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第六章 魔大陸編

385話 戦争のある国

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「……私……」

 ダークエルフは、魔物を引き寄せる体質を持つ……それを聞き、ダークエルフであるルリーちゃんの顔色は、青くなっていた。
 本人も、知らなかったのだろう。まさか、自分にそんな体質があるなんて。

「なんだ、てめーのことなのに知らなかったのか」

 と、どうやらラッへは知っていたらしい。
 そんな重要な情報を持っているなら、魔大陸に来てしまった時点で教えてほしかったけど……

 私もルリーちゃんも、知らないとは思わなかったんだろうな。

「白々しい! ダークエルフなんぞがいると、魔物が集まるんだ! 失せろ!」

「……」

 この、魔族たちめ……さっきから聞いてれば、勝手なことを。
 確かに、魔物を集める体質は、普通の人からしたら迷惑なものなのかもしれない。だけど……

「お前たちは、そもそも魔物を捕まえて操ろうとしてるじゃないか。魔物が集まるのくらい、むしろ願ったりだろ」

「っ、それは……」

 こいつら……矛盾してる。
 なんかそれっぽい理由をつけて、結局はダークエルフを遠ざけたい……ただ、それだけなんだ。

 ……魔族にも、ダークエルフは嫌われているのか。

「別に私たちはこれ以上近づくつもりはないよ。それより、話がしたいんだけど」

「人質の首に手ぇ当てながら言うことかね」

 とりあえず、魔族にも仲間意識はあるようで、安心した。
 私が締め上げている、気絶している魔族。それを見て、とりあえず敵意が沈んでいくのを感じる。

 私だって、魔物が群がってくるというのならここにずっといるつもりはない。

「あの魔物たちは、なんで一つの場所を目指して走っているの。
 あなたたちは、なんで魔物を従えようとしているの」

「……お前らには関係のないことだろう。だいたい、魔物の行く先なんて俺たちも知るかよ」

 ……一応、さっきクロガネを通じて、鳥型の魔物に聞いてはみた。同じ魔物だし、あの魔物たちが向かっている先……人のいる大陸を目指しているのは、なぜなのか。
 その結果は、わからない、だった。

 どうやら、魔物の暴走スタンピードってやつは、自分の意思とは関係なくただ荒ぶる本能に、突き動かされるらしい。
 つまり、暴走中はなにも考えず、その間の出来事は魔物本人も覚えていない。

 そんな中で、あの"隷属の首輪"がハメられた。あれをハメられたせいで、魔物は意思とは関係なく従ってしまうけど……それは、自らを押しつぶす本能を打ち消すものでもあった。
 つまり、あの首輪のせいで操られはしたけど、暴走からも解放されたってことだ。

 だから、今鳥型の魔物は自我を取り戻している。

「ちっ、役に立たないな。じゃ、もう一つの質問は」

 魔物の暴走の原因が、魔族にならわかるかとも思ったけど……期待外れだったみたいだ。
 ならば、もう一つの質問を聞く。なんで魔物を従えようとしているのかだ。

 それを受けた魔族は、少し口をつぐんで……

「他国との戦争に、勝つために決まってるだろ」

 と、言い放った。
 その、物騒な言葉に私は……ルリーちゃんも、ラッへも、眉をひそめた。

「戦争……」

「そうだ。俺たちの国は、他国に比べて規模が小さい……だからこそ、魔物を従えれば、勝つことも難しくなくなるのだ!」

 国同士の戦争……か。そういう話、師匠から聞いたことがある。
 ベルザ王国は、戦争とは無縁の国……と言われている。でも、他の国はそうではない。貧困、領地の拡大、力の誇示……いろんな理由から、人は戦争を起こす。

 それが、この魔大陸でも起こっているってことか。

「じゃあ、この殺風景な国にも、ちゃんと国はあるんだ……」

「ちっ、バカバカしい。戦争だなんだ勝手にやってろっての。私には関係ねえこった、行こうぜ」

「で、ですけど、魔物を止めないと、このままじゃ……」

 そう、ラッへの言うように、魔族のいざこざに巻き込まれるのはごめんだけど。ルリーちゃんの言うように、魔物を放っておけばいずれ人のいる大陸に進行する。
 放っておくわけにも、いかない。

 魔物たちを止めるには、魔族に混じって魔族を倒すのがいいんだろうけど……
 魔物を従わせようとしている奴らに手を貸すっていうのもなぁ。

「っ、ていうか、さっさとどうするか決めろ! さっきから、空からの襲撃がうざってえんだよ!」

 ラッへが、叫ぶ。さっきから、空からの魔物に襲われているためだ。
 理由は、ルリーちゃんが魔物を引き寄せているから、というところだろう。

 ラッへはなんだかんだ言いながらも、協力してくれている……のとは別に。
 単に、移動手段がクロガネしかいないから、自分一人では動けないわけだ。この魔物が闊歩する空間を、一人で歩けるはずもない。

「私は、魔物の暴走を止めたい。で、魔族には魔物に手を出さないでほしい」

「なんだと!? 我々の事情もよく知らないような奴に、指図される覚えは……」

「グルルル……!」

「……」

 クロガネの威嚇は、魔族を黙らせるのに最適だ。
 魔族は理性がある分、力で黙らせられる。問題は、魔物のほうだ。

 この鳥型の魔物みたいに、一旦隷属の首輪をハメて、すぐに壊せば自我を取り戻せるかもしれないけど……それだとかわいそうだし、この数相手にどれだけの時間がかかるか。
 そんなときだ。

『契約者よ、ワレにいい案がある』

 と、クロガネが力強い言葉をくれたのだった。
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