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第六章 魔大陸編

417話 負の感情

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「……」

「よしっ」

 気絶したジェラを、拘束。魔法で作ったムチで、ちょちょいのちょいだ。
 女の子だし、かなり顔が腫れちゃったのは、まあ少しだけかわいそうな気がしないでもないけど……

 過去の行いを思えば、これでも安いくらいだろう。

「さて、と」

 これでひとまず、ビジーちゃん、レジー、エレガ、ジェラと、四人を倒すことができた。
 あとは、吹っ飛んでったエレガを回収して、動けないうちに拘束しとくか。

 ……その後は、上に向かうか下に向かうか……

「って、決まってるよね」

 私の向かう先は、一つだ。元々、分身魔法を使ったのはそのためでもあるんだから。
 下にいる、ルリーちゃんとラッヘの様子を、確認するためだ。

 ルリーちゃんは、魔大陸の影響で魔力が暴走し、それをラッヘが止めようとしている。
 さっき、とてつもない魔力を感じた。ラッヘのものだ。その後、ラッヘの魔力はまったく感じない。

 いったい、なにが起きているのか。ルリーちゃんも、魔力こそ感じるけどさっきまで感じていた気配は感じない。

「二人とも……無事でいて」

 私は今から、下へと向かう。
 だから……上は、任せたよ。

 ――――――

「……クロガネ、大丈夫?」

『なんの、問題はない』

 私はクロガネに乗り、目の前にいる圧倒的な存在と対峙していた。
 魔獣、プサイ……不気味な魔獣で、しかも強い。これまでの魔獣とは、比べ物にならない。

 黒い鱗を持つクロガネと、白い魔獣のプサイ。両者の力は、互角といったところだ。
 私もクロガネのサポートはしているけど、たいした力にはなっていない。

 情けない……! これじゃあ、なんのために残ったか……

『契約者よ、そう腐るな』

「クロガネ……」

『契約者と共有している視界のおかげで、ワレが先手を取れるのだから』

 ……契約している術者とモンスターは、互いの魔力や視界を共有できる。
 クロガネが見ている景色を私も見ることができるし、当然逆も可能だ。

 だからクロガネは、私を通して私の見ているものを見ている。そのおかげで、クロガネには二つではなく四つの視界がある状態だ。
 視界が増えれば、相手の攻撃を察知することも、隙を見つけることもできる。

 それだけでも、役に立てていると言うべきか……それだけしか、役に立てていないと言うべきか……

「……っ」

 使い魔契約ってのは、術者がモンスターを使役する立場だ。立場としては、術者のほうが上。
 でも、クロガネとは……使い魔契約ではあるけど、立場としては対等だ。

 これまで、クロガネには助けられてばかり。魔力のこともそう、クロガネがいなければとっくに、私たちはやられていた。

 なのに、私は……クロガネのために、なにか……

『契約者よ! 呑まれるな!』

「!」

 頭の中に、声が響いた。
 クロガネの、私にしか聞こえない、頼もしい声。

 その瞬間、頭の中に広がっていた霧のような、ぱっと晴れていくのを感じた。

「あ……」

『なるほど……どうやら、ソレがあの魔獣の能力。いや、特性と言うべきか』

 なにかに納得したように、クロガネは言う。

 契約した両者の間には、視界と魔力と……なにを考えているかも、ある程度わかる。
 もちろん、それらは片方が頑なに拒否すれば、片方に伝わることはないけれど。両者の繋がりを拒否することは、契約自体の揺らぎに繋がる。

 ただ、今の場合……私の思考は、なんだかぼんやりしていたような。それを、クロガネが読み取った。

「魔獣の、特性?」

『そうだ。奴は、対峙しただけで相手の負の感情を増大させる。無自覚のままにな』

 ……負の感情を、増大させる。それが、あの魔獣の特性。
 私はさっき、なにを考えていた? クロガネへの、申し訳無さのようなものだ。

 それは、確かに私の中にあった。でも……自分で思った以上に、負の感情が膨らんでいた?

「そういうことか」

 負の感情を、大きくする。それで、こっちの精神が先に参っちゃうってわけか。
 クロガネに声をかけてもらわなければ、私も呑まれて……罪悪感に押しつぶされていた。

 普通の攻撃なら、強い魔力を纏っていれば跳ね返せる。でもこれは、そういう類いのものじゃない。
 それに、能力じゃなく特性と言ったのは……あの魔獣の存在が、"そういうもの"ってことなんだろう。

「ありがとうクロガネ。また助けられた」

『契約者よ、汝が思っている以上に、ワレも助けられている。ゆめゆめ忘れるな』

「……うん」

 それがクロガネの本心なのか、慰めなのかはわからない。
 契約している間柄なら、なにを考えているかもある程度わかる……とは言うけど。私にクロガネの考えは読めない。

 使い魔に関しての話はいっぱい聞いてきたけど、モンスターの考えを読み取る、なんて方法聞いてこなかったもんなぁ。
 契約したばかりで、私はまだ慣れていないってことだ。

「すぅ……ふぅ。よしっ」

 息を思い切り吸い込んで、吐き出す。よし、落ち着いた。
 魔大陸だからか魔力は本調子じゃないけど、空気はベルザ王国と変わらない。普通の、空気だ。

 私は、クロガネのおかげで魔大陸の環境に対応できてる。クロガネは、元々そういう体質だ。
 魔獣も、魔って付いてるし……魔大陸だと、力が上がるタイプなのかな。

 まあ、どっちでもいいか……どうせ、倒さなきゃいけないんだ!
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