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第六章 魔大陸編

413話 半分で充分

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 空の足から出現した、白い魔獣……名前を、プサイと呼ばれていた。
 強大な力を持つプサイは、クロガネと互角に渡り合う力を有している。

 その力の大きさも、閉じ込められていた鬱憤を晴らすためいつもより上昇しているのだという。
 はた迷惑な話だ。

「あの魔獣が、エレガたちの言うこと聞かずに暴れ回るんだったら、エレガたちを残して私たちだけここから離れればいいかなとも思ったけど……」

『それは、難しいかもしれんな』

 腕力は、クロガネと互角に渡り合う。体の硬さは、クロガネの竜魔息ブレスを無傷で防ぐほど。
 速度も、クロガネに匹敵すると考えても、不思議じゃない。

 なんかこっちずっと見てるし、逃げても追いかけてきそうな気がしている。

 そう、考えている間にも……状況は、動いていく。

「ォオオオオオ!」

「! 腕伸びた!?」

 雄叫びを上げ、横腹から伸びている腕が伸びて私たちに迫る。
 クロガネはそれを避けようとするけど、翼をわしづかみにされた。

 自由に飛べなくなったところで、プサイのお腹の鎧の一部が光り出す。
 そして、そこから大砲のようなものが出てきたではないか。

「なにあれ!?」

 あれって鎧じゃないの!? どうなってんの!?
 そんな驚きも一瞬だ。あれが大砲なら、次になにがくるかはわかっている。

「今は眠りし創生の炎よ、万物を無に還す穢れなき炎となりて……」

 私は、魔導の杖を構えて詠唱を唱える。
 魔大陸では、精霊さんの活動が制限される。けれど、クロガネが張ってくれた結界の中にいれば、いつも通りの動きができる。

 魔大陸には、精霊さんは生息していないから、私についてきてくれた火属性の精霊さんの力しか、借りられないけど。

「全てを焼き尽くし、喰らい尽くせ!」

 なんにもないことに比べたら、ありがたいよ!

焔龍豪炎ボルケイノプレデター!!!」

「ゴォオオオオオオオ!!!」

 私が魔術を放つのと、プサイが大砲から光線を放つのは、ほとんど同時だった。
 圧倒的な熱量を持つ魔術と、圧倒的な圧力を持つ光線とが、ぶつかりあった。

 二つの攻撃は、互角で、拮抗している。
 だったら……

「ジャアアアアアアアア!!!」

 そこにクロガネのブレスも合わされば、こちらの攻撃の方が強くなるのは必然だ。
 私とクロガネの攻撃が合わさり、プサイの光線を押し込んでいく。

 対抗するプサイは、なにを考えているのか……
 もろともに、私たちの攻撃が、直撃した。

「よし!」

 それを見て、私は自然と手を握っていた。
 クロガネのブレス単体だと、たいしたダメージは与えられなかった。でも、私の魔術と合わされば。

 倒せないまでも、ダメージは必ず与えているはず。
 そう、思っていて……

「! うそ……」

「……」

 私たちの攻撃を受けても、無傷のプサイを前に……声が、震えた。
 あれだけの攻撃を受けて、無傷なんてことがある?

 あの魔獣は、それほどまでに硬いのか。それとも、あの鎧が、すさまじい防御力なのか……

「はっ、プサイを出したかいがあるってもんだ。
 ここはあいつに任せといて、下のダークエルフたちでも始末しに行くか」

「!」

 わざとらしく……私に聞こえるように、エレガは言った。
 下にいるダークエルフたち……ルリーちゃんと、ラッヘのことだ。

 どうしてか、さっき感じた強大な魔力以降、二人の魔力を感じない。
 ルリーちゃんの方は、まだ微弱には感じるけど……ラッヘの方は、全然。まるで、魔力がなくなってしまったかのよう。

 ……まさか、死んじゃっては……

「待て! ルリーちゃんたちに手を出すな!」

「つってもなぁ……お前、そいつ一体に手一杯じゃねえか。
 それとも、そいつの相手はドラゴンに任せて、お前が俺らと戦うか?」

「!」

 こいつ、わかっていて嫌なことを聞いてくる……!
 私とクロガネでも、あの魔獣にダメージは与えられないんだ。クロガネだけじゃ、やられはしなくても勝てはしない。

 クロガネを、クロガネだけをここに残してはいけない。
 ならば、どうするか……

 ……簡単なことだ。

「分身魔法!」

「!」

 私は、分身魔法を唱える。
 二人になった私は、それぞれこの場とエレガたちを阻止する方にわかれる。

 これなら、クロガネだけを残さずにエレガたちの妨害も出来る。

『契約者よ……』

「大丈夫。クロガネの近くにいれば、魔力は充分だから!」

 魔大陸で分身魔法なんか使ったら、私でも魔力はあんまり長く持たない。
 けれど、契約しているクロガネが近くにいれば、共有している魔力から補える。

 さっき、ルリーちゃんに分身ではなく、ラッヘに任せるしかなかったのも、クロガネと離れていて魔力が心許なかったからだ。

「ははっ。充分とは言うがお前、大丈夫かぁ!?」

「そもそも、分身魔法は分身の数だけ、術者の力が減少する……そうじゃなかった?」

 エレガが笑い、ジェラが指摘する。
 指摘された通り、よく調べたものだ。分身魔法は、増やせば増やすほど力は減少していく。

 ゴルさんとの決闘の時は、ゴーレムが相手だからうまくいったんだ。
 今の私は、分身を含めて二人……魔力量諸々は、平常時の二分の一にまで下がっている。

 数で錯乱するとき以外、本当なら分身魔法は使うべきじゃないのかもしれないけど……

「ふふっ、確かに、今の私はいつもの半分の力しかないけど……
 半分の力で、お前たちは充分だってことだよ」

「……っ、言ってくれるじゃねえか」

 さて……やるか!
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