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第六章 魔大陸編

422話 結末

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 思いの外アグレッシブだったお嬢様、ガローシャ。
 なんにせよ彼女のおかげで、助かったわけだ。彼女が助けに入ってくれなかったら、私は魔族にやられていた。

「まだまだだなぁ」

 ポツリと、つぶやいた。
 魔大陸の環境とか、魔法と魔術の組み合わせで魔力をほとんど持ってかれたとか、理由はいろいろあるけど……

 私がもっと強かったら、こんな結果にはならなかったはずだ。
 ルリーちゃんや、ラッヘだって……気絶するようなことに、ならなかったはずだ。

「あまり、ご自分を責めるようなことがあってはいけませんよ」

「!」

 眠っているルリーちゃんの額を撫でる……そんな私に、ガローシャが話しかけてくる。
 まるで、私の考えていることが、わかったかのように。

「私、今口に出してた?」

「いいえ。姫という立場上、相手の顔色をうかがうことが多いもので」

「あ、やっぱりお姫様なんだ」

 ……私、そんなわかりやすい顔してたのかな。
 いや、単にガローシャが顔色うかがうの上手なだけだな。うん。

 それにしても……

「下の様子は、どう?」

「はい。問題なく勝てそうです」

 下では、未だに魔族同士の争いが続いている。
 私には、どっちがどっちの勢力なのかわからないけど……魔族が着ている鎧に、それぞれ二種類のマークが刻んである。

 一方がガローシャ側の、一方が相手側の勢力ってことだろう。

「……魔族の戦争はよくわかんないけどさ。勝てそうで良かったね」

「ありがとうございます。でも、魔族も人間も、戦争をするなんて愚かな行為ですよ」

 一泊させてくれた音もあるし、ご飯も食べさせてもらった。良くしてもらったけど、私は彼女たちの事情に、積極的に介入するつもりはない。
 ガローシャにも、そうしてくれって頼まれたわけではない。

 元々、魔族同士の戦争。
 私たちがここに留まるようお願いされたのは、戦争に介入してくるエレガたちを食い止めることだ。

 私たちも、エレガたちに用があったからその条件を飲んだ……
 本人たちの実力はもとより、あんな魔獣たちを出されては、そりゃ魔族側は滅ぼされちゃうよな。

「彼らは、どうなさるんですか?」

「今上で、"私"があいつらまとめて拘束してるとこ」

「?」

「あはは、わかんないよね」

 分身魔法のことを知らないと、今の言葉の意味はわからないだろうな。
 でも、とりあえず捕まえてるってことは伝わったみたい。

「ガローシャたちは、あいつらいる? いらないよね?」

「言い方がすごいですね……
 私たちは、そもそも彼らのことを知りませんので」

 もしガローシャが、エレガたちになにか用があるなら……と思っていたけど、その心配はなさそうだ。
 じゃああいつらは、ふん縛って持って帰ろう。

 あいつらがしたこと……ルリーちゃんの故郷のこととかあるけど、魔導大会に介入してパニックを引き起こしたことだけでも、充分な罪に問えそうだ。

「あいつら、なんで魔族やエルフ族を、滅ぼそうとしてたんだろ」

 ジェラは、それに対して面白いから、と言っていた。
 深い意味なんかないのかもしれない。ただ、面白いから……ジェラ以外の三人も、そんなことを思っているんだろうか。

 もしそうだとしたら、やっぱり許せない。

「みんなのことも、気になるし」

 結局聞きそびれてしまったが、あの場にいたみんなはどうなったのか。
 クレアちゃん、ノマちゃん、ナタリアちゃん、ゴルさん、フィルちゃん……他にも、たくさんの人がいた。

 みんな、無事だとは思うけど。ちょっと、モヤモヤする。

「二人が起きたら、私たちはここを発つよ。なんか、お返しもなにもできないけど……」

「そんなこと、気にする必要はありません。彼らを引き止めてくれたことで、充分助かりましたから」

 正直な話、ルリーちゃんとラッヘが起きなくても、クロガネに乗って移動することはできる。けど……
 クロガネと私にも、休息が必要だ。特にクロガネには、無理をさせた。

 魔力があんなに減るなんて初めてだ、って言ってたもんな。
 なのに、空っぽになってないあたり、やっぱりクロガネの元々の魔力量はすごい。しかも魔大陸にも適応しているから、休んでたら魔力も回復するだろう。

 できれば、また一晩……ここに、世話になりたい。

「ま、空がずっと変わらないから、今がいつなのかわからないけど」

 空を見上げれば、そこに広がっているのは紫色の空。太陽の光は差し込まず、明るくも暗くもならない。
 なので、今が朝なのか、昼なのか……それとも夜なのか。それは、わからない。

 そもそも、昼夜の概念があるのだろうか。この場所では。
 時間も、この魔大陸に転移してきてからどれだけの時間が経ったか……正確には、わからない。

「うぉおおおおお!」

「!」

 ふと、下から声がした。それは、雄叫びだ。
 首を動かして下を見ると、魔族たちが手を上げ叫んでいた。見たところ、たくさんの魔族の半数が雄叫び、半数が倒れていた。

 これって……

「終わったみたいです」

 ガローシャが、つぶやく。
 魔族の争いが、終わったということだ。そしてガローシャよ反応から、勝ったのはこちらの勢力らしい。

 下では歓喜に、打ち震えているみたいだ。
 よかった……なんにせよこれで、このあとゆっくり休める、ってことだよね……
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