417 / 849
第六章 魔大陸編
406話 魔力の暴走
しおりを挟む「ルリーちゃん……!?」
「かっ、あぅ……うぅ!」
私を睨みつける、ルリーちゃん。とっさに退かなければ、やられていた……
左手で頭を押さえて、右手が黒く光っている。いや、魔力が纏っている。
すごい力を感じる。髪がちょっと切れただけなのは、運が良かったと言えるかもしれない。
「まさか……魔力暴走か!」
様子がおかしいルリーちゃんを見て、ラッヘが叫ぶ。
魔力暴走……それって、もしかして……
「"魔死事件"と同じ……!?」
魔力が暴走する現象。それを私は、知っている。
だって、ベルザ王国を騒がせた事件。友達のノマちゃんが、死にかけた事件。
人は生まれながら、体内に魔力が流れている。その魔力が、魔石の魔力を取り込んだことで体内で魔力が暴走し、やがて死に至る……それで死んでしまったのが、魔死者。
ノマちゃん以外の被害者は、みんな死んでしまったという。
それと、おんなじだっていうなら……
「このままじゃ、ルリーちゃんが死んじゃうってこと……!?」
「おい、てめえの考えてることは察しがつくが、そいつとは違うな」
私が例の事件のことを思い出していると、ラッヘが首を振る。
エルフの彼女だけど、あんな大騒ぎになった事件のことは知っている。それを私が思い出していることも。
その上で、あの事件とは違うと話す。
「どういうこと!?」
「言葉は似てても、意味はまったく違うってことだ。
あのダークエルフ、魔大陸の魔力にでもあてられて、おかしくなってやがる」
似た言葉で違う意味……私が考えていたのは魔力が暴走して死んでしまうもので、ルリーちゃんの身に起こっているのは魔力が暴走して自我を失っているってことか。
「それ、大丈夫なの!? 元に戻るんだよね!」
「知るかよ。ただこのまま放置してたら……おっと」
次の瞬間、魔力の塊が飛んでくる。
複数の魔力弾は、私たちの足下に当たる。外した……いや、外れたのか?
魔力を飛ばしてきたのは、やはりルリーちゃんだ。
「放置してたら、あいつに私らがぶっ潰されるってこった」
「……っ」
思いもよらない、ルリーちゃんの異変。彼女を放っておくわけには、いかない。私がなんとか……
さっき、私の魔力でルリーちゃんの苦しみを、和らげられたように……
あぁでも、上ではクロガネが……!
いくらクロガネでも、動けない状態にされたら、どうなっちゃうかわからないし……!
「行けよ」
「え?」
上も下もと、視線を上げ下げしている私に、ラッヘは言う。
「そんな上も下も気にしてちゃ、どっちにも集中できねぇだろ。そのダークエルフは私に預けとけ」
「……ラッヘって、私のこと嫌いって言ってなかったっけ。ツンデレ?」
「誰がデレたんだ誰が。ここで二人で足踏みしてるより、二手にわかれたほうが効率的だってことだ」
ラッヘの言うことは一理……というか、正しいしかない。
私とラッヘで、二手にわかれたほうが効率的。そして、わかれるとなれば……
私がクロガネのところへ。ラッヘがルリーちゃんを、となる。その理由は……
「あのダークエルフ一人だけなら、私でもなんとかなる。
上の四人は、悔しいがてめえじゃないとどうにもできねえだろうからな」
魔大陸の環境では、ラッヘは充分な力を出せない。
それでも、エレガたち四人とルリーちゃん一人を相手にするの、どちらが勝率が高いかと言えば……後者だろう。
それに……私は、クロガネと近くにいたほうが、魔力がさらに上昇する。
魔法陣に戻そうにも、結界のせいで無理だ。やっぱり、あの四人を倒さないと。
「なら、ルリーちゃんのことは任せるけど……あんまり、無茶しちゃだめだよ!」
「はっ、ったりめぇだ」
この場はラッヘに任せて、私は浮遊魔法で上へと飛ぶ。
ルリーちゃんのことは、ひとまずラッヘに任せる。口は悪いけど、ラッヘは結構優しい……きっとルリーちゃんのことも、大丈夫だ。
私は、クロガネを助けることに集中しろ!
「クロガネー!」
「!」
クロガネは、結界の中で暴れていた。クロガネの力でも割れない結界なんて、すごい力だ。
私も、外から力を加えれば……いや……
「戻ってきたぁ、お姉ちゃん♪」
「! ビジーちゃん!」
クロガネを助けるために、まずはあの四人を、倒さなければ。
クロガネと近づいたおかげで、私の体には魔力が満ちていく。これが、契約したモンスターとの証……!
私の前に立ちはだかるのは、空中に立っているビジーちゃん。
その姿に攻撃するのは、心苦しいけど……
「せぇい!」
こいつらを倒さないと、クロガネを助けられない。クロガネを助けられなければラッヘの手助けにもいけない。ルリーちゃんを元に戻さないとここから動けない。
エレガたちがここにいる以上、あの場でなんらかの動きがあったのは確かだ。
みんな、無事でいて……!
その思いを込めて、私は魔力弾をぶっ放す。今の私の魔力なら、その威力は絶大。
……そのはずなのに。
「アーン!」
ビジーちゃんは大きく口を開け……思い切り、閉じる。
その瞬間、ビジーちゃんに迫っていた魔力弾が……弾けて、消えた。
これって……魔力を、喰われた……!?
0
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説

異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。
いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。
元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。
登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。
追記 小説家になろう ツギクル でも投稿しております。

公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる