史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第六章 魔大陸編

434話 『ウミ』

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「ウミ、ですか」

「うん、そういう名前なんだって」

 魔大陸を抜け、空の下にあるのは地面ではなく、見渡す限りの大量の水。
 風に乗せられて香る、このしょっぱいにおい。これは、あの水から漂っているもの。

 そして、あの水は『ウミ』という名前らしい。
 この香りは、『塩水』というもの。つまりはあの水の中に、こんなににおいがするくらいの塩があるってこと?

 こんな大きな大きな水を見るのも、取り切れなさそうなほどの塩があるのも……まさか、考えたことすら、なかった。

『契約者たちは、海を見たことがないのか?』

「んー……師匠が、そういうのがある、みたいなことは言ってた気がする」

 師匠に拾われてからの私は、ずっと師匠の家とその周辺だけで行動していた。人のいる国に行ったのだって、師匠に着いていったくらいだ。
 ベルザ王国に行ってからは、国の外に出たことなんてなかったし。

 図書室でいろいろ本を読んだけど、『ウミ』なんて言葉が出てきたものはなかったしなぁ。

「私も、ずっと森の中にいて……その後は、隠れながら生きてきましたから」

 私よりずっと長生きの、ダークエルフであるルリーちゃんも、『ウミ』を見たことはないらしい。
 エルフ族は基本的に森の中で暮らしているって話だし、ルリーちゃんの暮らしていたところの近くには、こんな広大な水はなかったってことか。

 見渡す限りの水に、ルリーちゃんも夢中だ。
 魔大陸を抜けてから、空の色も私たちがよく知っているものに戻った。太陽も出ている。

 陽の光が、水に反射してまぶしい。とってもきれいだ。

「ねえねえ、塩水ってことは……飲んだら、やっぱり体には悪いのかな」

「そもそも飲むための水ではないと思いますよ?」

「それもそっかぁ」

 初めて見るそれに、ルリーちゃんとの会話が盛り上がる。
 『ウミ』かぁ……クレアちゃんたちも、見たことないのかな。だとしたら、教えてあげたいな。

 ……なんか、さっきからあいつら静かだな。

「死んだ?」

「いやそれはさすがに………
 しゃべろうとするのが、疲れただけではないですかね」

 さっきは、あんなに暴れていたエレガたちが、今はおとなしくなっている。
 ルリーちゃんの言うように、暴れ疲れたのだろうか。

 口は塞いでいるけど、鼻は解放しているから息はできるはずだし。
 けどまあ……なんか、チラチラこっち見てるな。

 仕方ない。エレガの口だけ解放してあげよう。

「ぷはっ。このやろ、ずっと拘束しやがって。いい加減手足の感覚がなくなってきそうなんだが?」

 口を解放したエレガは大きく息を吸い込み、私を睨んだ。
 そういえば、エレガたちとの戦いの後からずっと縛っているから……もう、かれこれ五日以上は同じ体勢で縛っていることになるのか。

 しかも、牢屋の中で生活していたわけだし、ずいぶん不自由な生活だっただろう。

「ま、私には関係ないことだけどね」

「ずいぶんドライなこと考えてるだろうってことだけはわかったぜ」

「それで、なに、さっきから私のことチラチラ見てきて。気持ち悪いんだけど」

「さっきから辛辣すぎるだろお前!」

 ううん、私ってこんなに、人に冷たい人間だったっけ。自分でもちょっと思う。
 まあ、こいつらに優しくする理由なんかないから、もう本能が嫌っているんだな。

「私にこんな冷たい態度取られるなんて、逆にすごいと思うよ」

「なんの宣言だそりゃ」

 エレガは私をひと睨みした後、その視線を下へと向けた。
 下に広がっているのは、もちろん『ウミ』だ。

 ……ははぁん、そういうことか。こいつも、『ウミ』を見るのは初めてなんだな。
 だから、声を出してはしゃぎたいから、私に拘束を解けって合図をしてきたんだな。

「仕方ない。思う存分に叫ぶといいよ」

「お前の仲でなにが完結してるんだ。
 ……お前、その様子じゃ本当に、海を見たことがねえのか?」

 なぜかエレガに呆れたような表情を浮かべられた。
 そのあと、これが本題だと言うように、エレガが私を見た。

 本当に、ってどういう意味だ。
 自分で言うのもなんだけど、さっきまでの私の反応を見ていたら、疑うことはないだろうに。

 それに……

「その口ぶりだと、エレガは『ウミ』を見たことがあるって聞こえるけど」

「見たことがあるもなにも……当たり前だろ。電車一本で、海のある町にも行けたし……泳いだりもしたわけだし」

 ……デンシャ、とかまたわけっわかんない単語が出てきたよ。
 ただ、わかるのはエレガは『ウミ』を見たことがあるらしいこと。しかも、だ。

「泳いだって……泳げるの!?」

「そりゃ、そうだろ……」

 私の疑問に、エレガはなぜか困惑気味だ。
 なんだよその、知ってて当然だろみたいな顔は。

 『ウミ』っていうのは塩水だから、なんか料理に使うためのものだ思っていたけど……泳げるのか。
 考えてみれば、広いお風呂だって泳ぎたくなるんだ。こんな広い水、泳げるのは当たり前なのかもしれない。

 こんな、広い水で泳ぐ……なんか、考えただけで、ゾクゾクしてきた。
 正直、泳ぎたい。あぁでも、今はダメ。一刻も早く、みんなのところに帰らないといけないんだから!

 よし、決めた。帰って、みんなとまた元通りになれたら、『ウミ』に来よう。そして、みんなで泳ごう!
 うん、それ楽しそう……

『契約者よ』

「ひゃあ! な、なに! べ、別に浮かれてなんか、いないけど!?」

『いや、そうではなく……誰かが、溺れているようだと、思ってな』

 クロガネの言葉に、私は『ウミ』を見る。
 うーん、誰か溺れてる? この高さからじゃ、見えない……

 あ、そうか。クロガネと視界を共有すれば。

「……あ、ほんとだ!」

 クロガネの視界を借りて、『ウミ』を見る。
 そこには確かに……誰かが、溺れているようだった。ははぁ、溺れるってこういうときに使うんだ……

「って、大変だ!?」

 私はクロガネにお願いして、溺れている人の救助に向かった。
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