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第六章 魔大陸編
397話 予定外の事態
しおりを挟む「敵襲です! 隣国、ラゼーナ国の兵士が攻めてきました!」
カンカンカン、と大きな音が、周囲に響いていく。危険を伝えるために、なにかを叩いて大きな音を立てているのだ。
さらに響く見張りの声。それを受けて、魔族たちの緊張感が高まっていく。
それは、私たちも同じだ。だけど……
「おい、どうなってんだ。話じゃ、現れるのはまだ先だったろ」
「私に聞かないでよ!」
ラッへの疑問は、そのまま私の疑問だ。
ガローシャの話だと、隣国の魔族が攻めてくるのはまだ先のはず。なのに、今攻め込んできたという。
もしかして、ガローシャが嘘を?
……いや、そんなことをしてガローシャに、メリットなんてないはずだ。
「ついに来やがったか……!」
「うろたえるなお前ら! 編隊を乱すな!」
私たちとは別で、魔族の兵士たちは多少の動揺はあっても、すぐに立て直している。
ガロアズから、今日戦争が起こる可能性を示唆されていた……私たちのように、時間まで指定されていたわけではない。
だから、大きな動揺もない。相手が攻めてきて動揺しているのは、私たちがガローシャから未来を聞いたからだ。
「ちっ、まあ来ちまったもんは仕方ねえか……」
「ガローシャさんの話だと、エレガたちが出てくるのは戦争が始まって一時間後、という話でしたが」
「ま、アテにゃしないほうがいいな」
すでに、時間は狂った。エレガたちが現れるタイミングも、ズレるかもしれない。
そもそも、本当にエレガたちが現れるのか……という気持ちも出てくるが、それは抑えよう。
考えてみれば、魔族同士の戦争に私たちは介入しないのだから、今動揺する必要はない。
「迎え撃つぞー!」
「うぉおおおおお!」
勇ましい掛け声とともに、攻めてくる隣国の魔族を迎え撃つためにこちらも、兵士たちが打って出る。
目の前で、ついに魔族同士の激しいぶつかり合いが起こる。
「私らは、流れ弾に当たらないよう気をつけときゃいいか」
前線に出る鎧を着た兵士たち。後衛に構えるのは、魔法等で援護する兵士だろう。
さっきまで、緊張感から静まり返って今この場が、またたく間に騒がしくなる。
剣と剣のぶつかり合う音や、魔法を撃ち合う音が響いている。
「エラン様」
私の背後から、名前を呼ばれた。
振り向くまでもなく、それが誰だかわかる。私は振り向きつつ、口を開いた。
「様は付けなくていいのに……」
そこにいたのは、ロゥアリーだ。
彼女は私たちとを、様付けで呼んでいる。一応客人扱いということになっているらしく、だからこんな呼び方になっている。
「ガローシャ様から伝言が」
彼女は、私たちとガローシャとの伝言役のようなものだ。
ガロアズは前線で指揮を取っているが、ガローシャは城の中で待機している。聞いてはないけどやっぱり、お姫様的な扱いなんだろうか。
そのガローシャからの、伝言。予想はつく。
「この状況についてだろう?」
「はい。未来が、姿を変えたことについて、ガローシャ様も大変驚かれています。
決して、皆様を謀ろうとしたわけではありません」
「あはは……」
まるで、考えていたことが読まれているようだ。
そりゃ、本気でガローシャを疑ってはいないけど……やっぱり、気になっちゃうじゃん。
「そう言うってことは、未来が外れた理由は本人にもわかってないんだな」
「はい」
「今まで未来が外れたことは」
「ありません。私が未来を見たわけではないので聞いた話になりますが、いくつかの分岐した未来を見ることはあっても、未来自体が変わったことは、これまで一度もないそうです」
ラッへの問いかけに、ロゥアリーは首を横に振る。
見ることのできる未来は、いくつかの分岐点がある。AのパターンがあったりBのパターンがあったり……
でも、見た未来が変わったパターンは、これまでにないらしい。
「単純な話、"こんなに早く現れる未来"を予見してなかったってだけじゃねえのか?」
「……わかりません。ですが……」
「うん。目の前で起こってることが、現実だ」
ここで、ガローシャの未来予見についてあーだこーだ言っていても仕方がない。
なんにしても、目の前で起こっていることがすべてで……私たちのやることは、変わらない!
「二人とも、相手はどこから来るかわからないから……」
「は、はい!」
「わかってらっての!」
すでにガローシャの見た未来から外れた以上、エレガたちが現れるとしていつ現れるのかは、わからない。
そのため、私たちは臨時戦闘態勢に。といっても、いつ現れるのか……本当に現れるのかわからない相手を待つのだから、限界まで緊張感を高めてはいられない。
それだと疲れてしまうし……
『契約者よ』
「ん? クロガネ?」
ふと、クロガネの声が頭の中に響いた。
『来るぞ、邪悪な気配が』
「邪悪、って……」
この魔大陸自体、私たちにとってはあまりよくない環境だ。だから、わりとなんでも悪いもののようには思えるけど……
クロガネが、邪悪って言うほど邪悪なもの……!
「まさか……!」
自然と私は、空を見上げていた。
私のいた場所、青空とは全然違う、紫色の空。
その、空に……まるで、ヒビが入るように。亀裂が生まれ、それはどんどん大きくなっていく。
あんなの、普通じゃない。間違いない、あれは……
「ははぁ、ここが魔大陸か! おぉいるいる、魔族ども。こいつら全部皆殺しに……」
「クロガネぇ!」
「グォオオオオオオ!!!」
「……は?」
姿を見せたのは、白い魔獣。それも、一体や二体だけじゃない。
しかも、その背中に誰かが乗っている。
聞き覚えのある、男の声……だけど、それが誰かを確認する前に、私は行動に移した。そして、クロガネもまた。
クロガネの放つ、強力な竜魔息が……現れたばかりの魔獣へと、直撃した。
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