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第六章 魔大陸編

364話 ここで謎の果汁をひとなめ

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 さて、魔大陸のとある村で、木の実を発見。
 誰も見つけることはできなかったため、この村で得たものはこれだけと言える。

 紫色の、木の実。外だけでなく、中も、果汁すらも紫色なのだ。
 正直、食欲は失せつつある。

「じゃ、実食よろしく」

「正気!?」

 ラッヘめ、本気で私を毒味役にするつもりだな!
 これでもし死んじゃったら……あぁいや、ラッヘ的には私が死んでも問題ないのか。

 いやいや、でもまあ、たとえばこれが毒だったとしても、ちょっと食べたくらいで、死にはしないでしょう。
 ……死なないよね?

「わ、私が味見します」

「ルリーちゃん!?」

 むむむ、と木の実とにらめっこしていると、はい、と手を上げるルリーちゃん。
 さらには、自分が味見をするなんて、とんでもないことを言い出した。

 わ、私が悩んでいたせいで、ルリーちゃんが……!

「なるほど……その方が効率がいいかもな」

「効率ってなにさ!?」

 ラッへが、なにかに納得したかのように、つぶやいた。

「ダークエルフってのは、毒に耐性があるって聞いたことがある」

「え……そ、そうなの? それホントに?」

「きったねえ魔力を好む奴らだからな、毒も平気なんだろ」

「言い方!」

 ふむ……ダークエルフは、私やエルフにとってよくない環境でも、活動に問題はないらしい。
 ならば、私たちが毒と感じるものも、毒とは感じない……のか?

 ……いや、そんな簡単に考えちゃっていいのか?

「毒に平気って、どういう理屈よ」

「知るかよ、そういう種族なんだから」

「エランさん、私、大丈夫ですから」

 本当にダークエルフは、毒が平気なのか……心配になるけど、ルリーちゃんはやる気みたいだし。
 ここは、ルリーちゃんを信じて託すしかないか。他に手立てもないわけだし。

「でも、大丈夫? もし毒にあたっても、今精霊さん不調だから、回復魔術は使えないかも……」

「安心してください、大丈夫ですから」

 なにを持って大丈夫なのか……もしかしたらルリーちゃんは、以前に毒を口にしたことがあるのかもしれない。
 今はただ、ルリーちゃんの笑顔を信じることにしよう。

 ここであーだこーだ言い合っていても仕方ないし……いざとなれば、私は自分の魔力を消費してでも、ルリーちゃんを助けよう!

「では、行きます。
 ……ペロッ…………こ、これは!」

 木の実の断面から流れる紫色の果汁、それをルリーちゃんは指で掬い、ぺろりと舌で舐める。
 あのくらいならば、害ある食べ物であっても問題ないはず……多分。
 そもそも、あの程度で毒だとわかるんだろうか、ってのは置いておこう。

 果汁をぺろりと舐めて、舌先で味わったあと……ルリーちゃんは、カッ、と目を見開いた。
 な、なんだろうその反応……毒か? やっぱり毒だったのか?

「お、おいしい! おいしいです!」

「!」

 興奮した様子で、ルリーちゃんは話す。
 その表情は、嘘を言っているようには見えない。それに、嘘をつく子でもないしなこの子は。

 だとすると……これ、本当においしいのかな。

「エルフ族の味覚は、人とそう変わらないみたいだし……てめえにも食えるってことだな。よかったな」

「なにナチュラルに私にだけ食べさせようとしてんの!?」

 ラッへめ、まだ毒と疑っているのか……自分はまだ、手を付けようとはしていない。
 ……まあ、いいか。ルリーちゃんがおいしいと言った以上、それを疑う理由なんてないしね。

 そんなわけで、私も流れる果汁を指で掬い、ぺろり。

「んん……あ、確かにおいしい。ちょっと甘くて、不思議な感覚」

「でしょう?」

 うん、紫色の毒々しい色をしているから、食べるのを躊躇していたけど……普通においしいな、これ。
 思っていたよりもってのもあるし、なにより水分も補給できるのがいい。

 私たちの反応を見て、ようやくラッへも、木の実を口にする。
 三人揃って、木の実の果汁を掬い取り、ペロペロしている構図。多分、よそから見たら頭のおかしな集団に見えていることだろう。

 ま、それはともかくとして。果汁がおいしいのなら、果肉を食べちゃっても問題ないだろう。さくっと切り分けて、食べる。

「うん……結構イケる」

「なんというか、歯ごたえがありますね……ほんのりと甘みがあって、噛むと果汁が口の中に溢れちゃいます」

「魔大陸も、なかなかやるじゃねえか」

 この木の実、どうやらアタリだったみたいだ。
 ただ、周辺には木も生えていないのに、どうしてこんなものがあるのか、そこは疑問だけど。

 両手で抱える大きさだったから、三人で分けても充分な量があった。
 これなら、わりとお腹も膨れて……


 キィ……


「!」

「……気づいたか」

「うん」

 食事の最中……かすかに聞こえた、足音。床が軋む音が、耳に届いた。
 扉は開けっ放しだったから、誰かが入ってこようと思えば、普通に入ってこれる。問題は、その人物の目的だ。

 相手は、十中八九魔族。それはいい。
 問題なのは、なんで足音を忍ばせるように歩いているのか、だ。そもそも、家の中に見知らぬ人がいたら、驚いて声を上げるはず。

 なのに、私たちに気づかれないように、家の中に入ってきた。だとしたら、目的は……

「……誰だ!」

 背後から、襲われる……その可能性が、高かったから。
 私は振り向くと同時に、背後にいた人物へ、杖を突きつけた。魔力はあまり消費したくないけど、この距離からならば弱めの攻撃でも問題ない。

 杖の先に、いたその人物……軽く睨みつけるように、見た。

「……こ、ども?」

 そこには、一人の……小さな、男の子が怯えたように、立っていた。
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