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第六章 魔大陸編

421話 魔族の姫様

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 私は、ルリーちゃんとラッヘになにかしようとする魔族を前に、ついカッとなって我慢できなかった。
 魔族の一体に蹴りを入れ、もう一体にも蹴りを打ち込んだけど、通用せず。

 ふっ飛ばした方も、どうやら効いていなかったらしい。
 魔族を相手にするのさえ、昨日今日の話なのに。ニ体を相手に……それも、今の私は体力魔力諸々がもう限界だ。

 これはちょっと、いやかなりまずいかもしれない。

「人間なんざ殺しても、なんの得にもなりゃしねぇが……まあ、死んどけや!」

 私の蹴りで吹っ飛んでいた魔族が、私を睨む。
 青紫色の肌に、真っ赤な瞳。人型だけど耳が大きく伸びて、背中には真っ黒な翼が生えている。

 鋭い爪を伸ばし、私との距離を詰める。
 こんな、直線的な攻撃……

「……っ」

 後ろに飛んで避けようとしたけど、がくん、と膝が曲がる。
 しまった……今までの疲労が、足に来た。動こうとしたら、体勢を崩してしまった。

「ちぃ!」

「うわっ!」

 その直後、私の目の前……さっきまで私の顔が会った場所を、鋭い爪が抉り通る。
 もし、体勢を崩してなかったら、あの爪にやられていたかもしれない。

 普段の私なら、いくらでも対処できたけど……今の私には、取れる選択肢が少なすぎる!

「避けたか。運の良い野郎だ」

「はぁ、はぁ……!」

 おまけに、ただ避けただけなのに息があがっている。
 これ、本格的にやば……

「もう息あがってんじゃねぇか!
 じゃあ苦しまねぇように一刺しにしてやるよ、俺はやさし……」

「はいぃ!」

「ぃべぐぉ!?」

 私を前に、舌なめずりをしていた魔族……が、いきなり横っ飛びに消えていった。というかぶっ飛んでいった。
 今の……魔族の顔面に、蹴りがめりこんでいた?

 いったい誰が魔族をふっ飛ばしたのか。その正体は、私の隣に並んで立った。

「大丈夫ですか、エランさん」

「……ガローシャ」

 そこにいたのは、魔族のガローシャだった。
 私たちがここに来ること、これから戦争が起こることを予想……いや未来予見していた、魔族の女性だ。

 多分、このくにの……偉いお姫様みたいな存在。
 その立場については、詳しく聞くことはなかったけど。

「えっと……今の、あなたが?」

「はい。お恥ずかしいですが」

 照れたように笑うガローシャだけど……
 いや、吹っ飛んだ魔族塔の壁にめり込んじゃってるけど。上半身埋まって、腰がぴくぴく動いてるけど。

 そしてもう一人の魔族は、唖然として固まっている。

「……助けてくれたの?」

「そのように恩に着せるつもりはありませんが、結果的にはそうなりますね」

 私は、なんとか立ち上がる。
 膝が震えているけど、大丈夫。まだ立てる。

「私が巻き込んでしまったようなものなので。これくらいは」

 確かに、ガローシャの未来予見で、戦争が起こってそこにエレガたちが介入してくることを知れた。
 あいつらには、聞きたいことがある。だからとっ捕まえてしまわないと。

 ……なんか、ガローシャたちを放って逃げようとした自分に罪悪感感じてしまうな……
 助けてもらった形になったわけだし。

「なんかごめんよ……」

「? どうして謝るんです?」

「なんだてめぇ……人間と仲良くやって、正気か!?」

 相手の魔族が、私とガローシャの関係性を見て、叫ぶ。
 まあ、事情を知らない魔族からしたら当然だよな……魔族しかいない魔大陸に、人間がいること自体意味分かんないだろうに。

 その人間と、魔族が仲良くやっている……ように見えているんだ。
 ……仲良く見えるのか?

「我々が滅ぼされないためなら、誰とでも手を組みます」

「ちっ、魔族の面汚しが!」

 凛とした姿勢で答えるガローシャに、魔族は飛びかかる。
 姿は、さっきふっ飛ばされた魔族とうり二つ。けれど、今度は私ではなくてガローシャに狙いを定めている。

 両手から爪を伸ばし、その鋭い爪でガローシャを切り刻もうとしている。

「……遅いですね」

 でも、その結果にはならなかった。
 ガローシャは、いつの間にか魔族の背後に立っていた。次の瞬間、魔族は全身から血を吹き出して、倒れた。

 ……今、なにが起こったんだ?
 魔族に襲われそうだったガローシャが、いつの間にか魔族の背後に回り、そして魔族は……

「……ガローシャ、あなた、強いんだね」

「そんなことはありませんよ」

 振り向き、照れたように笑うガローシャだけど……
 いやいやいや、全然そんなことあるでしょう。なんだよ今の。

 本調子とは程遠いとはいえ、私でもびくともしなかった魔族が、一瞬で……おい、瞬殺だよこれ。
 しかも、ニ体をだ。

 見た感じ、おとなしめのお姫様って感じなのになぁ……人は見た目によらないよ。
 人じゃないけど。

「それで……そちらのお二人は」

「そうだ! ルリーちゃん! ラッヘ!」

 私はすぐに、倒れている二人に駆け寄り、抱き上げる。
 口元に、手をかざす。……息は、している。

 うん、大丈夫。二人とも、生きてる。

「気絶してるだけみたい」

「そうでしたか。それは、なによりです」

 ルリーちゃんはほとんどの、ラッヘはすべての魔力がなくなっている。
 その理由はわからないけど、二人とも生きてる。

 ルリーちゃんは暴走していたけど、気絶しているおかげでそれは止まったみたいだ。
 そして、止めてくれたのは……おそらくラッヘ。

 起きたら、ちゃんとお礼を言わないとね。
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