408 / 849
第六章 魔大陸編
400話 エランとクロガネ
しおりを挟むクロガネの放った竜魔息が、二体の魔獣を包み込む。
魔獣……それも、白い魔獣は体がかなり硬く、ダメージを与えるのにも苦労する相手だ。
だけど……
「お、おぉ……」
クロガネのブレスを受けた二体の魔獣は黒焦げになり、あっという間に消滅した。あんなにも手強いと思われた魔獣が、あっさりと。
これには、私もびっくりだ。まさか、こんなことって。
「す、すごいよクロガネ!」
『ふふん』
クロガネは、どこか得意げな。ちょっとかわいい態度だな。
これが、ドラゴンの力か……もしかして、私と決闘した時は、全力じゃなかったのではないかな?
『そんなことはない。契約者も、あれくらいは容易いだろう』
私の心を読んだクロガネが、言う。クロガネがそう言ってくれるなら、ありがたいけど。
私ももっと、魔導を磨かないと!
ただ、その決意を新たにする前に……
「っち……うっとうしいな!」
エレガが、黒いモヤを払う。体から放った風圧で、ルリーちゃんの魔術を無理やり吹き飛ばしたようだ。
そして……
「! まじかよ……」
「あーあ、シータにゼータやられてんじゃん」
「あはっ、ドラゴンってすごぉい!」
やられた二体の魔獣を確認して、エレガたちの視線が私たちに向いた。
へへんどうだこれがクロガネだ、と自慢したい気持ちはあるけど、今はその時じゃないか。
二体の魔獣は消し去り、今エレガたちが乗っている魔獣ももはや満身創痍だ。これなら、勝てる!
「そんで、ルリーちゃんの前で謝らせる! クロガネ!」
『うむ!』
クロガネに頼み、急上昇。
魔獣との距離が近づき、私は……魔獣へと、飛び移った。
「え、エランさん!?」
「なにしてんだあいつ!」
下で、二人の驚いた声が聞こえる。
そりゃそうだ。このままクロガネに乗ったまま遠くから攻撃していれば、危なげなく勝てるのに。
でも、私は……どうしても、直接こいつを……!
「こいつ、マジか……!」
驚くのは、当のエレガたちも同じだ。まさか私が乗り込んでくると、思わなかった。
だから、誰もの動きが鈍い。遅い。動きがスローモーションに見える。
拳を握る。これを、エレガの横っ面に叩き込む。それを考えただけで、高揚するこの気持ち……!
気持ちが昂る……魔力が昂る……!
「いい度胸だ、袋叩きに……」
「エレガァアアアアア!」
「っ!?」
エレガがなにかを言おうとしていたけど、そんなものを聞く義理はない。
スローモーションの世界で、私だけがいつも通りに……いやいつも以上に速く、動けていた。だから。
振り抜いた拳を、エレガの右頬におみまいした。
「ぬぅうううううぇい!」
拳を力いっぱい振り抜き、エレガを吹き飛ばす。
無防備に吹っ飛んでいったエレガが、そのまま魔獣から落ちるか……と思われたけど、寸前でジェラがキャッチした。
……あいつも、ルリーちゃんの故郷や仲間を……それに、ルリーちゃんの好きな人を……!
「ちっ、調子乗ってんじゃ……」
「きひひっ、邪魔!」
「ぶ!」
私を止めようと、レジーが掴みかかろうとしてくる。だけど、今はレジーより優先すべきことがある。
だから身をひねり、レジーをかわしてから、逆に蹴りを返す。
顔に当たる前に腕でガードしたようだけど、衝撃までは殺しきれない。
レジーは後退りして、その場に尻餅をついた。
「っ、とと……!」
一瞬レジーに気を取られていた隙に、懐に入り込んでいたジェラが拳を突き上げてくる。
私は背を曲げのけぞり、それを回避。勢いをつけたまま、足を振り上げる。
つま先が見事に、ジェラの顎に直撃。苦痛の表情を浮かべていた。
「っ、く……っそ、ガキがぁ!」
「お前がなぁ!」
顎が揺れれば、脳も揺れる……そのはずだけど、ジェラは倒れない。むしろ私に反撃してくる。
魔力のこもった拳。それを私の頭目掛けて振り下ろしてくる。だから私は、迎え撃つためその場で一回転して、拳を振り上げた。
私とジェラの拳が、ぶつかり合う。
「っ、こいつ……なんて力……!」
「友達の大切なものを奪ったやつなんかに、負けるかぁ!」
私の今の力はきっと、ルリーちゃんへの思いから強くなっている。
クロガネのおかげで、魔力が尽きる心配もしなくていい。存分に、暴れまわることができる。
拳と拳の衝突……衝撃が、ジェラの手の骨を砕いていくのがわかる。それを感じつつ、私はジェラをぶっ飛ばした。
本当なら、こいつらを殴るのはルリーちゃんの役目だけど……代わりに、私が……
「あはは、すごいすごいお姉ちゃん! 一瞬で三人を倒しちゃうなんて!」
パチパチパチ、と、この場に似合わない拍手が響いた。
それは、一部始終を見ていたビジーちゃんによるもの。
「すっごい魔力。魔族やダークエルフでもないのに、全然減ってないね。あのドラゴンと契約してるせいかな?
それに、その髪の色。染めたわけじゃないし、いったいどうなって……」
「ビジーちゃん」
無邪気に話すその子は、普通の子供に見える。
とても、あのエレガやジェラの仲間とは、思えない。この場にあっても。
にこにこと、歯を見せて笑うビジーちゃん。その姿は本当に、どこからどう見てもただの子供で……
「……歯?」
ビジーちゃんの、歯……それは、なんだか普通のものとは違う。
尖って見える……まるで、牙。
……牙?
なんだろう、私は……あれを、どこかで見たことが、あるような気が……
「っ……」
その時、頭に痛みが走り……なにかの、映像が流れ込んでくる。
いや、これは……流れ込んでくるんじゃなくて、思い出している……いつか見た、光景を。
『------……なんであんたまでここに。
あんたは、森から逃れたダークエルフを狩る役割だろうが』
『えー、待ってばかりでだってつまんないんだもん。誰も出てこないしさ』
『いち、に……さんにん、かぁ。……じゅるり』
『おい、ダークエルフの子供は貴重なんだから、食うんじゃないよ』
『わかってるってぇ……でも、あは……
……オイシソウダナァ』
「……っ、これ、あのときの……」
思い出したのは……ルリーちゃんの、記憶。ルリーちゃん自身が気を失ったため、ルリーが知らないはずの……記憶だ。
なんで私の夢に出てきたのか、わからない。でもその中に、いたんだ。
口元を真っ赤な血に染めた、黒髪黒目の女の子が。
『イタダキマス』
邪悪に、笑っていた女の子の姿が……!
「ビジーちゃん……キミも、ルリーちゃんの故郷を……」
あのとき、あの場にいた、女の子……あれは、ビジーちゃんだ……!
0
お気に入りに追加
189
あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる