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第六章 魔大陸編

416話 面白いから

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 ドカァ……ッ


「ぐぅ……!」

 私の蹴りは、エレガの頬に直撃した。
 自分でやっておいてなんだけど、すごく痛そうだなと、思う。

 そのまま、勢いのままにエレガは吹っ飛んでいき……塔の壁に、激突する。
 めっちゃ痛そうな音がしたし、離れているのにうめき声が聞こえた。

「さて、と……結局、一人ずつ倒すことになっちゃった」

 ビジーちゃん、レジー、そしてエレガ……エレガはまあ、あれで戦闘不能になったかはわからないけど、しばらくは動けないはずだ。
 エレガの能力は、別に防御力が上がるとかでは、ないのだから。

 残るは、ジェラだけだ。

「クロガネは……さすが。大丈夫そう」

 魔獣と対峙しているクロガネは、大丈夫そうだ。
 互いに一進一退の攻防を続けている。

 ……ただ、押しも押されもしないってのは……少しの隙が、命取りになるってことだ。クロガネの攻撃が魔獣を倒すことだってあるし、その逆だって……
 分身の私のサポートも、少しは役立ってくれていると思う。

「上も下も気になる……だから、さっさと来てくれないかな」

「……」

 さっきから、遠くで見ているだけで、ジェラは動かない。
 エレガとの戦いの最中、また介入してくるかと思ったけど……結局、最後までなにもなかった。
 なにもしてこなかった。

 エレガが、一対一の勝負にこだわっていた、ってのならわかるけど……
 それでも、ジェラがそれに従う理由はないけれど。

「……やめだ」

「は?」

 ジェラは、私の近くに降り立つ。
 そのまま、なにをしてくるのか警戒していたら……ジェラは突然、そんなことを言った。

 両手を上に上げて、自ら降参の意思を、示している……?

「どういうつもり?」

「負けだよ、負け。アタシはアンタとは戦わない」

 ヘラヘラした態度だけど……嘘をついている感覚じゃあ、ない。

「戦わない? どういうこと」

「いやぁ、アンタの戦いぶりを見てて、思ったんだ。アタシじゃアンタには勝てない。
 それに、アタシの能力は戦い向きじゃあないんだ」

「戦うのが好きなんじゃないの?」

「そりゃあのバカエレガだけのことさ。別にアタシは、戦いが好きなわけでもなんでもない。
 ただ、面白いことが好きなだけだ」

 戦いが好きではない自分は、これ以上戦うつもりはない……こう言っているわけだ。
 なるほど理屈は、わかる。戦いが好きではないなら、勝てない相手に挑む理由だってない。

 戦い向きの能力じゃないとは言っていたけど……さっき、四人を相手にしている中で、私の体に起こった異変。
 その中で一つ、わからないことがあった。エレガに殴りかかっても、意識の先に向けていた相手が強制的にジェラになってしまうのだ。

 だから、多分ジェラの能力は、対象の意識を自分に向けさせること。乱戦なら、その能力で確実に対象の隙を作れる。私みたいに。
 その能力は、一対一じゃ効果がないってことだ。

「……」

 だから、ジェラは降参した……
 降参したから、それで許されるとでも、思っているのか?

「面白いことが、好きなだけ……」

 ジェラは、言った。面白いことが好きなだけだだと。
 それは、つまりこれまでにジェラがやってきたことは、ジェラにとって楽しいと感じたこと。

 ……ダークエルフの故郷を燃やしたことも、ルリーちゃんの友達を仲間を殺したことも。
 こいつにとっては……面白いから……!

「わかった、戦いはやめにしよう」

「お、話がわかるね。そうそう、アタシは無駄に痛いのはヤだし、アンタも無駄に時間を浪費したくないでしょ」

 私の言葉に、ジェラはわかりやすく喜んだ。
 私と戦いたくないってのは、本当だろう。能力は戦いに不向き、私との力の差を痛感……魔獣も、おそらくもういない。

 まだ魔獣がいるなら、それらすべてをクロガネにぶつけているはずだ。
 そんなことをせず、あんなヤツをクロガネにぶつけた……あれが、こいつらの隠し玉だったのだろう。

 それを出した以上、他に魔獣もおらず、手駒もいない。
 手段のないジェラ。降参するのは仕方ないかもしれない。もう戦う気のない、ジェラに私は……

「ただ、一つだけ条件がある」

「! 条件? なにをしろってんだよ」

 私は……

「ちょっとそこに立ってて」

「ん……?」

「あとはなにもしなくていいよ。
 ……ただ、一発殴らせろ」

 右拳に、今ある全魔力を集中して纏わせて……
 無防備に突っ立っているジェラの横っ面に、思い切り拳を打ち込んだ。

 ドォッ……と、激しい音が響いた。それはパンチの音というよりも、もっと強烈な音。
 なにかが割れてしまうじゃないかというほどの、強大な。

 今の私が打てる、最高の拳。分身魔法の影響で、力は半分に減っている。
 それでも、クロガネと共有している魔力のおかげで、大したデメリットもなく動けている。

 そんな私の、パンチをくらってジェラは……

「っ……っ……」

 声もなく、気を失った。
 エレガのときのように吹っ飛ばなかったのは、私が意図的にふっ飛ばさなかったからだ。

 魔力でジェラの足下をこの場に固定して、逃さないようにした。
 そうすることで、攻撃を受けた衝撃をどこかに逃がすこともできず、攻撃を全身で受けることになる。

 結果としてジェラは、さっきまでの余裕の顔はどこに行ったんだと効きたくなるほどに、無様な顔をさらして気絶した。
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