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第七章 大陸横断編

452話 デンシャに揺られてその先は

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 デンシャが動きを止めて、プシュッ……と音を立てて扉が開く。
 降りろ、ってことだろうか。

「ホームまであんのか。どうなってんだ」

 エレガはそうつぶやきながら、外へと降りた。
 デンシャの扉をくぐった先には、妙な台がある。大きな台だ。エレガはこれを、ホームと呼んだ。

 デンシャを降りたところで、改めていろいろと確認するけど……私たち以外には、誰も乗っていない。
 じゃあ、このデンシャは誰が動かしていたんだろう。誰かが魔法で動かしていると、思ってたんだけど。

 それとも、まさか自動で?

「うーん……」

 デンシャを触ってみる。魔法で動いた……って感じはしないな。
 硬くてつるつるしてて、叩いてみたらコンコンと音が鳴る。

 どうやって作っているのかも、よくわからないや。

「とりあえず、結構進んだ……ってことで、いいのかな」

 目的地ベルザ王国のある方角、北に向かって、おあつらえ向きにあったデンシャで移動してきたわけだけど。
 レールってやつはここで切れているし、デンシャはこの先へは進まないようだ。

 ……それにしても……

「なんだか、すごく……賑やかな、雰囲気ですね?」

 そう、ルリーちゃんが言うのにも理由がある。
 さっきまで、荒野が続いていたとは思えない。村のようなものが、そこにはあったからだ。

 小さな塀で囲まれている、村だ。塀の向こうからは、わいわいとした賑やかな声が聞こえてくる。
 ようやく、人のいる場所にたどり着けたってわけだ。

 それに、ここでなら少しはリラックスして休憩することができそうだ。

「わー、なんだか賑やかカ! 楽しそウ!」

「わー!」

 リーメイとラッヘは、もう村に入りたくてウズウズしていそうだ。
 ここで焦らす必要もないので、私たちは村の入口に向けて歩きだす。

 小さな村なのか、門番のような人はいない。誰でも自由に、行き来できるってことだ。

「いらっしゃい!」

「ん?」

 入口から、村の中に入る……すると、どこからともなく声をかけられた。
 周囲を見るけど、誰もいない。元気な明るい声が聞こえたんだけど。

 どこだろうと見ていたら……

「いらっしゃい!」

 また、同じく声が聞こえた。今度は、下から聞こえたのだとわかった。
 なので私は、視線を下に下げる。

 そこに、声の主はいた。どんな人だろう、子供だろうか。
 ……結論から、人では、なかった。

「……モン、スター?」

 そこにいたのは……二足歩行の、獣だ。白いふわふわの体毛に包まれた、耳の長い生き物。
 赤い瞳がくりくりしていて、非常に愛くるしい。

「うさぎが……しゃべってる」

 エレガが、驚いたようにつぶやいた。ただ、驚いたのは私もだ。
 モンスターは、鳴き声を上げたりすることはある。けれど、言葉を……私たちに理解できる言葉を話すことは、ない。

 しかも、いらっしゃいと……私たちを歓迎する、意味のある言葉だ。

「こんにちは!」

「こんにちは!」

 未知の生き物相手に私はどうしたもんか反応に困っていたのに、ラッヘは臆せずうさぎに挨拶をした。
 うさぎもまた、ラッヘに挨拶を返した。

 一応……意思の疎通も、できるってことでいいんだよなこれは。
 なんで二人はハイタッチをしているのだろう。

「あ、あの……」

「こんにちは!」

「えっ、あぁこんにちは」

 私も挨拶を求められてしまった。
 とりあえず挨拶を交わさないと、話が進まないらしい。

「それにしても、ずいぶんめずらしい組み合わせだね! 人間にエルフにダークエルフに人魚なんて!」

「あぁ、うん……村に入りたいんだけど、だめかな」

「ダメじゃないよ!!」

 テンション高いなぁこのうさぎ……

「ようこそ、ナカヨシ村へ! ここではみんな仲良しなんだ!」

「すごいまんまな名前!」

 両手を広げ、自信満々に村の自慢をするうさぎ。
 妙に声が甲高いので、声が良く通る。すごい元気な子だなぁ。

 それから、村の中を見渡すと……

「モンスター、ばかり……?」

 村の中を歩いているのは、右を見ても左を見てもモンスターばかりだ。
 二足歩行で歩いているもの、四足歩行で歩いているもの、飛行しているもの……

 人間も、獣人も。そういった種族はいない。
 亜人……というより、モンスター寄りだよなみんな。

 ここは……しゃべるモンスターが暮らしている、村っていうことなのか。

「ようこそ! ようこそ!」

「どうも……」

 とりあえずは、歓迎されているってことでいいらしい。
 自然と、うさぎに案内される形で、村の中を歩く。

 ……モンスターが、言葉を話して生活している。
 信じられない光景だ。言葉を話すモンスターなんて、聞いたことも見たこともない。

 クロガネのような、普通のモンスターよりも上位の存在でさえ、言葉を話すことはできないというのに。

「ここ、村の観光名所!」

 なぜか、観光名所というところに案内された。

「あ、ありがとう。ただ……塀に囲まれた、草原があるだけなんだけど」

「みんなで、牧場の中で遊ぶの! 楽しい!」

「……そう、なんだ」

 それ観光名所とは言わないよ!? 遊び場だよ!?
 というか、そんなところ紹介されて私はどう反応しろと!?

 モンスターだけが、暮らす村……ここは、一癖も二癖もありそうなんだけど!
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