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第六章 魔大陸編
412話 不気味な魔獣
しおりを挟む白い、魔獣……だけど、これまでの奴らとは、違う。
さっき倒した、三体の魔獣。それ以外にも、白い魔獣と対峙したことは、あった。
そのどれとも……違う。
この圧迫感は……レベルが、違う!
「なんだ、あいつ……!」
空にできた、ヒビ……亀裂の奥から、四本の腕が出てきて、亀裂を広げてなにかが、出てきた。
そいつが、白い魔獣。
人型のシルエット……けれど、とにかくでかい。クロガネと同じくらいだろうか。
本来生えている肩と、横腹から生えている計四本の腕。ゴツく、あれに握りつぶされたら一瞬でミンチにされちゃう。
全体的に白く筋肉質な体だけど、お腹のところと腕に、黒い鎧を付けている。
顔にも、目だけが空いた無地の黒い画面を付けていて……黒い髪の毛も、生えている。
目は、真っ赤に光っている。
「まさかこいつを出すことになるとはな……プサイ!」
「ォオオオ……」
プサイ……それが、この魔獣の名前か。
なんだろう、これまでの魔獣は、みんないたずらに吠えたりして自分の存在を主張するものが、多かった。
なのに、この物静かな雰囲気は、なんだ?
「どんだけいるんだよ、白い魔獣……!」
ルリーちゃんの過去に出てきたのだか、王都で暴れまわったのとか……思ったよりも、いっぱいいるのか…!?
白い魔獣……いや、"最上位種"ってやつが。
……そういえば、マーチさんが言ってたな。"最上位種"ってやつが……
「……嫌なこと思い出しちゃったな」
……"最上位種"ってやつが、"魔人"と同じ存在。つまり、ノマちゃんと同じ状態になった人間が、魔獣になったって可能性の話。
それを知っているのは、ごく僅かだ。
ってことは、だ……アレも、元は人間である可能性が高い。
元は、人間……
『契約者よ』
「……うん、大丈夫」
クロガネの声に、私は大丈夫だと答える。
そのへんは、もう割り切ってる。これまでだって、白い魔獣は倒してきた。
知ってたか知らなかったか、だけの違いだ。
「クロガネ、あいつ強いよ」
『あぁ、わかる』
私はクロガネに乗り、魔獣を見上げる。
顔が仮面で隠れているから、どんな表情をしているのかは、わからない。
ただ、私たちのことを、じっと見ている。
「先制攻撃! クロガネ!」
「ゴォォォオオオ!」
なにをしてくるのか、わからない。だから、まずはこちらからの先制攻撃だ。
クロガネは口から竜魔息を放ち、棒立ちの魔獣にそれが直撃する。
この一撃で倒せていれば、楽なんだけどな……
「ま、そんなわけないか」
ブレスが直撃し、煙が周囲を包み込む。
それが晴れると……魔獣は、変わらない姿でそこに立ったままだった。
エレガたちの自信満々な様子から、切り札的なものなんだろうとは思っていたけど。
『ほとんどダメージがない、か。さすがに傷つくな』
クロガネの攻撃が、通用しない。ただ無言で突っ立ったまま、こっちを見ている。
その姿は、なんとも不気味だ。
このまま、なにも動かないのなら……放置しておくのもありなんだろうけど。
ずっとこっち見てるのが、不穏なんだよなぁ。
「ブォオオォオオ……!」
「!」
ただ黙って、こっちを観察しているだけ……かと思いきや、低い唸り声を上げ、こっちに一直線に向かってくる。
スピードは、そこまでない。だけど、圧倒的な圧力が迫ってくる感覚に、体が動かせない……
「ゴギャアアアアアアアアアア!」
だけど、それはクロガネには通じない。
雄々しい雄叫びをあげて、迫り来る魔獣を迎えうつ。
クロガネと魔獣が、まるで組み手をするように、その大きな手を重ね合わせる。
巨体と巨体がぶつかり合うその感覚は、すぐ近くにいる私にはすごい迫力を与えてくる。
『むぅう……!』
「ゴォオ……!」
クロガネが、押し切れない……両者の力は、拮抗している!
いや、違う……
「ぁ……」
魔獣には、両手が塞がっても残る二つの腕がある。
それが、がら空きになったクロガネの腹部を狙って、放たれる。
それを見て、私の体は動く。
魔獣に対する圧迫感とか、そんなことを言っている場合じゃあない!
「えいや!」
クロガネの腹部あたりに、魔力障壁を展開。
魔獣のパンチを受け止め、クロガネへの直撃を回避する……けど……
「ぬぐぐ……!」
す、すごい力だ、これ……!
なんとか拳を弾き返し、クロガネもまた魔獣から距離を取る。
表情が見えないから、魔獣がなにを考えているのか、わからない。
『すまぬな、契約者よ』
「ううん。けどあいつ……」
『うむ。これまでの魔獣とは一味違うな』
さっき倒した魔獣くらいの強さなら、クロガネにぶん殴られただけで倒せてしまうのに。
こいつは、クロガネの力に対抗してきた。
クロガネのブレスが直撃してもほとんど無傷だし、体も固い。
「ブゴゴゴ……ゴゴゴ……」
「な、なんかさっきから言ってる……」
言葉、というよりは、それはモンスターの唸り声のようだ。
なんか、怒っているようにも見えるし……私たち、なんかした?
「言っとくが、そいつは今まで閉じ込められてた鬱憤が溜まってる。好き放題に暴れてえだろうよ」
「閉じ込めてたのキミたちだよね! てか遠っ!」
いつの間にか、エレガとジェラは距離の離れたところにいた。
つまり、近くにいたら呼び出したあいつらも、危害が及ぶってところか。
自分たちで閉じ込めておいて、そのストレスを私たちにぶつけるとか、ホントいい趣味してるなぁ!
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