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第六章 魔大陸編
373話 ドラゴンさんはおこかもしれない
しおりを挟む私の中に流れ出した、ドラゴンの魔力。
これは、相性のいいモンスターとの間に起こる、現象らしい。つまり、このドラゴンは、私の使い魔としての相性がとてもいい、ってことだ。
倒れた魔族を見下ろして、私は小さく息を吐く。
「……てめえ、なんなんだしの力は。それに、その髪も……あ、戻ってら」
「髪?」
近寄ってくるラッヘが言う言葉が、私にはよくわからない。
さっき魔族も言っていたけど、髪髪って、なんのことだよぅ。
「エランさん、さっき髪の色が、白く変化していたんですよ」
わかっていない私に、ルリーちゃんが説明してくれる。
髪の色が……白く、だって?
「そうなの?」
「今回だけじゃねえ。魔導大会でのDブロックの戦い。それに決勝でも、一瞬だがその姿になってた」
「マジでか」
ルリーちゃんもラッヘも、そう言うのなら間違いじゃ、ないんだろうけど……
でも、信じられないな。髪の色が、変わるなんて。
……あ、でも思い当たることはあるかも。Dブロックの戦い、途中から妙に気分が高揚してたんだよね。
今だって、そうだ。魔族を相手にして、ぴりついた状況だった、はずなのに。
気分の高揚、なにか関係があるんだろうか。
「髪がどうのっていうのは、わからないけど……
今は、ドラゴンの魔力が流れ込んできたんだ。もしかして、それが関係しているのかも」
「ドラゴンの魔力だぁ?」
これも、推測でしかないけど……ドラゴンの、強大な魔力が流れ込んできた。
その影響で、私の中で飛躍的に魔力が上昇して、見た目にも変化が表れた、とか。
それに……あのときも、今も、気持ちが高ぶっていたような、気がした。
『汝……名ハ、ナント言ウ』
「へ?」
ふと、頭の中に流れ込んでくる、ドラゴンの声。
いきなり来るから、びっくりしちゃうなぁ。
えっと、名前を聞かれた、のかな。
「え、エランだよ。私の名前は、エラン・フィールド」
名乗ってから、ラッヘの前で堂々とこの名前を名乗ってよかったのか、気になったけど……
ラッヘは、気にした様子はない。
『エラン、カ……ワレノ魔力ヲ吸イ上ゲ、己ガ魔力ニ変換シタ』
「あ、それは……」
それは……そうだよな。ドラゴンにとっては、いきなりわけのわからない小娘に、自分の魔力を吸い取られたんだもんな。
そりゃ、不機嫌に……いや、怒っても仕方ないよね。
責められたら、甘んじて受けよう。その上で、全力で謝ろう。
そう、決意を固めて……
『エランヨ、ワレト戦エ』
「うん、ごめんなさ……ぁえ?」
まずは謝ろう。そう思って、いたのだけど……
言われた言葉は、予想外のものだった。
いや……これは、あれか。俺の魔力を奪ったのだから、体で償え的な!
消し炭にしてやるまで、弄んでやるぞ的な!
『ナゼ、震エテイルノカ分カラヌガ……
汝ノ、力ガ知リタイ』
「私の、力?」
どういうことだろう……戦いは戦いでも、殺し合いではない?
これは……学園での、決闘に近いかもしれない。
私の力を見たい、だから戦え。なにがどうして、そんな話になるんだ?
「あの、エランさん?」
「なに一人でぼそぼそ喋ってるんだ、気持ち悪い」
ルリーちゃん、ラッヘ……そっか、二人には、ドラゴンの声は聞こえないんだもね。
一人で喋ってたら、私変な子だと思われちゃう。
『恐ラク、口ヲ開カズトモ頭ノ中デ念ジレバ、言葉ハ伝ワル』
わざわざありがとう、ドラゴンさん。でももう少し早く知りたかったな。
「あの、ね。ドラゴンに戦いを挑まれたの。いや、決闘、なのかな。
私の力が、見たいとかで」
「はぁ!? なにがどうして、そんな話になるんだ!?」
わぉ、ラッヘナイスリアクション。さすが同じエランという名前を持つ者同士。
……って、言ってる場合じゃないよね。
そうだよね、なんでこんなことになっちゃったんだろうね。
「でも、戦いったって、私にはそんなことする理由は……」
『汝ハ、強者トノ戦イヲ望ンデイル節ガアルノデハナイカ?
ワレ自身、強者ナドト自惚レルツモリハナイガ、汝ノ望ニハ叶ワヌカ?』
「……!」
こ、このドラゴン、なんてことを……
私は、強い人と戦ってみたい。だから魔導学園に入学したし、魔導大会にも出場した。強い人と戦うことは、私の望みだ。
このドラゴン……よくわかってんじゃん!
『ソレニ、確カメタイコトモアル』
「?」
やばい、こんな状況なのに……ワクワクしてきた!
「ルリーちゃん、ラッヘ。ちょっと待ってて。私……」
「え、もしかしてエランさん……」
「あぁ? なにを言って……おい、てめえまさか!」
あぁ、ルリーちゃんとラッヘも、私が考えていることが、わかったみたいだ。
二人には背を向けているけど、多分今の私、めちゃくちゃ笑ってるんだろうなぁ。そんな顔見せられない。
「あ、でも……」
そこで、一つ思い出す。
「この魔大陸じゃ、私存分に魔力が使えなくて……全力で、いけないかも」
この環境では、魔術はもちろん、魔法も満足には使えない。
っそんな状態で、ドラゴンと戦うのも、どうなんだろう。
『ソノ程度、問題ナイ』
だけど、私の心配など、お構いなしだと言うように……ドラゴンは、天を仰ぐ。
そして、「ゴォオオオ……」と、軽く吠えた。
……すると、なんだか体が、楽になったように感じた。
『コノ結界ノ中ナラバ、汝ノ全力ガ出セルダロウ』
「わ、結界? すごい」
体が軽くなった理由。それは、周囲に張られた結界によるものだ。
うん、体は軽いし……魔力も満ちている。精霊さんの気配も、強く感じる。
こんなすごい結界を、あのドラゴンが……
……すごい!
『他二、ナニカ心配事ハアルカ』
「ううん……充分だよ!」
これはもう、やるしかない! だってこんなに体が軽いんだもん、仕方ないよね!
ごめんルリーちゃんにラッヘ! ちょっとだけ待ってて! でもその間休憩できるし、ウィンウィンだよね!
ルリーちゃんは、苦笑いを浮かべ。ラッヘは、あきれたようにため息を漏らしていた。
どっちも、こりゃだめだ……と思っているようだった。
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