い取るなんて、思いつきもしなかったことだよ」
「……ごまかされた気もするが、まあいい」
それから魔女さんは、うんと腕を伸ばして伸びをする。
こうして魔女さんの横顔を見ると、やっぱり師匠なんだよなぁ。同じ顔の経緯は思い出したくないけど。
「魔導は、イメージの力だ。"魔物の魔力を吸い取る"というイメージを持てば、なにもできない話ではない。
それに思い至らないのは、仕方ない話言えるだろう」
魔導はイメージの力、か。確かにその通りだよなぁ。
魔法だって、イメージを具現化して、攻撃や防御に変換する。氷の槍とか、雷の剣とか。
言ってしまえば、魔導はイメージの力だ。魔導を扱う才能には、イメージの力も大きく関係するって師匠も言ってたっけな。
「まあ私の場合、きっかけは無我夢中……つまり、生き残るための最善策を本能で導き出したということだ。
あまり頭でごちゃごちゃ考えても、イメージの力は広がらない」
「本能で……」
そういえば、私も経験があるな。最近だとやっぱり、ゴルさんとの決闘だろうか。
ゴルさんのたくさんのゴーレムに対抗するために、私もたくさんの分身を生み出したり……
なにより、分身ありきでの魔術の二重詠唱なんて、その場で一か八かで思いついたものだ。
「まだまだ、魔導については分からないことが多いってことか」
「あぁ。魔導は奥が深い……だからこそ、面白い。
モンスターが魔石を取り込み、魔石内の魔力によってその体は魔物へと変貌する。ならば体内の魔力をなくせばモンスターに戻る……考えてみれば、当然でもある。
だが、元に戻ったモンスターが喋っている理由は? モンスターは魔石を好むが、元に戻ったモンスターもそうなのか? 元に戻ったモンスターが再び魔石を取り込めば再び魔物になるのか? ……興味は尽きない」
「あのぉ……もしかして、この村で人体実験的なことは、していないですよね」
「失礼な。命に関わるであろうことはしていないさ」
「ものすごい心配になる発言!」
なんか、ちょっと怖いけど……さすがに、非人道的なことはしていないと思いたい。
多分……いや、パピリに対する対応を見ていると、雑な対応だけど大切には思っているはずだよ。
「ははは、なにも心配することはない。人体実験? バカバカしい……相手はモンスターだぞ、人じゃない」
「人の心とかないんか?」
「あっはははは!」
ここに来て魔女さん大笑い……魔女さんのツボがわからん。
まあ、この分じゃ解剖とか危険なことはしてなさそうだ。この人からは、そんな危険なにおいはしない。
世の中には、自分の欲を満たすために容赦なく非人道的なことをする人がいるって聞いたことがあるけど……
この人は、そんなんじゃない。
「あー、いや、人と話をするのは久しぶりでね。思わず、舞い上がってしまった」
「まあ、人が来るような位置じゃないもんね」
魔大陸から帰ってきて、それから歩いて……デンシャに乗って。
その先にあったのが、この場所だ。大陸の端に近いもんな。
あまり人が来るような場所では……
「そういえば、あのデンシャってなんなんですか? あれに乗ったら、この村の近くについて」
ここに来た経緯を思い出していると、ルリーちゃんが身を乗り出して魔女さんに聞いた。
それは、今の今まですっかり忘れていたデンシャの存在。
あれ、かなり異質で気になっていたのに、しゃべるモンスターが生活している村の出現で記憶の隅に行っちゃってたよ。
「デンシャ……? ……もしかして、あの乗り物のことか?
さあな、私も知らん。ただ、魔力で動いているわけでもなさそうで、あんなものをどうやって作ったのか。気にはなっていた」
どうやら、魔女さんも知らないみたいだ。
それも、デンシャの名前さえも初めて聞いたようだ。
ってことは、あのデンシャがあった場所の近くにこの村を作った……ってことかな。
「なぜお前たちは、アレの名前を言っている? それとも、呼称か?」
「ええと……」
デンシャの名前は、私たちが知っていたんじゃなく……エレガが言っていたものだ。
なので、それをそのまま伝える。彼が、あの乗り物を見てデンシャだと言っていたのだ、と。そして、あいつがいろいろ言っていた聞きなじみのない言葉も。
それを聞いて、魔女さんはあいつや私と同じ黒い瞳を閉じる。うーんと、考えているようだ。
「ふむ、イセカイ、メガミ、デンシャにデンチュウ……面白いな。
面白いついでに、こんな話を聞いたことはあるか? この世界とは、異なる世界が存在する、という話を」
0
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「私は誰に嫁ぐのでしょうか?」「僕に決まっているだろう」~魔術師メイドの契約結婚~
神田柊子
恋愛
フィーナ(23)はエイプリル伯爵家のメイド。
伯爵家当主ブラッド(35)は王立魔術院に勤める魔術師。
フィーナも魔術師だけれど、専門高等学校を事情で退学してしまったため、魔術院に勤務する資格がない。
兄が勝手に決めた結婚話から逃れるため、フィーナはずっと憧れていたブラッドと結婚することに。
「結婚しても夫婦の行為は求めない」と言われたけれど……。
大人紳士な魔術師伯爵と自己評価低い魔術師メイドの契約結婚。
※「魔術師令嬢の契約結婚」スピンオフ。キャラ被ってますが、前作を未読でも読めると思います。
-----
西洋風異世界。電気はないけど魔道具があるって感じの世界観。
魔術あり。政治的な話なし。戦いなし。転移・転生なし。
三人称。視点は予告なく変わります。
※本作は2021年11月から2024年12月まで公開していた作品を修正したものです。旧題「魔術師メイドの契約結婚」
-----
※小説家になろう様にも掲載中。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる