上 下
455 / 781
第七章 大陸横断編

444話 魔導大国の名前

しおりを挟む


 魔柱まばしらが、魔力を発生させている建造物。その事実を知り、私は一つの対策を講じた。
 こんな大切なものに、変なことをしたり考えたりしないように。エレガたちに『絶対服従』の魔法をかけたのだ。

 これで、エレガたちは自分たちではもちろん、魔物や魔獣を操って魔柱に危害を加えることも、できない。

「わー、かたーイ。おっきーイ」

「わー!」

 向こうでは、リーメイとラッヘが無邪気に遊んでいる。
 まあ……悪意はなさそうだし、放っといても大丈夫か。

 ああなったらしばらく動きそうもないから、おとなしくなるまで待ってようか……
 ……お母さんかな?

「それにしても、一体誰がこんなもの、作ったんでしょう」

 魔柱を触り、ルリーちゃんがつぶやく。
 これがいつ作られたのか……つまり、いつから魔力があったのか。そんなこと、途方も無い話だ。

 だけど、エルフ族である師匠や、もっと年上の人もいるんだろうから……そのときから魔力があったのなら、それはもうかなーり昔だろう。
 その間ずっと立ってたこれも、すごいな。

「さあな、当時を知る奴ぁもういやしねぇ。
 ただ、こいつをぶっ立てたのは黒髪黒目の人間だって話だ」

「へぇ。
 …………!?」

 ……今また、さらっと重要そうなことを言ったよこのじいさん。
 へぇ、私と同じ黒髪黒目のねぇ……

 ……いやいや、そんなにすごいことしてるのに……

「なのにエランさんのこと、黒髪の悪魔なんて呼んだんですか」

 私と同じようなことを思ったらしいルリーちゃんが、不服だと言うようにじいさんを見た。
 それはそうだ。魔力を発生させるすごい柱を作ったのが黒髪黒目の人なのに、このじいさんは黒髪の人間を悪魔扱いだもの。

 納得は、いかないよなぁ。

「わしに言われてもな。この魔柱を建てたのは、黒髪黒目の人間。そして黒髪の人間が悪魔であると伝えられているのも、また事実」

 じいさんは、冷静に言う。
 それが、矛盾したことであることに、気づいてないはずがない。初めて聞いた私だってそう思うのに。

 そう思っているから、さっきじいさんは私たちに敵意を向けながらも、すぐに攻撃はしてこなかったんだろうか。

「魔力を作り出したのも黒髪、悪魔と呼ばれているのも黒髪……なんなんだろうね」

 ヨルやエレガたちは、自分たちのことをイセカイの人間だのとわけのわからないことを言っていた。
 違う世界がどうのと言っていたけど……あいつらの言うこと信用できないしなぁ。

 どいつもこいつも危ない奴ばかりだし。違う世界とかなに言ってるんだろう。

「ま、私が考えても仕方ないか」

 考えても仕方のないことなら、その考えは早々に放棄だ。
 だいたい、黒髪がどういう人間かって説明されても、私には私の十年以上前の記憶はないんだし。

 だいたい、髪の色が同じって理由であいつらとおんなじに見られるのは、心外だ。私は私、エラン・フィールドだ。

「……」

 それにしても……魔力が人工的に作られたものだとしたら、いったい精霊さんはどこから来たのだろう……

「二人とも、そろそろ行くよ」

「エー」

「えー」

「えーじゃない」

 まだ遊び足りない、と言わんばかりの、リーメイとラッヘ。大きな子供のようだなまるで。
 遊びたい二人をずっと放置していたのでは、いつまでも動けない。メリハリは大事だ。

 というか、記憶を失って幼児退行しているラッヘはともかく、リーメイは子供っぽいだけなんだからしゃんとしてほしい。百年生きてるんだろう。

「じゃあおじいさん、私たちは行くよ」

「あぁ、そうかい」

 このじいさんは、一人で魔柱を守っている……のだろうか。
 ま、どうでもいいことだ。

「ただ、お前さんら……自分の国に帰るということじゃったが」

 じいさんが、話しかけてきた。

「うん、そうだけど」

「それがどこか、あてはあるのか?」

「あー……実は、方角がわからなくて」

「……それでよく、道を進もうなどと思ったものじゃ」

 うっ、ばっさり言うなこの人……まあ、事実だけど。
 人大陸に着いたはいいけど、結局ベルザ王国がどの方角にあるのか、わからないんだよな。

「その国は、なんちゅう名前なんじゃ」

「……ベルザ王国、だけど」

「ほほぅ? ベルザ王国」

 国の名前を聞かれて、少し考えるけど、答える。
 一応名前を言ったけど、どこともわからないはずだ。

 そう、思っていたんだけど。

「あぁ、聞いたことあるのぉ」

 返ってきたのは、思いもよらない言葉だった。

「え、ほんとに!?」

「あぁ。魔導を嗜む者として、一度は聞いたことのある名じゃよ。なにせ、魔導大国じゃからな」

 どうやら、ベルザ王国は魔導に関わる人間なら聞いたことがあるくらい、有名らしい。じいさんは、自分の杖を撫でながら答える。
 そういえば、魔導大会が開催されたときには、その知名度から国外からも人が集まるって言ってたな。

 大きな大会ってだけの意味じゃなくて、そんな有名な国で開かれた大会、っていう意味でもあったんだね。

「そのベルザ王国、どの方角にあるか、わかる?」

 名前を知っているなら、方角も知っているだろうか。それとも、名前しか知らないだろうか。
 一部の望みをかけて、じいさんに聞く。

「方角か。……ここからじゃと……確か、ここより北に向かった先にあったはずじゃ」

 じいさんは、自分のあごひげを撫でたあと……ある一つの方角を、指さした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

処理中です...