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第六章 魔大陸編
372話 共有する魔力
しおりを挟む……ドラゴンの魔力が、私の中に流れ込んできている。
だから、体が軽いし……体内が、満ち満ちている感覚がある。
それに、自分のものではない魔力の存在って言うのは、なんだか初めての経験だ。
……悪くない。
「ちっ……まさか、そのドラゴンと契約を……!?」
魔族は、殴られた顔面を押さえつつ、指の隙間から私をにらんでいる。
その言葉に、私は首を傾げる。ドラゴンと契約、なんのことだろう。
そこまで考えて……ふと、昔のことを思い出した。
あれは、いつだったか……師匠が、使い魔について、教えてくれたとき……
『使い魔というのは、基本的には召喚魔術で、呼び出したモンスターと契約を結ぶ形になる。
だが、稀に……召喚魔術を介さずに、使い魔契約を行えるモンスターもいる』
『ほぇー』
『これはまあ、単純に相性の問題だな。自分と相性のいいモンスターを見つけることができれば、双方の合意の下で、契約を結ぶことが可能だ』
『自分とあいしょーのいいモンスター……どうやって、それがわかるの?』
『それは、会えばわかるさ。
使い魔と術者は、視界を共有できるって話はしたが、共有できるのはなにも視界だけではない。魔力もだ』
『魔力を、きょーゆー?』
『そう。なんて言えばいいのか……お互いに、感覚がリンクして、こう、お互いが繋がっているのが話kる、と言うか……
とにかく、相性のいいモンスターとは、勝手にそんなことになる状態がある。だから、その現象が起きたら……』
そのモンスターを逃してはダメだ……そう、師匠は言っていた、
相性のいいモンスターと、繋がっているような感覚……体の中に感じる、ドラゴンの魔力……もしかして、これが!
師匠の言っていたこと……
じゃああのドラゴンが、私の……!?
「もしそうなら……なんだろう、すごいゾクゾクする」
これまで、魔導士が使役する使い魔は、たくさん見てきた。
魔導大会が、まさにそうだ。みんな、いろんな使い魔と戦っていた。
でも、師匠を除けば初めて見た、使い魔……ゴルさんの……ゴルドーラ・ラニ・ベルザの使い魔、サラマンドラ。
あれを越える使い魔は、見たことがない。
このドラゴンは、サラマンドラよりも、もっとすごい……
「おい、なにをぶつぶつ言っているんだ!」
……とにもかくにも、今はこの状態を、どうにかしないとね。
激昂した魔族は、三本の腕を私に向けて、伸ばす。あの大きな腕、伸びもするんだ。
両肩と、背中から伸びている腕……もしかしたら、まだ他の場所からも、腕が出てくるかもしれない。
注意しとかないと。
「握り潰してやるよ!」
「……遅いな」
ただ、注意しようにも……迫ってくる腕の速度が、異様に遅い。こんなの、避けてくれと言っているようなものだ。
だから私は、その場から前進して……迫る腕を避けるように、走る。
「!?」
二本を避けたあたりで、魔族の表情が驚きに変わった。なにを驚いているんだ。
また避けるのも芸がないので、三本目は手のひらで受け、弾く。
瞬間、弾かれた魔族の腕が、パンッ……と割れた。
なんだ、これ……丸太みたいな腕なのに。見かけ倒しか。
まあ、いっか。ルリーちゃんを握り潰そうとしたんだ、自業自得だよ。
「っ、ぎ、ぁあああああぁあ!?」
魔族が、叫ぶ。それは、さっきのドラゴンが放った威嚇の方向とは全然違って……
ただ痛みを訴える、叫びだった。
「大袈裟だなぁ」
あんな見かけ倒しのもの、割れたくらいでどうってことないだろうに。
もしかして、痛みを訴えることで私を油断させようとしているのかな。
確かに、魔族とはいえ子供の姿で痛みを見せつけられるのは、少しだけ心が痛むな。
「くそ、人間が!」
怒りに表情を変えた魔族は、大きく口を開き、そこから何発もの魔力弾を放つ。
口からなんて、ドラゴンの真似事か? ……まあ、なんでもいいか。
なんだか、今ならなんでもできる気がする……だから私は、右拳に魔力を集中させ、迫る魔力弾をぶん殴った。
その瞬間、炸裂した魔力は、爆発する。
「エランさん!」
「くっ、あっはははは! 馬鹿が! 自分から爆発に突っ込んでいきやがった! 自らの浅はかさを呪え!」
「……きっひひ」
爆煙を、抜ける。その先には、魔族の顔があった。
間近で、私の顔を見た魔族は……さっきまで高笑いを浮かべていたのに、だんだん怯えたような表情になった。
まったく、人の顔を見てそんな反応、失礼しちゃうよ。
「な、なんで……傷一つ、ついてな……っ!」
「きっひひひひ! なんでだろーね!」
魔族の額に、思い切り頭突きをくらわす。ガンッ、と、まるで石頭だ。
なんであの爆発に突っ込んで無事なのか、私にもわからない。無意識的に、魔力で全身を守っていたのかも。
まあ、いいや……なんかすごく、気分がいいし!
「ん、りゃあ!」
「がふっ……!」
魔族の顔をわしづかみして、そのまま地面に叩きつける。
後頭部を打ち付けた魔族は、そのまま動かなくなった。
やられたふりをしているのかもしれないと思い、私はもう二、三回、後頭部を地面に叩きつける。
「え、エランさん! やりすぎです!」
「え……あ」
ガンッ、と、四回目が打ち付けられた。
手を離すと、魔族は白目をむいていた。
これで、倒せた……ってことかな。動かなくなった魔族を突っつく。
……うん、動かないな。
すごいな、これがドラゴンの魔力の力か……そして、私の使い魔かもしれない、モンスター?
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