上 下
461 / 796
第七章 大陸横断編

450話 リーメイと二人

しおりを挟む


「ふぁ、あ……よく眠れた」

 朝、目が覚める。
 睡眠に使ったベッドは、リーメイが魔法で作った水のベッド。

 寮の部屋で寝ていたベッドより、ぐっすり眠れたかも。
 ひんやりしていて、なにより弾力がすんごい。これ商品として出したら売れるんじゃないかな。

 他のみんなを確認すると、まだ寝ているようだ。ルリーちゃんも、ラッヘも、リーメイも……

「あれ?」

 よく確認するけど、リーメイの姿がない。
 人数分のベッドを用意したけど、ラッヘが一人で寝るのは心細いと言って、結果的に昨夜はリーメイと一緒に寝たのだ。

 だから、ラッヘと一緒に寝ているはずなんだけど……リーメイの姿だけ、ない。

「どこ行ったんだろ」

 ベッドから起き上がり、周囲の魔力に集中する。
 すると、少し離れたところにリーメイの魔力を感じた。よかった、どっかいなくなっちゃったわけじゃないみたいだ。

 ただ、こんな朝早くから離れたところにいるなんて……なにか、あったのだろうか。
 少し気になったので、リーメイのところへ行くことにする。

 みんなまだ寝てるし、起きないよね。

「……いた」

 リーメイを探して歩いていくと、岩場にもたれて、影の中に座っているリーメイの姿があった。
 足……を折り、膝……を抱えている。人だとその部位を、ニンギョにも当てはめていいんだろうか。

 じっと、視線は一つの場所に固定されている。
 登ってくる朝日を、見ている。

「リーメイ、どうかした?」

 一人で考え事をしていたら悪いなと思いながらも、私は彼女の背後から話しかける。
 一瞬肩を震わせるリーメイは、ゆっくりと振り返って……

「あ、エラン。おはヨー」

 と、笑った。

「おはよう。なにしてたの、一人で」

「ンー、おひさま見てタ」

 私はリーメイの隣に移動して、彼女と同じように座った。
 膝を抱えて、リーメイと同じ景色を見る。

 視線の先には、登ってくる太陽があった。
 眩しいから直視はできないけど、なんていうか……壮大だ。

「どこから見ても、おひさまは同じように登るんだねェ」

「それは、そうだよ」

「不思議!」

 リーメイはなにが嬉しいのか、ニコニコしながら体を揺らしている。
 左右にぶらぶらと揺れて、見ているこっちまで楽しくなってくるみたいだ。

「リー、人間は遠くから見たことしかなかったから、エランと旅ができて嬉しいノ!」

「お、おぉ……どうしたの急に」

「実はちょっと不安だったんダ。でも、そんなの杞憂なくらいに楽しい旅だなっテ!」

 素直に表現してくれるから、リーメイが嘘を言っていないのだとわかる。
 人間の国に行きたいと、彼女も私たちについてきて……実際、リーメイはこの旅をどう思っているのか。

 楽しいと、そう感じてくれている。

「それならよかったよ。でも、まだ先は長いよ?」

「それも込みで楽しミ!」

 この子は、前向きだなぁ。それにとっても無邪気だ。
 百年を生きているというけど、とてもそうは見えない。ニンギョってみんなリーメイみたいなのか、それともリーメイだけがこうなのか。

 なんか、リーメイと話していると、今が不安でもなんとかなる、って思えてくるな。

「リーメイはさ、人間の国に興味があるって言ってたじゃない」

「うン」

「どうして、行ってみたいって?」

 彼女の強い希望で、リーメイも同行することになった。
 別に断る理由はない。行きたいのならば、私たちがだめと言うことでもないし。

「さっきも言ったけど、リーは遠くから人間見たことがあるんダ」

「うん」

「それでサ……楽しそうだったんダ」

 リーメイは、当時のことを思い出しているのか、どこか嬉しそうな表情をしていた。

「楽しそう?」

「うン。人間って、リーたちと上半身は同じだけど、下半身には別のものが生えてる生き物だって聞いてテ。実際にそうで、なんか変な生き物だなーって思ってたけド」

 ……変な生き物、か。
 まあ私たちからニンギョがそうであるように、ニンギョから見た私たちもまた変に映るのだろう。

「楽しそうなのを見て、リーたちと変わらないのかなっテ」

「……リーメイはその人たちには、話しかけなかったの?」

「話しかけようかどうしようか迷ってたら、その間に魔物に襲われて死んじゃったんだヨー。だから話せずじまいでサ」

「そっかぁ…………ん?」

 かつて人間を見たことがあると語るリーメイだけど、なんか今とんでもないことを口走っていたような……
 ……聞かなかったことにしよう。そうしよう。

 とにかく、そういった経緯からリーメイは、人と話したことはないのだという。

「そもそも、海の近くに人間が来ること自体珍しいからネ」

「なるほど……」

 ニンギョは、陸地に上がらない限り生活圏は『ウミ』だ。そして、『ウミ』は私たちが住んでいた場所の近くにはない。
 ニンギョ族って種族がいるってのも知らなかったし、そう簡単に会える相手でもないってことだよな。

 未知の相手に憧れのようなものを持つ感情は、理解できなくもない。

「だから、人間の国楽しミ! エランみたいな子が、いっぱいいるんでしョ!」

「私みたいなではないけど……みんな、いい子だよ」

 こうしてリーメイと二人だけで話してみたけど、彼女はやっぱり裏表のないいい子だ。
 それから、楽しみだと笑うリーメイと共にルリーちゃんたちのところへと、戻った。

 起きていたルリーちゃんが、私がいないと騒いでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

処理中です...