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第六章 魔大陸編
400話 エランとクロガネ
しおりを挟むクロガネの放った竜魔息が、二体の魔獣を包み込む。
魔獣……それも、白い魔獣は体がかなり硬く、ダメージを与えるのにも苦労する相手だ。
だけど……
「お、おぉ……」
クロガネのブレスを受けた二体の魔獣は黒焦げになり、あっという間に消滅した。あんなにも手強いと思われた魔獣が、あっさりと。
これには、私もびっくりだ。まさか、こんなことって。
「す、すごいよクロガネ!」
『ふふん』
クロガネは、どこか得意げな。ちょっとかわいい態度だな。
これが、ドラゴンの力か……もしかして、私と決闘した時は、全力じゃなかったのではないかな?
『そんなことはない。契約者も、あれくらいは容易いだろう』
私の心を読んだクロガネが、言う。クロガネがそう言ってくれるなら、ありがたいけど。
私ももっと、魔導を磨かないと!
ただ、その決意を新たにする前に……
「っち……うっとうしいな!」
エレガが、黒いモヤを払う。体から放った風圧で、ルリーちゃんの魔術を無理やり吹き飛ばしたようだ。
そして……
「! まじかよ……」
「あーあ、シータにゼータやられてんじゃん」
「あはっ、ドラゴンってすごぉい!」
やられた二体の魔獣を確認して、エレガたちの視線が私たちに向いた。
へへんどうだこれがクロガネだ、と自慢したい気持ちはあるけど、今はその時じゃないか。
二体の魔獣は消し去り、今エレガたちが乗っている魔獣ももはや満身創痍だ。これなら、勝てる!
「そんで、ルリーちゃんの前で謝らせる! クロガネ!」
『うむ!』
クロガネに頼み、急上昇。
魔獣との距離が近づき、私は……魔獣へと、飛び移った。
「え、エランさん!?」
「なにしてんだあいつ!」
下で、二人の驚いた声が聞こえる。
そりゃそうだ。このままクロガネに乗ったまま遠くから攻撃していれば、危なげなく勝てるのに。
でも、私は……どうしても、直接こいつを……!
「こいつ、マジか……!」
驚くのは、当のエレガたちも同じだ。まさか私が乗り込んでくると、思わなかった。
だから、誰もの動きが鈍い。遅い。動きがスローモーションに見える。
拳を握る。これを、エレガの横っ面に叩き込む。それを考えただけで、高揚するこの気持ち……!
気持ちが昂る……魔力が昂る……!
「いい度胸だ、袋叩きに……」
「エレガァアアアアア!」
「っ!?」
エレガがなにかを言おうとしていたけど、そんなものを聞く義理はない。
スローモーションの世界で、私だけがいつも通りに……いやいつも以上に速く、動けていた。だから。
振り抜いた拳を、エレガの右頬におみまいした。
「ぬぅうううううぇい!」
拳を力いっぱい振り抜き、エレガを吹き飛ばす。
無防備に吹っ飛んでいったエレガが、そのまま魔獣から落ちるか……と思われたけど、寸前でジェラがキャッチした。
……あいつも、ルリーちゃんの故郷や仲間を……それに、ルリーちゃんの好きな人を……!
「ちっ、調子乗ってんじゃ……」
「きひひっ、邪魔!」
「ぶ!」
私を止めようと、レジーが掴みかかろうとしてくる。だけど、今はレジーより優先すべきことがある。
だから身をひねり、レジーをかわしてから、逆に蹴りを返す。
顔に当たる前に腕でガードしたようだけど、衝撃までは殺しきれない。
レジーは後退りして、その場に尻餅をついた。
「っ、とと……!」
一瞬レジーに気を取られていた隙に、懐に入り込んでいたジェラが拳を突き上げてくる。
私は背を曲げのけぞり、それを回避。勢いをつけたまま、足を振り上げる。
つま先が見事に、ジェラの顎に直撃。苦痛の表情を浮かべていた。
「っ、く……っそ、ガキがぁ!」
「お前がなぁ!」
顎が揺れれば、脳も揺れる……そのはずだけど、ジェラは倒れない。むしろ私に反撃してくる。
魔力のこもった拳。それを私の頭目掛けて振り下ろしてくる。だから私は、迎え撃つためその場で一回転して、拳を振り上げた。
私とジェラの拳が、ぶつかり合う。
「っ、こいつ……なんて力……!」
「友達の大切なものを奪ったやつなんかに、負けるかぁ!」
私の今の力はきっと、ルリーちゃんへの思いから強くなっている。
クロガネのおかげで、魔力が尽きる心配もしなくていい。存分に、暴れまわることができる。
拳と拳の衝突……衝撃が、ジェラの手の骨を砕いていくのがわかる。それを感じつつ、私はジェラをぶっ飛ばした。
本当なら、こいつらを殴るのはルリーちゃんの役目だけど……代わりに、私が……
「あはは、すごいすごいお姉ちゃん! 一瞬で三人を倒しちゃうなんて!」
パチパチパチ、と、この場に似合わない拍手が響いた。
それは、一部始終を見ていたビジーちゃんによるもの。
「すっごい魔力。魔族やダークエルフでもないのに、全然減ってないね。あのドラゴンと契約してるせいかな?
それに、その髪の色。染めたわけじゃないし、いったいどうなって……」
「ビジーちゃん」
無邪気に話すその子は、普通の子供に見える。
とても、あのエレガやジェラの仲間とは、思えない。この場にあっても。
にこにこと、歯を見せて笑うビジーちゃん。その姿は本当に、どこからどう見てもただの子供で……
「……歯?」
ビジーちゃんの、歯……それは、なんだか普通のものとは違う。
尖って見える……まるで、牙。
……牙?
なんだろう、私は……あれを、どこかで見たことが、あるような気が……
「っ……」
その時、頭に痛みが走り……なにかの、映像が流れ込んでくる。
いや、これは……流れ込んでくるんじゃなくて、思い出している……いつか見た、光景を。
『------……なんであんたまでここに。
あんたは、森から逃れたダークエルフを狩る役割だろうが』
『えー、待ってばかりでだってつまんないんだもん。誰も出てこないしさ』
『いち、に……さんにん、かぁ。……じゅるり』
『おい、ダークエルフの子供は貴重なんだから、食うんじゃないよ』
『わかってるってぇ……でも、あは……
……オイシソウダナァ』
「……っ、これ、あのときの……」
思い出したのは……ルリーちゃんの、記憶。ルリーちゃん自身が気を失ったため、ルリーが知らないはずの……記憶だ。
なんで私の夢に出てきたのか、わからない。でもその中に、いたんだ。
口元を真っ赤な血に染めた、黒髪黒目の女の子が。
『イタダキマス』
邪悪に、笑っていた女の子の姿が……!
「ビジーちゃん……キミも、ルリーちゃんの故郷を……」
あのとき、あの場にいた、女の子……あれは、ビジーちゃんだ……!
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