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第七章 大陸横断編
450話 リーメイと二人
しおりを挟む「ふぁ、あ……よく眠れた」
朝、目が覚める。
睡眠に使ったベッドは、リーメイが魔法で作った水のベッド。
寮の部屋で寝ていたベッドより、ぐっすり眠れたかも。
ひんやりしていて、なにより弾力がすんごい。これ商品として出したら売れるんじゃないかな。
他のみんなを確認すると、まだ寝ているようだ。ルリーちゃんも、ラッヘも、リーメイも……
「あれ?」
よく確認するけど、リーメイの姿がない。
人数分のベッドを用意したけど、ラッヘが一人で寝るのは心細いと言って、結果的に昨夜はリーメイと一緒に寝たのだ。
だから、ラッヘと一緒に寝ているはずなんだけど……リーメイの姿だけ、ない。
「どこ行ったんだろ」
ベッドから起き上がり、周囲の魔力に集中する。
すると、少し離れたところにリーメイの魔力を感じた。よかった、どっかいなくなっちゃったわけじゃないみたいだ。
ただ、こんな朝早くから離れたところにいるなんて……なにか、あったのだろうか。
少し気になったので、リーメイのところへ行くことにする。
みんなまだ寝てるし、起きないよね。
「……いた」
リーメイを探して歩いていくと、岩場にもたれて、影の中に座っているリーメイの姿があった。
足……を折り、膝……を抱えている。人だとその部位を、ニンギョにも当てはめていいんだろうか。
じっと、視線は一つの場所に固定されている。
登ってくる朝日を、見ている。
「リーメイ、どうかした?」
一人で考え事をしていたら悪いなと思いながらも、私は彼女の背後から話しかける。
一瞬肩を震わせるリーメイは、ゆっくりと振り返って……
「あ、エラン。おはヨー」
と、笑った。
「おはよう。なにしてたの、一人で」
「ンー、おひさま見てタ」
私はリーメイの隣に移動して、彼女と同じように座った。
膝を抱えて、リーメイと同じ景色を見る。
視線の先には、登ってくる太陽があった。
眩しいから直視はできないけど、なんていうか……壮大だ。
「どこから見ても、おひさまは同じように登るんだねェ」
「それは、そうだよ」
「不思議!」
リーメイはなにが嬉しいのか、ニコニコしながら体を揺らしている。
左右にぶらぶらと揺れて、見ているこっちまで楽しくなってくるみたいだ。
「リー、人間は遠くから見たことしかなかったから、エランと旅ができて嬉しいノ!」
「お、おぉ……どうしたの急に」
「実はちょっと不安だったんダ。でも、そんなの杞憂なくらいに楽しい旅だなっテ!」
素直に表現してくれるから、リーメイが嘘を言っていないのだとわかる。
人間の国に行きたいと、彼女も私たちについてきて……実際、リーメイはこの旅をどう思っているのか。
楽しいと、そう感じてくれている。
「それならよかったよ。でも、まだ先は長いよ?」
「それも込みで楽しミ!」
この子は、前向きだなぁ。それにとっても無邪気だ。
百年を生きているというけど、とてもそうは見えない。ニンギョってみんなリーメイみたいなのか、それともリーメイだけがこうなのか。
なんか、リーメイと話していると、今が不安でもなんとかなる、って思えてくるな。
「リーメイはさ、人間の国に興味があるって言ってたじゃない」
「うン」
「どうして、行ってみたいって?」
彼女の強い希望で、リーメイも同行することになった。
別に断る理由はない。行きたいのならば、私たちがだめと言うことでもないし。
「さっきも言ったけど、リーは遠くから人間見たことがあるんダ」
「うん」
「それでサ……楽しそうだったんダ」
リーメイは、当時のことを思い出しているのか、どこか嬉しそうな表情をしていた。
「楽しそう?」
「うン。人間って、リーたちと上半身は同じだけど、下半身には別のものが生えてる生き物だって聞いてテ。実際にそうで、なんか変な生き物だなーって思ってたけド」
……変な生き物、か。
まあ私たちからニンギョがそうであるように、ニンギョから見た私たちもまた変に映るのだろう。
「楽しそうなのを見て、リーたちと変わらないのかなっテ」
「……リーメイはその人たちには、話しかけなかったの?」
「話しかけようかどうしようか迷ってたら、その間に魔物に襲われて死んじゃったんだヨー。だから話せずじまいでサ」
「そっかぁ…………ん?」
かつて人間を見たことがあると語るリーメイだけど、なんか今とんでもないことを口走っていたような……
……聞かなかったことにしよう。そうしよう。
とにかく、そういった経緯からリーメイは、人と話したことはないのだという。
「そもそも、海の近くに人間が来ること自体珍しいからネ」
「なるほど……」
ニンギョは、陸地に上がらない限り生活圏は『ウミ』だ。そして、『ウミ』は私たちが住んでいた場所の近くにはない。
ニンギョ族って種族がいるってのも知らなかったし、そう簡単に会える相手でもないってことだよな。
未知の相手に憧れのようなものを持つ感情は、理解できなくもない。
「だから、人間の国楽しミ! エランみたいな子が、いっぱいいるんでしョ!」
「私みたいなではないけど……みんな、いい子だよ」
こうしてリーメイと二人だけで話してみたけど、彼女はやっぱり裏表のないいい子だ。
それから、楽しみだと笑うリーメイと共にルリーちゃんたちのところへと、戻った。
起きていたルリーちゃんが、私がいないと騒いでいた。
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