465 / 741
第七章 大陸横断編
453話 モンスターの暮らす村
しおりを挟むデンシャに揺られてやって来た先にあったのは、モンスターだらけの村。
しかもただのモンスターじゃあない。しゃべるモンスターだ。
モンスターも魔物や魔獣すら、言葉を話すことはない。
まあ魔獣の中でも"上位種"って呼ばれる奴は、意味のある言葉を話せはするみたいだけど。
それでも、カタコトな感じで……こんなにも流暢にしゃべるものは、まずいない。
それを思えば、世界は広いなぁ。
「あの、どこか休めるところとか……」
「わぁーい!」
なぜか牧場の前に案内され、休憩できるところを聞こうとするが……
うさぎは、牧場の中に飛び込んでいった。いろんなモンスターがいる中、うさぎはぴょんぴょんと跳ねて楽しそうだ。
だけど、数秒と経たずに戻って来る。
「あのね! 僕パピリ! よろしくね!」
なぜか、このタイミングで自己紹介が始まった。
「え、あ、うんよろしく。それで、どこか休めるとこ……」
「お姉ちゃんのお名前は!?」
「……エラン、だよ」
「エランちゃん!」
なんだこの子!? 全然話をしてくれないよ! いやまあ、自己紹介は大事だけどさ!
それからうさぎ……改めてパピリは、ルリーちゃんたちに自己紹介していった。
その際、一人一人に「僕パピリ! よろしくね!」と言っていた。
……まあ、自己紹介は大事だもんね。
そして、エレガたちにも。彼らが縛られていることについては、パピリはノータッチだった。
「こほん。じゃあ、改めて……ねえパピリ。この村で……」
「ナカヨシ村だよ!」
「……ナカヨシ村で、休憩できるところとか、ないかな」
「あるよ!」
いちいち元気だなぁ……
まあ、質問には答えてくれる素直な子だから、まだ愛嬌があるけど。
それからパピリは「こっちだよ!」と言って、私たちを案内する。
小さなうさぎの後ろをついていく私たちの姿は、なんとも奇妙なものだろう。
「本当に、モンスターばかり」
周囲を見回すルリーちゃんが、驚いたように言う。
ルリーちゃんの言うように、周囲はモンスターだらけ。そして、まるで人のように言葉を話し、会話に花を咲かせている。
しかも、それはモンスター独自の言葉とかではなく、私たちにもわかる言葉だ。
こうして見ていると、モンスターもなんだかかわいいな。
それから、あまり広い村ではないからかすぐに目的地についた。パピリが足を止めたから、そこが目的地だとわかった。
「……ここ、どう見てもお店だよね」
そこは、休憩できるところというより……お店のようだった。屋台と言ったほうが近いかもしれない。
宿屋……ってのも、ちょっと違う気がする。
本当に、ここで休憩できるのだろうか。
それを確認するためパピリを見ると……振り向くパピリと、目があった。
そして……
「ここのアイス! おいしいんだよ!」
と、元気な声で言った。
「お、おう……
えっと、ここって宿屋じゃ……」
「アイス! おいしいんだよ!」
「……」
めちゃめちゃ勧めてくる、アイスを。
確かに、甘いものは休憩にはちょうどいい、のか?
それに、結構人……じゃなくてモンスターが並んでいるので、それなりに人気なんだろう。興味はある。
ただ、問題が一つ。
「お金ないよな……」
ベルザ王国から魔大陸まで転移させられてしまったので、手持ちのお金は本当に必要最小限でしかない。
魔大陸ではお金使う機会はなかったし、気にしていなかったけど。
そもそも、道中どこかの町や国に寄ったにしろ、お金がないとそこではなにもできないことに、もっと早くに気づくべきだったな。
目先のアイスさえ、満足に買えないんだもんな。
どうしたもんかな、と考えていると……
「大丈夫だよ! 旅の人からはお金取らないよ!」
と、私の心配を吹き飛ばすようなことを言ってくれた。
なんだその太っ腹なのは……いや、ありがたいけどね。
お金がいらないのなら、せっかくだからいただこうかな。
というわけで、私たちは列に並ぶ。流れはスムーズで、あっという間に私たちの番がやってきた。
パピリ曰く、お金は要らないらしい。なので、遠慮なく頼むとしよう。
ええと、白いバニラに茶色いチョコに桃色のいちご……なぜか、味と色が丁寧に表示してある。
というか、言葉だけじゃなくて文字もわかるな。ほとんど、人間のものと一緒らしいな。
「ええと、これとこれと……」
私は、みんなの意見を聞きながら味を選んでいく。
アイスは、コーンの上にクリームが乗せられているタイプのようだ。見本がある。
人数分の注文を、店員さん……二足歩行の猫が聞いて、そして言った。
「アイスが五つ……合計で、1000エホンだ」
「えっ……エホン? もしかしてお金?」
「当たり前だろ」
「……お金取るの?」
「当たり前だろ」
私は、無言でパピリに振り返る。
パピリはなぜか大口を開け、衝撃を受けたといった表情を浮かべていた。
「お金取るの!?」
「なんでてめえが驚いたんだよ」
ついに、エレガからのツッコミが入った。
「ごめんね! お金いるみたい!」
「そう、なんだ……」
「アイス食べられない!」
「そうだね……」
ごめんと言いつつ、反省しているのかしていないのかよくわからない顔をしている。
とにかく、お金がなければアイスは買えない。
なぜかパピリが一番がっかりしていたけど、ラッヘがパピリの頭を撫でていた。
「なんにゃ、お前さんら旅人さんかにゃあ」
「あ、うん、そうだけど……」
猫の店員さんが、話しかけてきた。
「どうやら、パピリのバカが迷惑かけたみたいだにゃ。仕方にゃあ、サービスしといてやる」
「えっ」
そう言うと店員さんは、そそくさとアイス作りを始めた。
これはあれか、迷惑料的なそういうやつか!?
0
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます
ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。
何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。
生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える
そして気がつけば、広大な牧場を経営していた
※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。
7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。
5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます!
8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる