上 下
472 / 751
第七章 大陸横断編

460話 いい人か悪い人か

しおりを挟む


「……んぁ……?」

 眠っていた意識が、徐々に覚醒していく。
 目を覚ますと、そこは知らない天井……真っ白な、天井があった。

 まぶたを二、三回開いては閉じて、首を動かして周囲を見回す。
 すると……

「お、目が覚めたか」

「!」

 近くの椅子に、魔女さんが座っていた。
 他には、誰もいない。ここは、部屋の中か……それに、私が寝転がっているのは、ベッドの上。

 私、なんでこんなところで寝て……

「ぁ……」

 思い出そうとして、眠ってしまう前のことを思い浮かべて……思い出した。
 その瞬間、私の体は弾かれたようにベッドから起き上がり、魔女へと視線を向け、睨みつけた。

 そうだ。温泉に入って、スッキリしてその後ここでご飯をごちそうになって……そしたら、急に眠気が襲ってきて。
 つまり、料理になにか盛られていた……?

「どうした、起きるなりそんな怖い顔をして」

 魔女は、余裕そうな笑みを浮かべている。

 しまった、杖がない。温泉に入ったときにホルダーごと外して、服と一緒に袋の中だ。
 どのみち、身につけていたとしても眠っている間に取られてしまっていただろうけど。

 今の私は、丸裸も同然。そして相手は、自分を魔女と名乗る人物だ。
 これは……まずいかもしれない。

 いや、いざとなればクロガネを呼び出して……

「落ち着けよ。そんなに殺気を漏らして、どうしたんだ」

「とぼけないで。なにか、料理に盛ったんでしょ」

「盛った……?」

「そう! だからあんな急に眠気が来て、みんな……
 ! そう、みんなはどこ!」

 料理を口にして、眠った。料理になにか盛られていたのなら、私と同じく料理を口にしたみんなも、眠っているはずだ。
 ここにいるのは、私だけ。みんな、どこへ?

 ルリーちゃんやリーメイはまだしも、エルフであっても記憶がなくなっていふラッヘを一人にしておくのは、危険だ。
 早く、合流しなければ。

「なにをそういきり立って……あぁ、そういうことか」

 魔女は、私とは対称に冷静だ。
 その冷静さが、私の中の焦りを大きくすることに、気づいているのだろうか。

「お前は、私が料理に毒でも盛って、眠らせたと思っているんだな」

「思ってるもなにも、実際に……」

「私はなにもしていないが」

 ……ん?

「いや、なにもって……そんなわけは」

「私も少し焦った。うまそうに料理を食べていたと思ったら、当然全員眠ったんだからな。
 ま、ここに来て旅の疲れが一気に出たのだろう」

 ……私は、なんとか魔女の言葉を理解しようと、なんとか頭を回転させる。
 料理にはなにも盛っていない。なのに私たちは眠くなった。旅の疲れ。

 温泉に入ってスッキリして、おいしい料理をお腹いっぱいに詰め込んで……安心したことで、緊張の糸が切れた?

 つまりは……お腹いっぱいになって、寝ただけ……?

「…………」

「頬を引っ張ってもなにも変わらないぞ」

「ええと……大変、失礼しました」

 冷静になってみれば、魔女さんが料理に毒を仕込む理由がない。
 私たちになにかするつもりなら、毒なんか仕込まなくても……いくらでも、方法はある。

 だってこの人、かなり強いから。
 クロガネがいれば、とは思うけど……なんでか、クロガネの力はあてにできない。そんな気がする。

「まったく、私がお前たちを害するなら、いくらでも機会はある。わざわざ料理に毒など仕込まん」

 私が考えたことを、まるで読み取ったかのように魔女さんは言う。

「というか、毒を仕込むなど、料理への冒涜だ。そんなことはせん」

「はい……」

「こう言ってはなんだが、私はお前たち全員を相手にしても勝てる自信がある。
 凄まじい使い魔もいるようだが、召喚を封じる手などいくらでもある」

 うぅ、考えていたこと全部ピンポイントで言われちゃったよぉ。
 この人には、隠し事も通用しなさそうだ。

 私たちになにかする気なら、それこそ温泉への行き帰りという隙だらけの時間もあったわけだしね。

「疑ってごめんなさい」

「まあ、いいさ。気持ちはわからんでもない。こんな得体の知れない人間相手に、警戒するなと言うほうが難しい」

 得体の知れないって自分で言うのか……いや、でもそうだな。
 いい人だって思っておきながら、私はまだこの人を疑っていたわけだ。

 モンスターだらけのこの村で、唯一の人間。どこか親近感を感じていた部分もあるけど、だからって信用していたわけでもないのか。

「ただ、これで私が無害な人間だとわかってくれたかな?」

「それは、うん……」

 今私がこうして、無事目覚めたのがその証拠だ。なにか悪いことを考えていたなら、寝ていて無防備な私になにかしているだろう。
 ここまで来てまだ私を騙そうとしている、って線もないよな。

 うん、この人はちゃんと信用できる人だ。

「じゃあ、他のみんなは……」

「それぞれ、部屋に運んだ。言ったろう、どこでも好きな部屋を使っていいと」

 どうやら、他のみんなも私と同じように、部屋に運ばれたらしい。
 魔女さんが言っていたように、一人一部屋以上のスペースがあるみたいだこの家には。

 とりあえず、みんなの無事もわかって一安心だ。

「これで、心配事もなくなったか」

「あー、うん。ご迷惑をおかけしました」

 私ったら、勝手に変な想像しちゃって、盛り上がって……恥ずかしい!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...