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第六章 魔大陸編
415話 短絡的なやつ
しおりを挟む「おらおらっ、どうしたどうした! 避けてばっかかぁ!?」
「っ……」
繰り出される、拳のラッシュ。
エレガの拳は……というか能力は、防御無視の攻撃を放つというもの。
どれだけ魔力で体を覆っても、どれだけ体が固くても……エレガの前には、それは無意味だっていうことだ。
それに、エレガは身体強化の魔法を使っているので、速度もある。油断したら拳の嵐が入る。
「オラオラオラァ!」
「ちっ、いちいちうるさいやつ……!」
この分じゃ、当たっちゃいけない私のほうが、神経がすり減らされる……!
「ハハァ! 分身とはいえ実体はあんのか!
魔物や魔獣は、ぶっ殺しゃ死体も残さず消えるが! 分身魔法はどうなんだ!?
分身だから殺しゃ片方は消えんのか! それとも死体は残ったままか! 残ったままなら、いったいどっちがてめえ自身なんだろうな!」
「っ、興味、ないね!」
こいつ、なんて物騒なこと考えるんだ!
……実際には、分身には実体はあるけど、分身がやられれば死体は残らない。
魔物や魔獣と同じ……って言うと嫌な感じだけど。
分身にあった意識は消えて、最終的には最後に残った一人のものになる……
理屈はわかんないけど、まあこんな感じだ。素直に答えてやるつもりは、ないけど。
「すばしっこいな!」
「……ここ!」
しばらく避け続けて、わかったことがある。
エレガには、癖のようなものがある。拳を連打して、私がわざと隙を見せた瞬間……大振りになるんだ。
その瞬間を見逃さず、私は避けると同時に伸びた腕を絡め取り……本来曲がる方向とは逆側、つまり曲げてはいけない方向に腕を曲げる。
「っ! い、いでででで!」
「へぇ、これは効くんだ」
やっぱりか……エレガの能力は、あくまで防御無視。
エレガの攻撃力が上がったとか、エレガの身体が固いものに包まれているとか、そういうことではないらしい。
もちろん、魔力強化を使っているから、素の状態よりは体も固い。
けれど、魔力強化を使っているのは、私も同じだ。
「あと、魔力強化しても防御力が上がるだけで、腕の関節とか曲がる部分に影響はないから楽に曲げられる……って、聞いてる?」
「ぐぃででで! は、なせちくしょう!」
やろうと思えば、関節の逆側には簡単に腕を曲げられる。
逆側に曲げてしまえば骨は折れるし、そうでなくても痛みでそへどころではない。
ボキッと音がしたような気がするし、多分折れてる。回復魔術が使えれば、折れた腕も治るんだろうけど……
「キミたち、回復魔術とか使えるのかな」
「……っ」
そもそも、こいつら魔術を使えるんだろうか……
魔法はたくさん使ってるけど、魔術を使っているのを見たことがないような?
あちこちをめちゃくちゃに暴れまわっているような奴らに、精霊さんが力を貸すとも思えない。
「ぐっ……いい加減に……!」
「おっと」
エレガが、捕まっているほうとは逆の手で、拳を繰り出してくる。
けれどそれは、先ほどまでの速さも勢いもない。
腕を解放し、避けるのは簡単だった。
「やっぱり、片腕折れてちゃ満足に動けない?」
「っせぇ! クソガキが……!」
人の腕を折るのは、初めてだけど……案外、なにも感じないもんだな。
相手はルリーちゃんや他のみんなをめちゃくちゃにしたやつだ。同情の余地なんてないけど。
……もう一本の腕も折れば、おとなしくなるかな。
「あっはははは! イキっといていいようにやられてんじゃん!
手ぇ貸してあげよっか?」
「黙ってろクソが!」
味方のはずのジェラは、やられているエレガを見て愉快そうに笑っている。
やっぱりこいつらに仲間意識はない……さっき手を出してきたのも、本当にエレガもろともに攻撃を当てるつもりだったのか。
エレガは息を荒くして、私を睨みつけている。
四人の中で、一番扱いやすかったのがレジーだけど……エレガも、短絡的というか、一度崩せば扱いやすい。
「ほら、さっきから吠えてるだけ? さっさと来なよ」
「っ……ぶっ殺す!」
私は、わかりやすく挑発してみることにした。
右手をエレガに差し出して、手の先を自分の方へとクイクイと曲げる。「ほら早く来いよ」みたいな感じ。
それを見たエレガは、予想通りというか予想以上というか……目を血走らせ、私に突進してきた。
「……」
学園にも、こういうタイプはいた。こういうタイプは、自分の力をとにかく誇示したいのだ。
その上で、自分が圧倒的な勝利を収める。それが彼らの理想。
だから、少しでも思い描いたものと違うことがあれば、困惑する。攻撃すべて避けられて、カウンター代わりに腕を折られて……
エレガのプライド的なやつは、ズタズタだろう。
「プライドを刺激してやるのが一番、か」
「なにごちゃごちゃ言ってやがる!」
そして、一刻も早く私を倒したいエレガの動きは……単調になってくる。加えて、片腕は使えないのだ。
ご自慢のラッシュをかわされてやられたのだから、どうにかして自分の拳で勝負を決めたい。それがわかる。
だから……
「ふっ……」
声もなく繰り出された拳を、私は少し顔をそらして避ける。
単調な動きのものほど、避けるのは簡単だ。そして……
私は、無防備にがら空きとなったエレガの顔面に、体を捻らせ勢いを乗せた蹴りを、おみまいした。
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