上 下
475 / 769
第七章 大陸横断編

463話 魔女のいたずら

しおりを挟む


「……寝ちゃってたのか」

 目を覚ますと、昨日寝たのと同じベッドの上だった。
 まさか魔女さんが、あんなに師匠のことを語るとは思わず……逃げるように、布団に潜り込んだわけだけど。

 ……うん、リーメイの水のベッドも気持ち良かったけど、やっぱりこういうベッドはまた違うな。
 魔大陸でガローシャに泊めてもらったところは、ベッド固かったもんなぁ。

 おかげで、すっきり眠れたみたいだ。

「ふぁ、あ……」

 目覚めに大きなあくびをして、ベッドから出る。
 一人だけ、か……なんかちょっと、寂しいな。

 ま、昨日の広間みたいなところに行けば、少なくとも魔女さんはいるでしょ。

「……わ、長い廊下」

 部屋を出ると、そこには長い廊下が広がっていた。
 確かラッヘとリーメイは、この家に来たときに部屋の奥へ行ったけど……私は、家の奥に来たのは初めてだ。

 昨日だって、食事の途中に寝てしまった私を運んでくれたのは、魔女さんだし。
 迷わずに、行けるかな……

「ま、一本道だし大丈夫か」

 長くても、道は一本。迷う心配は、どこにもない。
 私は部屋の扉を閉めてから、廊下に出て……あ、これ右と左どっちに行けばいいんだ?

 まあ……なんとかなるか。広いって言っても、家の中だし。

「レッツゴー、なんちゃって」

 声を上げても、当然返事は返ってこない。寂しいなぁ。
 とりあえず右に向けて、私は足を進める。

 コツコツと、靴の音が響く。窓はあるけど、全部閉まっている。開けたいけど、鍵がないんだよなぁ。
 外は明るくなってきていて、朝みたいだ。

「うーん……廊下しかない」

 歩いてしばらく経つけど、広間どころか廊下しかない。
 一本道の廊下……他に道はないし、部屋もない。ただただ前に進むだけ。

 おかしい……確かにこの村一番の大きさの家ではあるけど、ここまで大きくはないはずだ。
 歩いた感じで、だいたいの大きさはわかる。明らかに、外観よりも広い。

 しかも、廊下が一本しかないのもおかしい。
 迷うはずのない道に、迷ってしまったかのようだ。

「おーい、みんなー! 魔女さーん!」

 私は焦れったくなり、声を上げる。
 声は室内に反響するが、それだけだ。返事はないし、声が反響するってことは完全な密室だ。

 私、これ閉じ込められてない?

「どうしよう……杖もないしなぁ」

 最悪壁を破壊して外に出ようにも、手元に魔導の杖はない。
 杖がなくても魔法は撃てるけど、威力を誤ったらまずいよな。こんな場所じゃ、自分にも被害が及ぶ。

 まあそれは最終手段だから……いや、最終手段というからにはクロガネを召喚してしまえばいいか。
 クロガネの巨大なら、この廊下を破壊することも可能だろう。

「それも、みんなに被害が及ぶ可能性があるから、使いたくはないかな」

 魔法を撃つなら自分だけに被害が及ぶだけで済むけど、家を壊したらみんなに被害が及ぶからなぁ。
 それは避けたいし、なしかな。

 となると、やっぱり力技以外の方法でなんとかしないと。
 ……とりあえず歩き続けるしかないのか。

「もー、家の中でこんなに歩くってなにさー」

 ぶつぶつと一人でなにを言っても、誰も聞いてくれないんだもんな。寂しいよー。
 それからもしばらく歩いていくと、ようやく一つの扉を見つけた。ここが広間に繋がっているのだろうか。

 扉を開き、部屋の中へと入る。すると、そこには見覚えのあるベッド……
 シーツが、よれたままだ。あれって……私がさっきまで寝ていた、ベッドだよね。

 え、戻ってきた? まっすぐに進んでいたはずなのに、元いた場所に戻ってきた? なにそれ怖い。

「わぁー! ふざけやがってぇ!」

 私は昂る気持ちを拳に乗せて、壁をぶん殴る。
 魔力強化した拳だけど、壁にはヒビ一つ入らない。バカな……

 こうなったら、全力の魔力強化をして壁に一点殴りつけて……

「おいおいおい、待て待て待て」

 魔力を高めていると、どこからともなく少し焦ったような声が聞こえた。
 すると、どこに隠れていたのか魔女さんが部屋の中に姿を現した。

「あ、いた」

「あ、いた……じゃない。なにをやろうとしているんどキミは」

「壁をぶち壊そうと」

「乱暴すぎるだろ!」

 派手な魔法が使えないのなら、身体強化をすれば問題はない。そう思って、今から実行に移そうとしていたんだけど。
 それを危惧してか、魔女さんが出てきた。

 ていうか、このタイミングで出てきたって……確実に、見ていたよね。

「じゃああの長い一本道も、魔女さんのせい?」

「いやぁ……寝起きのサプライズ、みたいなものをな」

「いらないよそんなの!」

 魔女さんの余計な気遣いは、本当に余計だった。
 魔女さんはなんとか私を落ち着けようと、ポンポンと背中を叩いてくる。気安く触んじゃねぇよぉ……

「悪かった、少し驚かせようと思ったんだ」

「少しどころじゃないよ。まったく、私だからまだよかったものを……
 まさか、ルリーちゃんたちにも同じことを……!」

「いや、キミだけだ。安心してくれていい」

 私だけに、この長い一本道サプライズを仕掛けたのか……全然嬉しくない。
 とはいえ、他のみんなに同じようなことをされてなくてよかった。

 結局その後、魔女さんの案内で部屋を出て、右へ歩いていくと……その先にあった扉を開き、そこは広間だった。
 十秒で着いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

処理中です...