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第七章 大陸横断編
444話 魔導大国の名前
しおりを挟む魔柱が、魔力を発生させている建造物。その事実を知り、私は一つの対策を講じた。
こんな大切なものに、変なことをしたり考えたりしないように。エレガたちに『絶対服従』の魔法をかけたのだ。
これで、エレガたちは自分たちではもちろん、魔物や魔獣を操って魔柱に危害を加えることも、できない。
「わー、かたーイ。おっきーイ」
「わー!」
向こうでは、リーメイとラッヘが無邪気に遊んでいる。
まあ……悪意はなさそうだし、放っといても大丈夫か。
ああなったらしばらく動きそうもないから、おとなしくなるまで待ってようか……
……お母さんかな?
「それにしても、一体誰がこんなもの、作ったんでしょう」
魔柱を触り、ルリーちゃんがつぶやく。
これがいつ作られたのか……つまり、いつから魔力があったのか。そんなこと、途方も無い話だ。
だけど、エルフ族である師匠や、もっと年上の人もいるんだろうから……そのときから魔力があったのなら、それはもうかなーり昔だろう。
その間ずっと立ってたこれも、すごいな。
「さあな、当時を知る奴ぁもういやしねぇ。
ただ、こいつをぶっ立てたのは黒髪黒目の人間だって話だ」
「へぇ。
…………!?」
……今また、さらっと重要そうなことを言ったよこのじいさん。
へぇ、私と同じ黒髪黒目のねぇ……
……いやいや、そんなにすごいことしてるのに……
「なのにエランさんのこと、黒髪の悪魔なんて呼んだんですか」
私と同じようなことを思ったらしいルリーちゃんが、不服だと言うようにじいさんを見た。
それはそうだ。魔力を発生させるすごい柱を作ったのが黒髪黒目の人なのに、このじいさんは黒髪の人間を悪魔扱いだもの。
納得は、いかないよなぁ。
「わしに言われてもな。この魔柱を建てたのは、黒髪黒目の人間。そして黒髪の人間が悪魔であると伝えられているのも、また事実」
じいさんは、冷静に言う。
それが、矛盾したことであることに、気づいてないはずがない。初めて聞いた私だってそう思うのに。
そう思っているから、さっきじいさんは私たちに敵意を向けながらも、すぐに攻撃はしてこなかったんだろうか。
「魔力を作り出したのも黒髪、悪魔と呼ばれているのも黒髪……なんなんだろうね」
ヨルやエレガたちは、自分たちのことをイセカイの人間だのとわけのわからないことを言っていた。
違う世界がどうのと言っていたけど……あいつらの言うこと信用できないしなぁ。
どいつもこいつも危ない奴ばかりだし。違う世界とかなに言ってるんだろう。
「ま、私が考えても仕方ないか」
考えても仕方のないことなら、その考えは早々に放棄だ。
だいたい、黒髪がどういう人間かって説明されても、私には私の十年以上前の記憶はないんだし。
だいたい、髪の色が同じって理由であいつらとおんなじに見られるのは、心外だ。私は私、エラン・フィールドだ。
「……」
それにしても……魔力が人工的に作られたものだとしたら、いったい精霊さんはどこから来たのだろう……
「二人とも、そろそろ行くよ」
「エー」
「えー」
「えーじゃない」
まだ遊び足りない、と言わんばかりの、リーメイとラッヘ。大きな子供のようだなまるで。
遊びたい二人をずっと放置していたのでは、いつまでも動けない。メリハリは大事だ。
というか、記憶を失って幼児退行しているラッヘはともかく、リーメイは子供っぽいだけなんだからしゃんとしてほしい。百年生きてるんだろう。
「じゃあおじいさん、私たちは行くよ」
「あぁ、そうかい」
このじいさんは、一人で魔柱を守っている……のだろうか。
ま、どうでもいいことだ。
「ただ、お前さんら……自分の国に帰るということじゃったが」
じいさんが、話しかけてきた。
「うん、そうだけど」
「それがどこか、あてはあるのか?」
「あー……実は、方角がわからなくて」
「……それでよく、道を進もうなどと思ったものじゃ」
うっ、ばっさり言うなこの人……まあ、事実だけど。
人大陸に着いたはいいけど、結局ベルザ王国がどの方角にあるのか、わからないんだよな。
「その国は、なんちゅう名前なんじゃ」
「……ベルザ王国、だけど」
「ほほぅ? ベルザ王国」
国の名前を聞かれて、少し考えるけど、答える。
一応名前を言ったけど、どこともわからないはずだ。
そう、思っていたんだけど。
「あぁ、聞いたことあるのぉ」
返ってきたのは、思いもよらない言葉だった。
「え、ほんとに!?」
「あぁ。魔導を嗜む者として、一度は聞いたことのある名じゃよ。なにせ、魔導大国じゃからな」
どうやら、ベルザ王国は魔導に関わる人間なら聞いたことがあるくらい、有名らしい。じいさんは、自分の杖を撫でながら答える。
そういえば、魔導大会が開催されたときには、その知名度から国外からも人が集まるって言ってたな。
大きな大会ってだけの意味じゃなくて、そんな有名な国で開かれた大会、っていう意味でもあったんだね。
「そのベルザ王国、どの方角にあるか、わかる?」
名前を知っているなら、方角も知っているだろうか。それとも、名前しか知らないだろうか。
一部の望みをかけて、じいさんに聞く。
「方角か。……ここからじゃと……確か、ここより北に向かった先にあったはずじゃ」
じいさんは、自分のあごひげを撫でたあと……ある一つの方角を、指さした。
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