453 / 739
第七章 大陸横断編
442話 魔柱
しおりを挟む黒髪の悪魔。それが、昔からの言い伝えってやつだと、じいさんは言う。
昔からって……じいさん以外ここには人も、人が住んでいる形跡もないけど。
それに、だ。
「ルリーちゃん、知ってる?」
「いいえ」
「ラッヘは……」
「んんー?」
「……だよねぇ」
そんな言い伝えが昔からあると言うのなら、エルフ族が知っていてもおかしくはない。
だけど、ダークエルフのルリーちゃんは知らないと言うし、エルフのラッヘは記憶喪失。ただ、知ってたらなにか言っていただろう。
二人とも、私のことは私個人として見てくれていた。黒髪の悪魔だなんて、そんなものじゃなく。
「エルフ族だからと言って、知っているとは限らん。その話も、この地にのみ伝わるものじゃしの」
私の疑問を汲み取ったのか、じいさんが言う。
この地にのみに伝わるもの。だから、エルフ族も知らなくて当然だと。
その言い伝えは、『黒髪黒目の人間は、この世界に災いをもたらす』というものらしい。
「ありえません! エランさんが、災いをもたらすなんて!」
「はっ、ダークエルフなんぞがそのようなことを言ってもな。説得力はないな」
「そんな……って、エランさん! 杖しまってください!」
このジジイ、またルリーのことを……!
「離してルリーちゃん! いっぺん痛い目にあわせないと!」
「すごい怖いこと言ってる! 私は大丈夫ですから!
……それに、言い方はキツイですけど、なんだかんだ私たちと対話の姿勢を取ってくれてるじゃないですか」
「ん……」
ルリーちゃんになだめられ、私は軽く息を吐いた。
言われてみれば、まあ、確かにそうかもしれない。このジジイは、ダークエルフだなんだと言いながら、私たちとちゃんと会話をしている。
ルリーちゃんがダークエルフだと知ったときのクレアちゃんは、会話どころか私の話もまともに聞いてはくれなかった。
ルリーちゃんのことをよく知っていたか初めて会ったかで違いはあるけど、それでも落ち着いた対応ではあるのか。
「人間にエルフにダークエルフ……それに、人魚か。どんな組み合わせじゃ」
「ジジ……おじいさん、リーメイのこと知ってるの?」
「ここは海に近いからな。人魚を見かけることも珍しくない。あと小娘お前今なんか言い掛けたろ」
やっぱり珍妙に見えるよねぇ、この組み合わせ。
警戒するのも、まあわからないでもないけど。
「なんにしても、私は悪魔じゃないしおじいさんやデンチュウになにかするつもりもない。そういうことだから」
「それなら、それでいいが……あいつらはなぜ、拘束されて連れられているんじゃ?」
「まあそこは、気にしないでよ」
エレガたちについては、もう触れない方向でお願いしたい。
じいさんからしたら、黒髪の悪魔が黒髪の悪魔たちを連行しているって変な図になっているんだろうけど。
それからじいさんは、岩場にどっしりと腰を下ろした。
「ま、お前さんらが黒髪の悪魔じゃろうがダークエルフじゃろうが、わしには関係ないことじゃ。この柱を壊しさえしないのであればな」
そう言って、じいさんは近くのデンチュウを手のひらで、撫でていく。
どうやら、この人にとってこのデンチュウはよっぽど大切なものらしい。
私たちに向かって激しい敵意を向けていたのも、私たちがデンチュウを壊すかもしれない、と思ってしまったからかもしれない。
「そんなに大切なものなんだ、これ」
「ま、そうじゃろうな。なんせ、これが折れれば魔力がなくなってしまうほどの代物らしいからな」
「へぇ…………おん?」
……あれ、今このじいさん、なんて言った? なんかすごいこと言わなかった?
え? なんかあっさり流しそうになったから、変な声出ちゃったよ?
「そ、それって、どういうことなんですか?」
ルリーちゃんが、聞く。私も気になってしまった。
ここはただ、通り過ぎようと思っていたのに……魔力がなくなってしまうなんて聞いたら、もう他人事とは思えないから。
「どういうもなにも……遥か昔誰かが作ったこいつが、魔力を放出してる柱、魔柱じゃからな。
こいつが壊れれば、魔力の放出もなくなり魔法も魔術もいずれ使えなくなる、と言い伝えられている」
「……」
さも当たり前のように言うけど……なに、その話。初耳も初耳すぎるんだけど。
そもそも、魔力を放出している柱? それって……
「え、だって……魔力って、空気中に漂っているもの、なんですよね」
困惑したように、ルリーちゃんが言う。
「その漂っている魔力は、どこから出てくると思う?」
「! そ、れは……」
逆に問いかけられて、私はふと考えてしまう。
今まで当たり前のように、そこにあった魔力。空気中を漂っていた魔力は、いったいどこから発生しているのか?
そんなの、自然と発生している……っていうわけじゃ、ないのか?
「えっと……じゃあ、なに? このデンチュウ……魔柱は、誰かが作ったもので。その魔柱から魔力が発生している、ってことは……」
今まで、考えたこともなかった。でも、このじいさんの言うことが、もしも本当なのだとしたら……
魔力は、自然的に発生したものじゃなくて。人工的に、発生したものってこと?
0
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる