史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第六章 魔大陸編

432話 なにも知らなくても

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「皆さん、お元気で! さようなら!」

「そっちも元気で! またね!」

 クロガネが飛び立ち、私たちは別れを済ませる。
 バサッ……と翼をはためかせ、前進するクロガネに掴まり、私は見えなくなるまで、ガローシャたちを見ていた。

 彼女は最後まで、手を振っていた。
 そしてラッヘもまた、見えなくなるまで手を振っていた。

「ふぅ……なんか、長かったような、あっという間だったような」

「壮絶でしたもんね」

 ガローシャたちとの別れを済ませて、私たちは進む。
 目指すは、魔大陸を出て……私たちがいた、大陸。そして、その中のベルザ王国へ。

 クロガネに乗っていると、景色があっという間に流れていく。
 ただ、これでもクロガネは、背中に乗せている私たちに負担がかからない速度で、飛んでくれているのだ。

「わぁ、たかいたかーい!」

「微笑ましいけど、素直にそうは言えない……」

 クロガネの背中から身を乗り出し、下を見ているラッヘ。
 そのはしゃぎようは、まさに子供といった感じ。物を知らない、小さな子供。

 挙動だけ見ると、微笑ましさがあるんだけど……以前のラッヘを知っているから、その様子は複雑でしかない。

「おい、本当にどうしたんだそいつは」

 そのラッヘの様子に、エレガたちは困惑の色を浮かべていた。
 以前は、あんなに勝ち気で強かった子が……今では、こんなにもか弱く、かわいくなっている。

 私だって、事情を知らなかったら唖然となる。
 いや、事情を知っていてもなっている。

『契約者よ』

「なぁにクロガネ」

『ワレは、この者のことを深くは知らぬ。が、契約者にとっても、深い関係というわけでもないだろう』

「それは、そうだね」

 クロガネの言葉に、私は答える。

 ラッヘとは、魔導大会で戦って以降の付き合いだ。考えてみれば、彼女と出会ってからまだ一週間も経っていない。
 話した日数に至っては、その半分にも満たないんだ。

 人付き合いの深さは時間の長さで決まる……なんて、言うつもりはないけれど。
 私とラッヘの関係は、人に語れるほど深くはない。

『契約者は、そのエルフの記憶を、戻したいと思っているのだろう。それは、なぜだ?』

「……なぜ、か」

 私は、ラッヘの記憶を戻してあげたい。そう、考えている。
 ラッヘとは、お世辞にも仲良くなったとは言えない。むしろ、恨まれている関係だ。

 ラッヘの親である、グレイシア師匠……師匠は、かつて自分の名前に『エラン』と名前を付けた。それが、ラッヘの本当の名前。
 ラッヘの名前は、『エラン・フィールド』だった。本当なら。

 でも、事情は分からないけど、ラッヘが死んでしまったと思った師匠は……娘の名前を、後に拾った私に付けた。
 師匠にとって、私を本当の娘と思ってくれていたんだ。でも、それは同時に、私がラッヘから師匠の子供という立場を、名前を……奪ってしまったことになる。

 だから私は、恨まれて当然だ。殺されそうにもなった。
 それでも……

「記憶がない不安って言うのは、私はよく知ってるからさ」

 私も、師匠に拾われる前の記憶がない。
 当時は気にしたけど、今はもう、無理に記憶を思い出さなくてもいいと思っている。
 ……だけど。

 もし、明日目覚めたら、今日までの記憶が無くなっていたとしたら。
 そんなことを考えてしまうことが、これまでもあった。

 全部忘れてしまった私は、本当に私なのだろうか。
 いや、そもそも記憶を失う前の私は……

「……私は、ラッヘのことはなにも知らない。
 でも、ラッヘにだって友達とか、知り合いとか……ラッヘを大事に思ってくれている人が、ラッヘが大事に思っている人が、いるはずなんだよ」

 もし、今の私がまた記憶を失ってしまったら。
 ルリーちゃんたちは、いったいどう思うだろう。ひどく、心配するだろう。

 ラッヘにも、そういう存在がいるはずだ。

「だから私は、ラッヘの記憶を戻してあげたい」

『……そうか。だが、あてはあるのか?』

「全然。どうしようね」

 記憶喪失の人間なんて、これまでに会ったことがない。
 強いて言うなら私自身だけど。

 ただ、自分が記憶を失ったなんて自覚は、実のところない。
 十年前なんて、まだ子供だったし……その頃、自分の記憶がしっかりしていたかも、曖昧だし。

 その後、師匠は私を知っている人を捜してくれたみたいだけど、逆はなかったみたいだし。
 ……あれ、ひどくない? 私、黒髪黒目なんだよ? こんな特徴的な人間を捜そうとしている私の身内がいないって、おかしくない?

「ひどいよねぇ!」

「えっ? あ、はい、そうですね?」

 あ、しまった声に出てた。ルリーちゃんをびっくりさせてしまった。
 こほんと、咳ばらいを一つ。

 まあ、なんだ。いろいろ理由をくっつけたりはしたけどさ……

「なんだかんだ言って助けられたし……ルリーちゃんのために、体も張ってくれた。
 そんなラッヘを見捨てられれるほど、私は冷たい人間じゃないつもり」

『……はは、そうか。我が契約者は、そうでなくてはな』

 私の言葉に納得してくれたのか、クロガネは笑った。
 ラッヘが記憶を失った理由は、ひとまず後回しだ。まずは、記憶を取り戻す方法。

 そういうのを知ってそうなのは、長生きしているエルフ族だろうけど……ルリーちゃんから案が出てこなかったあたり、知らないのだろう。
 長生きはしてても、人から隠れて生きてきたダークエルフ。あまり知っていることは、少ないのかもしれない。

 じゃあ、なんかいろいろ知ってそうなエレガたち……に聞くのはなぁ。
 こいつらに弱みを見せるのは、なんかやだな。

「……どうしたもんかな」

 移動中に、風を全身に浴びながら。私はぼんやりと、空を見上げた。
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